いま、上場投資信託と呼ばれるETFが数ある金融商品のなかでも人気を集めています。2018年の時点ですでに総資産規模が約530兆円の規模に達するほどの成長力ですが、ETFという名前だけだと何を意味しているのかわかりにくく、投資信託との違いもよくわからないという方もまだまだ多いようです。
そこで当記事ではETFについてその基本からメリットとデメリット、そして株式や投資信託とどう違うのかという点などについて順に解説していきます。ETF投資を始めてみたいと思われた方に向けて、手軽に始める方法も併せて解説します。
ETF(上場投資信託)とは?
最初に、ETFの基本について最低限知っておくべき知識をまとめました。これを理解すれば、ETF投資を始めることができるでしょう。
ETFの商品概要
ETFは「Exchange Traded Fund」の頭文字をとって作られた言葉で、日本語では上場投資信託と訳されています。この訳のとおり、ETFは日本であれば東京証券取引所、アメリカであればニューヨーク証券取引所やナスダック市場といったように上場している投資信託のことです。
投資信託は多彩な運用方針の銘柄がありますが、ETFは原則として金融市場にある指数と連動するように運用されているのが特徴です。例えば日本の株式市場であれば日経平均株価やTOPIXと連動するように運用されているETFがあるといった具合です。
ETFの仕組み
上場している投資信託のことをETFといいますが、このETFには大きく分けて2つの種類があります。現物拠出を伴う銘柄と、そうではない銘柄の2種類です。
1つめの現物を拠出するETFは「現物拠出型」と呼ばれ、平たく表現すると「投資対象としている現物の保有を伴うETF」となります。株価指数など株式を投資対象としているETFであれば、現物株バスケットと呼ばれる「株式のかたまり」を実質的に保有することによって、指数との連動を実現しています。
2つめは「リンク債型」と呼ばれ、こちらは投資対象の現物を保有しません。では、何をもって運用しているのかというと、債券です。この債券はリンク債と呼ばれるもので、ETFが投資対象としている金融商品と価格が連動する仕組みになっています。つまり、リンク債を保有することでそのETFは指数との連動を実現できることになります。
こうした2つの仕組みのいずれかを持つことにより、ETFの価格は常に対象となる指数と連動するようになります。
代表的な銘柄
市場の指数に連動するものが主体となるETFですが、それではどんな指数と連動する銘柄があるのでしょうか。
日本国内のETFで代表的なものといえば、日経平均株価やTOPIXに連動するETFです。「ダイワ上場投信-トピックス(1305)」や「NEXT FUNDS TOPIX連動型上場投信(1306)」などはTOPIXと連動するように運用されているETFで、「ダイワ上場投信-日経225(1320)」や「NEXT FUNDS日経225連動型上場投信(1321)」はそれぞれ日経平均株価に連動するETFです。
この2つは日本株を代表する株価指数なので、他にも多くの運用会社がETFを上場しています。もちろん同じ指数との連動を目指しているETF同士の価格はほぼ同じになります。
国内外のさまざまなETFの種類
先ほどご紹介したのは日経平均株価とTOPIXと連動するETFでしたが、金融市場にはそれ以外にも数多くの指数があります。日本株にも「JPX日経インデックス400」や「東証マザーズ指数」「JASDAQ-TOP20」などといった指数があり、これらの指数と連動するETFも上場しています。
そのほかにも不動産投資信託であるJ-REITの総合指数である「東証REIT指数」、金(ゴールド)などの商品価格と連動するETFなど、実に多彩です。
もちろん海外にも膨大な指数があり、それぞれの指数と連動するETFが世界各国の取引所で取引されています。ETFの本場はアメリカなので、日本人にもなじみの深い「ニューヨークダウ平均株価」や「ナスダック指数」といった株価指数と連動するETFなどがあります。海外のETFについても、上場されているメリットを生かして日本から簡単に取引ができます。
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ETFのメリットとは?
ETFのメリットは、主に4つあります。上場していることによる株式のようなメリットと、投資信託が持つメリットの「いいところ取り」をしているようなイメージを持っていただくとわかりやすいと思います。
ETFのメリット1:株式と同じようにリアルタイムで売買できる
ETFは上場しているので、株式と同じ感覚で取引ができます。つまり取引所が動いている時間帯であればリアルタイムに値動きがあるので、値下がりしたタイミングを見計らって買うなど、機動的な売買が可能です。これは、上場していない投資信託にはない、ETFが持つ強みといえます。
ETFのメリット2:少額から分散投資ができる
ETFはいわば、「金融商品の詰め合わせパック」のような位置づけです。ETF自体は単一の銘柄として取引されているので、その詰め合わせパックを最小売買単位で購入できます。
たとえば、TOPIXは東証一部の全銘柄を対象にした株価指数です。これを自分で購入しようと思うと東証一部の全銘柄を買う必要がありますが、2020年12月現在の東証一部時価総額は約6,772兆円です。しかし、TOPIXを対象指標としているETFであれば、先ほどご紹介した「ダイワ上場投信−トピックス(1305)」の10口あたり価格である約1万8,000円(2020年12月時点の価格)から投資が可能です。
このETFを購入するだけでTOPIX全銘柄に分散投資をしているのと同じ効果が得られるので、分散効果の効率はきわめて高いといえるでしょう。
ETFのメリット3:コストが安い
投資信託のなかでもETFは運用コストが安いことで知られています。理由はいくつかありますが、最も大きな理由は2つです。
1つめは、上場しているため販売手数料が不要であることです。株式と同じ方法で売買をするため証券会社の売買手数料は発生しますが、投資信託を購入するのと比べるとかなり低コストです。
2つめの理由は、ETFが指数との連動を目的としているため、運用コストが高くならないことです。投資信託には「アクティブ運用」と「パッシブ運用」の2種類があり、前者は市場の平均値よりも高い運用成績を目指す積極的な運用方針です。そして後者は平均値である指数との連動を目指すだけなので、極端な言い方をすると、指数の対象となる全銘柄や商品を保有するだけで指数との連動を達成できます。ETFは後者のパッシブ運用なので運用コストが低く、その分投資家にとっても低コストなのです。
ETFのメリット4:選択肢が豊富
ETFはとても優れた仕組みであると投資家からも支持されているため、多様な銘柄が上場しています。日本だけでなく、世界中のさまざまな金融商品の指数を対象とした銘柄があるので、選択肢は豊富です。
特定の金融商品にだけ集中投資をするのはリスクが高いので推奨されませんが、分散投資をするとなると多くの資金を要します。ETFであればそれを少額で実現できるので、資産規模が大きくない人であっても高いリスク分散効果が得られます。
ETFのデメリットとは?
多くのメリットを持つETFですが、もちろんデメリットもあります。ここではETFのデメリットを3つの項目で解説します。
ETFのデメリット1:トラッキングエラーが起こる可能性
金融市場のさまざまな指数と連動するのがETFであると解説してきましたが、実はそれが100%達成されているわけではありません。対象指数とETF価格の乖離のことをトラッキングエラーといいます。市場が通常の状態であればトラッキングエラーも起きにくいのですが、「〇〇ショック」と呼ばれるような急変動があると、トラッキングエラーが起きるリスクも高まります。
短期的な価格変動で利益を狙う投資スタイルの人にとっては、このトラッキングエラーが戦略を狂わせてしまう可能性があります。
ETFのデメリット2:分配金が自動で投資されない
ETFは投資信託の一種なので、分配金が出るものがあります。高配当株などへ投資するタイプのETFであれば分配金を目的とした投資スタイルの人も多いと思いますが、この分配金を再投資していくことで複利効果が得られるので、分配金を自動的に再投資できれば便利だと感じることと思います。
しかし、ETFで分配金が支払われてもそれを自動的に再投資することはできないので、投資家が自ら操作をする必要があります。これが面倒でなければデメリットとはなりませんが、基本的にETF投資では放ったらかしで投資効果を得たいと考える人が多いので、都度、手動で積み立てる手間はデメリットになるかもしれません。
ETFのデメリット3:自動積立投資が必ずしもできない
前項のようにETFは分配金の自動再投資ができません。それと同様に、長期的な視野で積み立てをしていきたいと考えている人にとって有用な自動積立機能も必ずしも使えるとは限りません。
SBI証券にはアメリカのETFを自動積立できる機能がありますが、日本国内のETFで同様のことはできません。つまり、買い忘れるリスクを抱えているともいえます。
ETFと株式、投資信託の違いは?
ETF投資に関心を持っている人に多い疑問に、株式や投資信託の違いがあります。ここではこれらとの違いを解説しますが、その違いを知るほどにETFの人気のほどがおわかりいただけると思います。
株式と投資信託の両方のメリットを持つ
ETFは上場しているので、売買方法や使い勝手は株式と同じです。それでいて投資信託のようにリスク分散効果を併せ持っているので、先ほども述べたように「いいところ取り」であるといえます。
ETFの中身は投資信託なので上場しているか否かの違いしかないと思われがちなのですが、投資信託といえども上場するには財務基盤の健全性や運用の透明性など厳しい基準をクリアする必要があるため、ETFとしてすでに上場している銘柄はそれをクリアした「選ばれた投資信託」であると考えることもできます。
株式と同じように売買ができ、コストが投資信託と比較して安い
株式と投資信託の「いいところ取り」は、コスト面にもいえます。投資信託のように販売手数料がかからず、信託報酬が総じて低く設定されているので、コスト面だけを比較しても投資信託よりも有利なものが大半です。
インデックスタイプが多くアクティブ型は少ない
ETFは金融市場の指数と連動する銘柄が大半なので、パッシブ運用です。パッシブ運用型の投資信託をインデックスタイプというので(インデックスとは指数という意味です)、多くのETFもインデックスタイプに属します。アクティブ型のように積極的な運用は期待できませんが、その一方で「市場全体への投資」といった中長期的な視野に立った投資に適しています。
ETFはどうすれば始められる?売買の方法なども解説
ETF投資に興味をお持ちの方に向けて、ETF投資の始め方や売買方法を解説します。ただし、決して難しいことはありません。基本的に株式投資とほとんど同じであるとお考えください。
証券会社に口座開設
すでに証券会社の口座をお持ちの方であれば、その口座をすぐに利用できます。お持ちでない場合は、証券会社に口座を開設することから始めましょう。
おすすめの3大ネット証券
ETF投資を始める口座については、手数料の安さに加えて海外のETF取り扱いなどの点からもネット証券の口座が向いているといえます。ネット証券とはネット専業の証券会社のことで、SBI証券や楽天証券、マネックス証券などがネット証券会社大手とされています。
手数料などETFに関連する実力を比較すると、以下のようになります。
▽主なネット証券のETF取引手数料の違い
ETF売買手数料 | 海外ETF取り扱い | コメント | |
SBI証券 | 50万円まで250円 | 約定代金の0.45% | アメリカETF定期買付サービスあり |
楽天証券 | 50万円まで250円 | 約定代金の0.45% | ポイント制度が充実 |
マネックス証券 | 50万円まで450円 | 約定代金の0.45% | 新興国を含む海外ETF取扱数で優位 |
ご覧のように3社ともそれほど差はなく、いずれもETF投資に適した証券会社といえます。上記は、1注文ごとに手数料が発生するプランにおける50万円までの取引の比較ですが、SBI証券、楽天証券は1日あたりの定額取引のプランもあり、それぞれに100万円まで手数料が無料となります。また、マネックス証券では、10万円までの取引であれば1回の売買手数料が100円となっています。
東証に上場しているETFはすべての証券会社で注文ができる
証券会社の口座があれば株式の売買が可能です。ETFも株式と同じように売買できるので、東証に上場しているETFであればどの証券会社の口座であっても売買可能です。
ただし海外のETFについては証券会社によって取り扱いが異なるので、人気の高いアメリカのETFなど海外のETF投資もお考えである場合は、その取り扱いがあるかで証券会社を選ぶようにしてください。
手数料も各証券口座の売買手数料に準ずる
ETFは投資信託ですが、上場している銘柄を売買する点では株式と同じなので、それぞれの証券会社が設定している株式売買の手数料と同じ扱いになります。できるだけコストを抑えたい場合は、株式の売買手数料が安い証券会社を選ぶとよいでしょう。
売買後の税金は?
投資によって得られた税金についても、株式と取り扱いは同じです。売買や分配金に対して20.315%の税金がかかります。海外のETFについては現地での課税がありますが、日本と租税条約を締結している国であれば売却益への課税はありません。分配金については現地の税金が発生しますが、これについても確定申告をすることで外国税額控除を受けられます。
まとめ:投資初心者こそ検討したいETF
ETFについて基本からメリットとデメリット、具体的な投資に必要な知識などを解説してきました。ETFは株式と投資信託の「いいところ取り」ともいえるような商品であり、リスク分散効果にも優れている点も踏まえると人気の秘密がわかるかと思います。証券会社に口座を持つことで手軽に始められるので、まずは少額から始めてみてはいかがでしょうか。
文・田中タスク
エンジニアやWeb制作などIT系の職種を経験した後にFXと出会う。初心者として少額取引を実践しながらファンダメンタルやテクニカル分析を学び、自らの投資スタイルを確立。FXだけでなく日米のETFや現物株、商品などの投資に進出し、長期的な視野に立った資産運用のノウハウを伝える記事制作に取り組む。初心者向けの資産運用アドバイスにも注力、安心の老後を迎えるために必要なマネーリテラシー向上の必要性を発信中