本記事は、千日太郎氏の著書『住宅破産』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

住宅,マイホーム
(画像=PIXTA)

35年=420回無理なく返済できる毎月返済額とは?

住宅ローンは一度実行されたら、約定(やくじょう)通りに完済するか、家を売却して完済しなければ終わることがありません。例外的に自己破産によって帳消しにしてもらうという方法もありますが、最初からそれを想定している人はいないと思います。

どの住宅ローンを選ぶのかは、言うまでもなく重要な決断です。特に変動金利か固定金利かという選択は、最長35年にわたり金利変動リスクを自分が負うのか、債権者(金融機関)に負わせるのかを決めることです。正しい理解に基づかない決断によって大切な住まいを喪失することのないようにしてください。

そして今まさに住宅ローンを返済中の人にとっては、住宅ローンの本質を正しく理解することで各種のリスクにどう対処すればよいか分かるようになるはずです。

「住宅ローンとは何か?」と問われたら、わたしは「毎月決まったお金を35年=420回銀行に払うことだよ」と答えます。これが正確な定義でないことは百も承知ですが、これが住宅ローンを組む人にとってのリアルだからです。

住宅ローンの最長期間は35年で、これを月数に変換すると420か月です。住宅ローンの約定返済は月ごとですから、契約で決めた支払額を420回支払うことが債務者の義務です。それが不可能になった場合は家を取り上げられます。わたしたち債務者は、返済を継続できなくなった場合に備えて、金融機関に対して第一順位の抵当権を設定しているからです。

そうならないために、住宅ローンを組むときには、一か月に一回の約定返済額を余裕でクリアできるくらいの難易度にしておくことをお勧めしています。具体的なイメージは420回連続でやってもミスしないくらいの難易度です。どんなことが思い浮かぶでしょうか?

例えば、年賀状の宛名書きとか、縄跳びとか、そんなレベルです。わたしは年賀状を毎年30枚くらい出すのですが、それでも毎回宛名書きで2~3枚程度失敗していますし、縄跳びにしても100回も跳べば息が上がってしまいますが、月に一回はがきを1枚書くのであればそう簡単には失敗しないかもしれません。

しかし、そうなると期間は35年です。これは家を購入した多くの人にとって購入当時の自分の年齢と同じくらいか、それを超える期間です。その間に全く想定しなかったようなアクシデントに見舞われる可能性は非常に高いのです。新型コロナウイルスによって世界は一変してしまいましたが、これを事前に想定していた人など皆無でしょう。また、それ以前の2008年にはリーマンショックがありましたが、これはわたしが人生で初めて新築マンションを契約した翌月に発生しました。こんな事態になると分かっていたら契約しなかったと思います。このように概ね10年くらいの周期で避けようのない世界(ないし人類)レベルのアクシデントが発生しているのです。

しかし、住宅ローンの契約は契約時点に決めたことから一切変わらないのです。毎月の返済額は自分が相当のハンデを負っていても継続できるレベルにしておくことが、まずは最も重要なことです。

わたしは自身のブログやYouTube、著書で一貫し「無理なく完済できる住宅ローン」の金額を出すための四つのルールを守ることを推奨しています。

  • ルール①:毎月の返済は「手取り月収の4割以下でボーナス払いなし」

  • ルール②:返済額が一定になる「元利均等返済方式」

  • ルール③:シミュレーションの金利は「固定金利」

  • ルール④:定年時のローン残高は「1000万円以下」

このうちルール①から③は毎月の返済額についてのルールであり、これに大半を割いているのは、それだけ毎月の返済額というものが重要だからに他なりません。ルール④は第二章で解説した老後に住宅ローンを残さないための目安です。

なぜボーナス払いがダメなのか?

中でも重要なのは、ルール①の毎月の返済は「手取り月収の4割以下でボーナス払いなし」です。これは金融機関が行う審査基準の「返済負担率」に似た考え方ですが、そこからさらに収入減のリスクを加味してブラッシュアップさせた基準です。

返済負担率とは、債務者の税引き前の年収(額面年収)に対する一年間の返済金額の総額の割合であり、次の計算式でそのパーセンテージを求めることができます。

返済負担率=1年間の返済総額÷額面年収×100

住宅ローンの審査において、返済負担率の上限を45%以内としている金融機関が多いですが、これはあくまで上限です。年収が低い人は30%くらいに上限が引き下げられる場合もあります。また、返済負担率の計算式は額面年収をベースにしていますので、現時点で支給されているボーナスも住宅ローンの返済原資とする考え方です。しかしボーナスは業績が悪い年には支給されないこともあります。第一章でも述べましたがコロナ環境下では収入が減ってしまう潜在リスクが高いのだということを忘れてはいけません。

毎月の返済額は自分が相当のハンデを負っていても継続できるレベルにすることをお勧めしています。つまり、ボーナスを原資として計算する金融機関の審査の基準はその点で若干ですが「ぬるい」のです。そこでわたしは四つのルール①で毎月の返済額を「手取り月収の4割以下でボーナス払いなし」としているのです。

一般的に手取り月収の4割を住宅ローンに使い、残りで他の生活費を賄うのは、実際にやるとなると少し厳しい割合です。平時にはボーナスも使って返済しても構いませんがボーナスが出ない前提でも毎月の返済を続けることができるかを判断して下さい。

実際に住宅ローンを組む場合もボーナス払いはお勧めしていません。ボーナス払いとは、ボーナス月に多くの支払いをする代わりにその他の月の返済額を少なくするものです。そもそも支給されたボーナスを口座に残しておけば、別にボーナス払いにする必要などないのです。

ボーナス払いのメリットはその分毎月の返済額を減らせることにありますが、減らした分はボーナス月に返済するのですから厳密にはメリットとは言えません。これに対してデメリットは、通常月に口座残高がマイナスになってしまう可能性がある人は、もしボーナスが出なかったときに返済が滞ってしまう可能性が高いことです。

わたしは住宅ローンやマイホーム購入の相談に乗る機会が多いのですが、「年収に占めるボーナスの割合が高いのでボーナス払いにしてもいいですか?」「公務員でほぼ確実にボーナスが出るのでボーナス払いにしていいですか?」と聞かれることがあります。どちらも答えは「NO」です。

相談者にとっては、ボーナス払いにしたことによって「減った毎月の返済額」が無理のない毎月の返済額なのです。また、毎月の住宅ローン返済額によって口座残高が底をついてしまうのであればそもそも家計に問題があるのです。

またボーナス払いのボーナス月以外の返済額は少額となり元本が減らないため、その期間と元本に利息がかかることから、ボーナス払いなしの場合よりもわずかに利息額が多くなってしまうのです。ボーナス払いは、クレジットカードで大きな買い物をしたときの支払いを「ボーナス一括払い」にする使い方がお勧めです。分割払いにすると利息がかかりますが、ボーナス一括払いには利息がかからないカードもあるからです。それにポイントも付与されますので「お得」です。

35年=420回続けなければならない長期間の固定的な住宅ローンの支払いを変動要素のあるボーナスありきで計画するのはお勧めしません。臨時の大きな買い物の支払いにボーナスを充てる方が「ボーナス」という収入の性質にもマッチしているのです。

住宅破産
千日太郎(せんにち・たろう)
オフィス千日(同)代表社員、公認会計士。1972年生まれ。神戸商科大学(現在の兵庫県立大学)卒業後、大阪の監査法人へ入社。資格も名前を伏せて開始した「千日のブログ 家と住宅ローンのはてな? に答える」が評判を呼び、住宅ローン、不動産分野で人気の高いブロガーとして現在に至る。公認会計士としての金融商品の分析力、独自に編み出したノウハウに定評がある。さらに、「価値ある情報は誰もが無料で入手できることでさらに価値を増殖させる」という信念のもと、一般の人からの相談を受けつけ、回答をインターネットに公表する「千日の住宅ローン無料相談ドットコム」を開始。たしかな分析力と的確なアドバイスに評価が集まり、日々読者からの相談が途絶えることがない。著書に『住宅ローンで「絶対に損したくない人」が読む本』、『家を買うときに「お金で損したくない人」が読む本』(いずれも日本実業出版社)がある。

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