お金に関する有資格者のなかでも、最もよく知られている存在が、税理士と会計士ではないでしょうか。しかし、その仕事内容の違いについては、よく知らないという人も多いかもしれません。税理士と会計士の違いを整理してみましょう。

1.税理士の業務内容

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(画像= metamorworks/stock.adobe.com)

まずは税理士の業務内容について解説していきます。税理士はひと言でいえば「税金の専門家」です。

税理士とはどんな人?

税理士法第1条には、「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」と規定されています。つまり税理士は、税務に関する専門家であり、納税者が法律を守りつつ納税することをサポートする人というわけです。

1951年に税理士法が施行され、税理士という資格が日本で誕生して以来、税理士は「申告納税制度の発展」や「納税義務の適正な実現」「納税者に対する知識の普及」などに大きな役割を果たしてきました。

税理士の主な仕事は?

税理士の具体的な業務内容としては、税理士法第2条に定められている通り、「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」などがあります。

○税理士の仕事1「税務代理」
納税者の代理として、確定申告の申請、青色申告の申請、税務調査の立ち会い、税務署に対する不服の申し立てを行います。昨今では税の申告に電子申告(e-Tax)が使われるケースも増えていますが、税理士であれば、納税者本人に代わって、e-Taxでの申告書を税務署に送信することができます。

○税理士の仕事2「税務書類の作成」
納税者の代理として、確定申告書、青色申告書、相続税申告書、そのほか税金に関する届け出や申請書類を作成します。

○税理士の仕事3「税務相談」
税金や申告に関して納税者に分からないことがあったときに、税理士が相談に応じ、アドバイスをします。税金の申告は、税理士を使わずに納税者が自ら行うこともできます。その際に不明点や疑問点があったら、税理士に相談すればいいということです。

○その他の仕事
なお税理士は、これらの仕事以外に、税理士業務に付随する業務として、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行、財務に関する事務を仕事として行うことができます。また、企業の役員である「会計参与」になったり、会計・財務分野のコンサルティングを行うこともあります。

税理士法人とは?

税理士というと、街中に事務所を構え、1人あるいはアシスタントを含めて数名で業務を行っているというイメージがあります。そのような運営形態を「税理士事務所」といいます。この場合の税理士は、個人事業主として事業を運営しています。

これに対して、大規模に税務業務を行っているのが、税理士法人です。税理士法人とは、2人以上の税理士が集まって作られた法人(会社)のこと。組織であるメリットを生かして、高度な会計・財務サービスの提供や、大企業の案件を請け負います。

税理士の独占業務は「税務業務」

税理士の主な業務である「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」は独占業務です。つまり、税理士だけがこの業務を行うことができ、税理士でない者は行ってはいけないということになります。

例えば、「友人から頼まれて確定申告書の作成をやってあげた」というケースも、税理士法違反に問われる可能性があるということです。この場合、友人から報酬をもらったかどうかは関係ありません。税理士法は、違反すると「2年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科せられるというとても厳しい法律です。

なお、税理士や税理士法人でなくとも税理士業務を行うことができる人はいます。

  • 税理士法に定める一定の要件に該当する者として税理士試験を免除された者
  • 弁護士(弁護士となる資格を有する者を含む)
  • 公認会計士(公認会計士となる資格を有する者を含む)

これらの人は、税理士連合会に登録することで税理士業務を行えるようになります。つまり、弁護士や会計士になったら、追加で試験を受けなくても、税理士の資格を取得できるということです。

税理士は全国にどれくらいいる?

税理士試験に合格し、税理士を名乗るには、税理士会連合会の名簿に登録する必要があります。2020年2月末現在、日本の税理士登録者・税理士法人届出数は7万8,617人となっています。

2.会計士の業務内容

次に会計士の業務内容について解説していきます。実は「会計士」というのは省略した呼び方で、正式には「公認会計士」といいます。公認会計士は、ひと言でいえば「会計の専門家」です。

会計士はどんな人?

公認会計士法第1条には、「公認会計士は、監査及び会計の専門家として、独立した立場において、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする。」とあります。

つまり、会計士は「監査」や「会計」の専門家であるということです。監査とは、辞書の意味でいえば、「監督」して「検査」をすることですが、会計士用語では「会計監査」のことを指します。また「会計」とは、広い意味ではお金の出入りを管理することを指します。

企業は、投資家に対して経営内容を伝えるために財務情報(決算書など)を公開しますが、このとき経営者には、正しい情報を説明することが求められています。しかし、企業が自分たちで作った財務情報では、その情報が正しいか誰にも判断できません。

そこで企業は、第三者である公認会計士に依頼し、自分たちが作った財務情報が正しいかどうかを検証してもらうわけです。これを「監査」と呼んでいます。

監査をすることで、その会社の財務情報が正しいと分かれば、投資家は安心してその会社の株を買うなどの投資活動を行えるようになります。その結果、株式市場は適切に機能するようになります。公認会計士は時に「市場の番人」と呼ばれることがありますが、それは監査を通じて資本市場を適切に維持する役割を持つからなのです。

なお、上場会社のほか、学校法人や独立行政法人、社会福祉法人などにも、公認会計士による監査が義務づけられています。

会計士の主な仕事は?

会計士の主な業務は、先ほど説明した通り、「監査」です。監査には、「法定監査」と「法定監査以外の監査」があります。法定監査とは、法律によって義務づけられている監査のこと。以下のような組織・団体については法定監査が義務づけられています。

  • 金融商品取引法に基づく監査(上場企業の監査)
  • 会社法に基づく監査(大企業の監査)
  • 保険相互会社の監査
  • 学校法人の監査
  • 信用金庫、信用組合の監査
  • 独立行政法人の監査
  • 国立大学法人・大学共同利用機関法人の監査
  • 公益社団・財団法人の監査
  • 社会福祉法人の監査
  • 医療法人の監査

一方、法定監査以外の監査は、法定監査が義務づけられている組織・団体以外が行う監査です。法定で定められていないのに監査を受けるわけですから、任意で受けるということです。具体的には、上場前の企業が上場準備をするための監査やM&&Aをされる側の企業が受ける監査などがあります。財務諸表の信頼性を対外的に高めようというのが、義務づけられていない監査を任意で受ける狙いです。

また、「監査」だけでなく「税務」「コンサルティング」の業務を行っている公認会計士もいます。「税務」とは、税務の代理や各種税務書類の作成・申告などの業務のこと。公認会計士も税理士登録をすることで、税務を業として行えるようになります。

「コンサルティング」については、組織戦略の立案からシステムコンサルティング、M&Aや株式公開の支援まで多岐にわたります。経営全般にわたって、相談に乗ったりアドバイスをするといった業務を行っています。

会計士の独占業務は「監査業務」

税理士にとって「税務業務」が独占業務であるように、会計士の「監査業務」もやはり独占業務です。公認会計士法第47条の2において、会計士でない者がこの業務を行うことが禁じられています。

監査法人と会計事務所の違い

公認会計士は試験に合格すると、まずは監査法人で働くのが一般的です。監査法人とは、公認会計士が5人以上集まって設立された法人のことで、大企業から監査の業務を請け負っています。なかには数千人の会計士が在籍する大きな監査法人もあります。

一方、公認会計士が独立開業して経営する個人事務所もあります。「会計事務所」「公認会計士事務所」などです。会計事務所では、会計・税務の専門家であることを生かして、法人・個人に対する会計・税務の支援やコンサルティングなどのサービスを提供しています。

会計士は全国にどれくらいいる?

公認会計士は、医者、弁護士と並ぶ3大国家資格の一つに数えられています。それだけ、資格取得は狭き門ということです。公認会計士は全国にどれくらいいるのでしょうか。2020年2月末現在、全国の公認会計士の会員数は3万9,195名となっています。なお、公認会計士制度は国際的な資格であり、約120カ国で約250万人の公認会計士が活躍しているとされています。

3.税理士と会計士のクライアントの違い

税理士と会計士では、サービスを提供するクライアントが異なります。

税理士のクライアントは個人・中小企業中心

税理士はどんなクライアントを相手に仕事をしているのでしょうか。これは税理士によってさまざまです。中小の税理士法人に所属する税理士や、個人で事務所を経営している税理士は、個人や中小企業のクライアントに対してサービスを提供しているケースが多いでしょう。一方、大手税理士法人に所属する税理士は、主に大企業向けに税務業務を行っています。

事務所の方針や得意とする分野(法人税、所得税、相続税など)によって、ターゲットとするクライアントは大きく異なるということです。

会計士のクライアントは大企業中心

会計士の独占業務である「監査」を受ける義務があるのは、先ほども説明した通り、基本的には上場企業や資本金5億円以上の大会社、独立行政法人、医療法人などです。したがって、会計士のクライアントは必然的に大企業が中心となります。

ただし、これは監査法人に所属する公認会計士の場合です。独立して会計事務所を開業した公認会計士の場合は、企業の監査業務を行っていないケースが多いかもしれません。では独立後の会計士は何をやっているのかというと、中小企業や個人に対する会計・税務の支援やコンサルティングなどです。

公認会計士が監査法人に勤めているか、独立して会計事務所を運営しているかで、日頃接するクライアントは違ってくるわけです。

4.税理士と会計士、それぞれに求められるスキル・役割

一部で重複する部分もある税理士と公認会計士では、求められるスキルや役割は異なるのか、考えてみましょう。

税理士に求められるスキルと役割

前述の通り、「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」が税理士の主な業務です。ということは、専門とする税務に対する最新の知識はもちろん、会計・財務に関する知識、書類を正確かつ迅速に作成する事務処理能力や、顧客からの相談に適切に対応するヒアリング力やコミュニケーション力が求められるといえるでしょう。

税理士がコンサルティング業務を提供する場合、クライアントから求められていることは基本的に「節税」です。したがって、いかにして節税するかという視点で、顧客ごとに最適な戦略を立案し、実行する能力が求められます。

会計士に求められるスキルと役割

監査法人で働く会計士の主な業務は上場企業や大企業に対する「監査」です。監査を行う際には、企業の会計・税務・財務に関する幅広い知識・スキルはもちろん、事務処理能力やコミュニケーション力が求められます。チームで働くのが基本なので、チームマネジメント力が必要になる場面も多いでしょう。

また、公認会計士は海外企業を相手にしたり、海外で働いたりする機会もあります。その場合は当然ながら英語力が必須です。

会計事務所で働く会計士の場合、監査業務にタッチすることは少ないため、税理士と同じように個人や中小企業の会計・税務・財務といった分野の知識やスキルが求められることになります。しかし会計士が税理士と違う点は、求められることが「節税」だけではないということです。

会社の置かれた局面によっては、「節税」よりも「成長」を実現するためのプランが求められる場合もあります。会計士には、そういったニーズに対して解決策を提示するコンサルティング能力が必要となるといえるでしょう。

5.ニーズや状況に応じて適切な専門家に相談を

税理士と会計士の違いを解説してきました。両者の業務には重なる部分が多くあるものの、所属している組織によって、あるいはターゲットとしている顧客によって異なる部分もあるということです。

法人の経営者や個人事業主、あるいは何らかのお金の悩みを持つ人が、顧客として税理士や会計士の利用を検討しているなら、まずは自分が専門家に依頼したい業務の内容を整理し、その業務や目的に合った最適な専門家を選ぶことが大切です。