本記事は、和田耕太郎氏、堀江大介氏の著書『ポストコロナのキャリア戦略 経営×ファイナンス』(ロギカ書房)の中から一部を抜粋・編集しています

M&A業界へのキャリア戦略

M&A
(画像=PIXTA)

M&A支援会社もかなりのプレーヤーの数が出てきましたので、外から見ていると会社の違いが見えにくい業界です。本書では転職を検討される際に見るべきポイントに絞り話を進めます。

M&Aアドバイザリー or M&A仲介

大きな区分けとしては、買い手か売り手の片方につきクライアントの利益の最大化を図るファイナンシャルアドバイザリー(FA)モデルなのか、買い手と売り手の間に入りM&Aを成功に導く仲介モデルなのかというポイントがあります。それぞれのキャリア上のメリットデメリットは第3章を参照してください。

さらに、FAとM&A仲介業界の中でも特に注視いただきたい業界ポジショニングとそれぞれの採用ターゲット、その後のキャリアについてお話します。

ファイナンシャルアドバイザリー(FA)

【業界内の比較ポイント】

◆クライアント規模

ファイナンシャルアドバイザリー(FA)業界の中でも投資銀行や大手監査法人系FASのFAチームが行う大企業向けのM&A支援なのか、中小・中堅企業向けなのかで働く環境や学べることが大きく異なります。同じFAの中でもどのような案件のサイズがボリュームゾーンなのか調査するようにしましょう。

◆FA案件獲得型(狩猟民族)かDD受託型(農耕民族)

FAの中にも投資銀行のカバレッジチームのような自らM&Aを創出することを得意とするファームもあれば、ファンドや商社などよくM&Aを行う会社からの財務DDや片側FAの依頼を受けてエグゼキューションを行うことが得意な受託型のファームに分かれます。

◆総合アドバイザリーファームかM&A専業か

FAの中でもGCA株式会社のようなM&A専業のブティックファームもあれば、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社などのBIG4系のFASのように、FAを行いつつ財務DD、バリュエーションの受託案件や、事業再生、IPO支援など非M&A業務も含め全てに対応する総合型のファームなのか。また多様なソリューションの中でもどのチームが本流なのかなど、力関係や協力体制はチェックした方がいいでしょう。

◆金融機関系列

大手金融機関グループの投資銀行であれば、M&Aアドバイザリーと市場からの資金調達(PO、債券発行)を同じ会社が対応できるので提案上有利な点があります。またグループの銀行から融資を受けているからM&Aも御グループに任せるというようなもちつもたれつの関係を作れる点から、非常に案件を獲得しやすい場面もあるかと思います。一方で、「今資金調達の提案をしているからM&Aの提案は後にしろ」というような世横やりが入るケースなど、グループですでに取引があるからこそ発生するしがらみもあるでしょう。

【採用ターゲット】

会社によってまちまちですが、何らかしらのM&A、ファイナンス業務経験を有する方がメインのターゲットです。未経験であっても会計士や税理士の資格、または銀行(融資、プロジェクトファイナンス経験者)、戦略コンサル、総合商社などにおられた方が入社されているケースもあります。

【ポストキャリア】

ポストFAのキャリアはPEファンドや事業会社のM&A担当といったバイサイドポジションあるいは、M&Aに積極的なスタートアップのCFOなど非常に魅力的なポストが用意される可能性があります。また、中堅FA⇒大手FA、大手FAS⇒投資銀行など業界内の横移動も非常に多い業界です。

M&A仲介

【業界内の比較ポイント】

◆クライアント規模

M&A仲介の中でも相対的な大きな規模である譲渡価格5~10億円程度の中堅・中小企業の案件に注力している会社なのか、1億円程度の中小・零細企業の案件を中心に狙っている会社なのかで、働き方や身につく能力に差があります。

◆M&A仲介案件のソーシング方法(提携先紹介、セミナー、DM→テレアポ、ネット)

仲介業界はいかに有望な売り案件を獲得するかで躍起になっている業界であり、その手法の違いが各社のポジショニングや給料制度を決めています。案件獲得方法の割合は必ず確認するようにしましょう。

◆賞与還元率と成果の出しやすさ

M&A仲介業界の獲得収益における賞与、インセンティブ還元率は各社大きく異なりますので確認が必要です。一方で意外と見落とされがちなのが、成果の出しやすさは環境によって大きく差があるという点です。1億円の手数料を稼いだ際の賞与還元率が10%なのか15%なのかは非常に大きな差ですが、その1億円の収益を上げやすい環境なのかどうかの方がより重要でしょう。

【採用ターゲット】

M&A仲介会社の評価ポイントは、経営者など意思決定者への提案力と交渉力、多様なステークホルダーをまとめ上げる調整力とマルチタスク能力、会計・税務・法務などの知識を広く学び理解できる一定の地頭などです。未経験者採用が積極的な業界ですので営業能力が高く、経営者との交渉事が得意な方であれば「経営×ファイナンス業界」への入り方として最も間口が広いと言えます。

【ポストキャリア】

M&A仲介会社は非常に高額の年収を稼げる可能性のある業界ですので、それを求めて同業内で転職する方も多い業界です。異業界ですと、スモールキャップのPEファンドや事業会社のM&A担当、あとは独立される方も非常に多いです。

ポストコロナのキャリア戦略 経営×ファイナンス
和田耕太郎(わだ・こうたろう)
早稲田大学を卒業後、野村證券にて資産運用業務、米国ゼネラル・エレクトリック(GE)の金融部門であるGE Capital にて国内中堅企業向けの資金調達業務に従事した後に、国内独立系ファンドである日本創生投資にて主に事業承継・再生に関するバイアウト投資に従事。現在は製造業のM&Aを推進するセイワホールディングスにてM&A担当の執行役員を務め、多くのM&Aを実行するとともに、グループ会社の経営を行っている。また、知人と共に投資ファンドの立ち上げも進めている。
堀江大介(ほりえ・だいすけ)
大学卒業後、野村證券、ITスタートアップ、コンサルティング業界専門の人材紹介会社を経て、経営×ファイナンス領域(M&A・事業再生・ファンド業界)やプロ経営者専門の転職支援会社ヤマトヒューマンキャピタル株式会社を創業。これまで200名以上の方を同業界に支援した実績をもつ。また、事業承継問題の解決には投資資金に加え「経営人材」を輩出するエコシステムが必要だという問題意識から、2018年に一般社団法人日本プロ経営者協会をPEファンドパートナーと共同設立、代表理事に就任し、現在に至る。

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