本記事は、和田耕太郎氏、堀江大介氏の著書『ポストコロナのキャリア戦略 経営×ファイナンス』(ロギカ書房)の中から一部を抜粋・編集しています
ファイナンス力は座学と実戦で磨く
ここでは「ファイナンス力」についてお話してみたいと思います。
「ファイナンス力」を構成する要素としては、財務三表である貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の数字の経営的な意味を読み解いたり、財務三表を分析して経営改善の提案を行ったりする「係数理解力」「財務会計力」、数値的な事業計画や財務モデルを構築する「エクセル力」、企業の資金を適切にマネジメントする「資金調達力」が挙げられます。
「ファイナンス力」の基本的な部分は座学、すなわち書籍やインターネット、動画などで学ぶことができます。「ファイナンス」の課題には多くの部分では学問的な答えが用意されており、決まった手順を確実に踏めば正解にたどり着くことができますし、勉強すればするほど知識を増やすことができます。また、ファイナンスはビジネスパーソンが興味を持っている分野だけに、優れた書籍や学習方法も数多く存在していますので、「経営」に比べて自主的に鍛えやすい分野といっていいでしょう。
〈参考書籍〉
・財務3表一体理解法(朝日新書) 国貞克則 ファイナンスの基本となる財務3表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)の繋がりが理解できる名著。金融機関やPEファンド従事者の多くがこの書籍を活用している。
・MBAバリュエーション(日経BP実戦MBA2) 森生明 会社の値段の決め方の基礎が学べる本。本書で基礎的な考え方を学んだ後に実務を行うことにより、バリュエーションが使える力となっていく。
・道具としてのファイナンス(日本実業出版社) 石野雄一 エクセルを活用した実践的なファイナンスの入門書。現在価値の考え方や、投資評価などの基礎を一通り学ぶことができる。
・会社売却とバイアウト実務のすべて実際のプロセスからスキームの特徴、企業価値評価まで(日本実業出版社) 宮崎淳平 M&Aの実務に関して基礎から応用まで網羅的に学べる本。特に、M&Aや投資ファンド実務に携わる方には必読の名著。
・起業のエクイティ・ファイナンス──経済革命のための株式と契約(ダイヤモンド社)磯崎哲也 ベンチャーやベンチャーキャピタルといった少し違う視点からのファイナンスが学べる他、投資ファンドの契約やストラクチャーも学べる名著。
・日本のLBOファイナンス(きんざい)日本バイアウト研究所 LBOファイナンス(企業買収のための融資)に関して基礎から応用まで最も詳細に学べる本。レンダーとボロワー両者の視点から書かれており、現役で実務に従事する方々の声も多く載っており参考になる。
・ファイナンシャル・モデリング(ロギカ書房)サイモン・ベニンガ 財務モデリングの古典的な名著。欧米のビジネススクール等で用いられている。重厚感がある本だが、内容は基礎から積み上げていく形であり、エクセルでの学習がメインであるため実践的である。
ただし、座学だけで「ファイナンス力」を経営の現場で“使いこなせる”かといえば、限界があります。
財務三表に関する理論や決算書の読み方に関する理論は比較的シンプルで、自学自習で一定のレベルまで習熟するのはさほど難しいことではありません。とりわけ金融機関でキャリアを積んできた方は、与信や資金調達関連業務の経験も豊富でしょうから、数字を読む力に自信をお持ちの方も多いと思います。ただ、経営に近い実務でアウトプットをする経験を積まなくては、経営のどのような側面でその数字が使われるのか、数字が経営的に何を意味しているのかをイメージできません。
また、経営改善に取り組む際は、数ある経営指標のどの数字をいじれば、会社全体の業績を大きく変化させることができるのか。経営業績にインパクトを与える「ドライバー」をいち早く発見し、「もう少し営業に力を入れよう」「仕入れを見直せば、業績がこれくらい上がるのではないか」「販管費は常識的に考えてもう少し減らせる」といった提案が求められますが、「ドライバー」は業界によって勘所が異なるうえに、一社一社でも異なります。
こうした知見は、実戦を経験するなかで少しずつ獲得していかなければなりません。その意味でも「経営×ファイナンス」能力を最大限に発揮できる分野にいち早く飛び込み、経験を積むことが求められるのです。
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