本記事は、千日太郎氏の著書『住宅破産』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。
共働き夫婦が住宅ローンを組む際の注意点
買いたい家の値段で返済をシミュレーションしてみたら、一人分の収入では厳しいけれど、夫婦共働きの収入を合算すれば何とか返せる場合があります。マイホームの購入は人生でも最大のプロジェクトですから、夫婦は一枚岩で協力するべきです。そのため夫婦それぞれに安定収入があるならば、家を共有名義にして住宅ローンも夫だけでなく妻の収入も加味して借りようという選択肢が出てくるのは、ごく自然なことだと思います。
そんな時に金融機関で勧められるのが夫婦での収入合算やペアローンです。この場合、夫婦が相互の連帯保証人になります。
保証人と連帯保証人では債務者が返済できなくなった場合に代わりに返済する義務を負うという点では共通しますが、連帯保証には三つのデメリットがあることを肝に銘じておく必要があります。
- 【催告の抗弁ができない】
- 債権者がいきなり保証人に対して請求をしてきた場合、保証人であれば「まずは主債務者に請求してよ」と主張することができますが(催告の抗弁といいます)連帯保証人はそのような主張をすることができません。
- 【検索の抗弁ができない】
- 主債務者が返済できる資力があるにもかかわらず返済を拒否した場合、保証人であれば主債務者に資力があることを理由に債権者に対して主債務者の財産に強制執行をするように主張することができますが(検索の抗弁といいます)連帯保証人はこのような主張をすることができず、主債務者に資力があっても債権者に対して返済しなければなりません。
- 【何人いても一人一人が債務全額の責任を負う】
- 保証人が複数いる場合、保証人はその頭数で割った金額のみを返済すればよいのに対して、連帯保証人はすべての人が全額を返済しなければなりません。
つまり、連帯保証人は「保証人」とは名ばかりで、実質的に債務者と同じ責任を負うことになるのです。ここでは、夫が主たる債務者となり妻が連帯保証又は連帯債務者という前提で、二人の収入を合算して3000万円の住宅ローンを借りるケースをモデルに共働き夫婦の住宅ローンのデメリットと攻略法を解説していきます。
収入合算(連帯保証)=アンフェアな条件を甘んじて受け入れる
住宅ローンを借りる夫(債務者)の収入に、妻(収入合算者)の収入を合算して住宅ローンの申し込みをする方法です。一般的には、契約する住宅ローンは一本となり、収入合算者の妻は住宅ローンの連帯保証人となります【図18】。
夫婦二人の収入を合算して審査しますので住宅ローンの契約としては一つであっても、二人分の融資を受けられるのがメリットです。ただし住宅ローンを組む人(=債務者)は夫だけですから、住宅ローン控除を受けられるのは夫だけです。妻にどれだけ収入があっても妻の所得税から税金はかえってきません。
また、団信に加入するのは債務者の夫だけです。団信は住宅ローンの名義人が死亡又は高度障害となった場合にその時点の住宅ローンと同額の保険金が保険会社から金融機関に支払われ、遺族の住宅ローン負担がゼロ円となる保険です。夫が死亡した場合は住宅ローンが全額ゼロ円になりますが、妻が死亡しても夫が存命している場合、住宅ローンは変わらず残ることになります。
そして、あまり知られていないことですが妻が妊娠している場合、連帯保証人となることができず、収入合算できないケースがあります。出産には生命の危険があるからです。前述したように「連帯保証」は実質的に債務者と同じ責任を負っています。そのため、金融機関は債務者を見るのとと同じ目で「この人にお金を貸して良いか?」という判断をするのです。妊娠によって新しい生命を宿していることは、自分たち家族にとって幸福なことですが、債権者の立場では「妻の妊娠は死亡によって住宅ローンの回収が困難になるリスク」と捉えます。
連帯保証人の妻は団信に加入していませんので、もし死亡しても住宅ローンはゼロ円となりません。金融機関としては夫婦の収入を合算してやっと3000万円を返済できるものと考えているのですから、返済の途中で妻に先立たれたら夫一人で完済することは難しいだろうと考えるのです。ただし、審査の基準は金融機関によって異なります。妻の死亡はリスクであるため門前払いとする金融機関もあれば、夫の審査属性が高い場合は通る金融機関もあります。
【メリット】
- 一人で借りるよりも多く借りられる
【デメリット】
- 連帯保証人(妻)は債務者(夫)と同じ責任があるのに住宅ローン控除を受けられない
- 連帯保証人(妻)が死亡しても住宅ローンはゼロ円にならない
多く融資してもらえるというメリットを挙げましたが、それだけ多く返済するのですし、利息も多く払うのですからメリットとしてはすこし微妙ですね。一方でデメリットとしては、実質的に債務者なのに債務者として受けられるメリットが享受できない点にあります。割に合わないアンフェアな条件を甘んじて受け入れるのが収入合算の連帯保証です。