本記事は、和田耕太郎氏、堀江大介氏の著書『ポストコロナのキャリア戦略 経営×ファイナンス』(ロギカ書房)の中から一部を抜粋・編集しています

M&Aや事業再生、事業投資は「経営×ファイナンス」の“総合格闘技”だ

M&A
(画像=PIXTA)

ここでは、「経営×ファイナンス」能力が身に付きやすい業界としてM&A、事業再生、PEファンドという3つの業界をご紹介します。

この3つの業界の特徴は、それぞれ身に付く能力に長短はあるものの、経営の多様な要素を統合的に学べるところにあります。

例えばM&Aであれば、対象事業が属する業界構造、ビジネスモデル、業界におけるポジショニング、強み、弱みなどを俯瞰して理解できなければ、どのような買い手あるいは売り手とマッチングするかわかりません。また、M&Aの実行フェーズに入れば、財務、法務、税務、労務などの多様な論点を各種専門家と協力しながら見える化し、株主、経営者、金融機関、取引先、従業員などの立場と利害を理解し、落しどころを見つけるという非常にタフなネゴシエーション能力が求められます。まさに経営×ファイナンスの総合格闘技といっていいでしょう。

1つの分野を極めれば良いというものではなく、状況に応じて、さまざまな要素を自由自在に組み合わせる「総合力」が欠かせません。

事業再生も“総合格闘技”の要素が満載です。詳しくは後で述べますが、事業再生は、経営業績が悪化・低迷し、そのまま放置していたら死に絶えそうな企業の事業および財務を再構築することで、事業の再生を図る仕事です。

財務の再構築にあたっては、会計帳簿をはじめとする膨大な資料を洗い直し、決算書を補正したうえで、金融機関に対して債務のカットや弁済期のリスケジュールなどを提案しながら、収益力のある事業を再構築していきます。したがって、広い意味での「資金調達力」を含めた高度なファイナンス力、支援先の担当者とコミュニケーションを取りながら客観的な情報を生み出す力が不可欠です。

また、事業の再構築では、経営者の視点に立って、営業損益の改善、債務超過の解消に向けた施策を計画するわけですが、1つの企業を立て直すというからには、財務と事業双方の観点からビジネス全体を構想する力が欠かせません。

PEファンドが行う事業投資についてはどのように考えればよいでしょうか。ここでいう「事業投資」とは、金融機関や事業会社、個人投資家などから預かった資金によって買収(M&A)した会社の企業価値を、各種経営支援により高めたうえで、他社に売却あるいは株式公開することで収益を獲得する一連の業務を指します。

PEファンドの仕事は、会社の株式の取得・売却を行う点ではM&A、経営支援を行うという点では事業再生や経営コンサルティング業務と重なります。また、ある時は株主という立場で、またある時は自分たちが経営を担い事業を成長させるという立場では、まさに「経営×ファイナンス」の“総合格闘技”であり、さまざまなステークホルダーをマネジメントし、最大限の力を発揮させるという点では、事業の総合プロデューサーともいえる仕事です。

M&Aにせよ事業再生にせよPEファンドの行う事業投資にせよ、扱うものは一人の人間が創業し、人生をかけて育て上げてきた事業そのものです。会社の命運を左右する経営の決断に関わる仕事であり、そこには人間の魂が込められています。だからこそ、前章でお話した深みのある「人間力」や「コミュニケーション能力」が仕事を通じて磨かれていくのです。

また、案件の発掘(ソーシング)から成約まで数年単位の時間がかかるものもありますから、長丁場の交渉事をやり切る「胆力」、「グリット力」も欠かせません。

ポストコロナのキャリア戦略 経営×ファイナンス
和田耕太郎(わだ・こうたろう)
早稲田大学を卒業後、野村證券にて資産運用業務、米国ゼネラル・エレクトリック(GE)の金融部門であるGE Capital にて国内中堅企業向けの資金調達業務に従事した後に、国内独立系ファンドである日本創生投資にて主に事業承継・再生に関するバイアウト投資に従事。現在は製造業のM&Aを推進するセイワホールディングスにてM&A担当の執行役員を務め、多くのM&Aを実行するとともに、グループ会社の経営を行っている。また、知人と共に投資ファンドの立ち上げも進めている。
堀江大介(ほりえ・だいすけ)
大学卒業後、野村證券、ITスタートアップ、コンサルティング業界専門の人材紹介会社を経て、経営×ファイナンス領域(M&A・事業再生・ファンド業界)やプロ経営者専門の転職支援会社ヤマトヒューマンキャピタル株式会社を創業。これまで200名以上の方を同業界に支援した実績をもつ。また、事業承継問題の解決には投資資金に加え「経営人材」を輩出するエコシステムが必要だという問題意識から、2018年に一般社団法人日本プロ経営者協会をPEファンドパートナーと共同設立、代表理事に就任し、現在に至る。

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