本記事は、渡邉貴義氏の著書『自己流は武器だ。 私は、なぜ世界レベルの寿司屋になれたのか』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています。
照寿司三代目の渡邉貴義です。福岡県北九州市の戸畑という町で「照寿司」という寿司屋をやっています。
照寿司は今年で創業58年目。祖母が創業して、父が継ぎ、自分で三代目。もともとはいわゆるカウンターと出前だけという町の寿司屋よりも少し格式の高い、地元の人が結納や法事なども行う寿司屋でしたが、今やInstagram でのフォロワーが13万人を超え、世界中からお客様がいらっしゃっている寿司屋です。自分で言うのも何ですが、世界一有名な寿司屋と言ってもいいでしょう。
ちなみに、このコロナ禍の今でも、Instagram のフォロワーは、1カ月に2000人ずつ増えています。
2019年には、ニューヨーク・タイムズ紙の全面を飾り、コロナ前の2年間の間に、お店を半年休んで、スウェーデン、マカオ、タイ、中国、アメリカと計7回のポップアップイベントも開催しました。
一介の地方の寿司屋がどうしてここまでなれたのか?
照寿司の魅力は何なのか?
そしてこれから照寿司はどこに向かおうとしているのか?
本書はそういった内容について語っています。
もちろん地方の寿司屋が一晩にして今の状況になれたわけではありません。僕自身、照寿司が地方にあること、しかも都会からは行きにくい場所にあること、自分が三代目であることにずっと悩んでいました。それこそ、食材選びから、寿司の提供の仕方まで、試行錯誤をしながらコツコツと積み上げていった結果が今の照寿司です。
自分が置かれている現実は、そうそう簡単に変えられるものではありません。でも、今、自分が置かれている状況に負けてしまったらそこで終わりです。つまり田舎だからとか、三代目だから、とかを言い訳にしてはいけないということです。
ハンディはハンディだと思ったらそこで終わり、負けなのです。
むしろそのハンディをどうしたら「強み= 武器」に変えられるかを考えてみる。そして、自分なりの「武器」を世界に通用するまでに磨き上げていく。少しずつでも自分にできることにトライしてみる。その挑戦を続けられる人こそが、何かを成し遂げられる人だと僕は思います。SNSの発達で、もはや「地方にあるから」「田舎だから」お客様が来ない、というのは言い訳にしかなりません。
ではどうしたらいいか?
本当に地道にできることをするしかないのです。
諦めず、今の自分にできることは何かを一生懸命に考えて、それを「続ける」こと。それが一番の近道です。
僕もそうしてきました。ずっと長いトンネルにいましたが、あるときから少しずつ光が見えて、それが今に続いています。
ぜひ本書を、未来が見えなかったり、現実を変えたいのになかなか変えられず悩んでいる若者、そして寿司屋に限らずファミリービジネスを継いで、もやもやしている二代目や三代目に読んでいただきたいと思います。
世界一有名な寿司屋と呼ばれて
照寿司が世界一有名な寿司屋と言われるようになってもう4年くらいでしょ うか。
お陰さまで、2019年には、マスターカードの広告ではありましたが、ニューヨーク・タイムズ紙の全面も飾りました。
今は、2020年からのコロナ禍で、世界中からお客様が来られない状況が続いていますが、コロナの前までは、福岡県北九州市戸畑区にある照寿司には、それこそ地球の裏側のブラジルをはじめ、ヨーロッパ、アメリカ、アジアと世界中からお客様にお越しいただいていました。
「世界一有名な寿司屋」とまで言われるようになった照寿司ですが、ここに至 るまでの道のりは決して平坦だったわけではありません。
まさに壁にぶち当たってはそれを乗り越えることの連続でした。
なぜここまで来ることができたのか、その過程については第2章以降で詳しくお話ししますが、ここまで来られたことにはいくつかのターニングポイントがあったと思います。
それを自己分析すると
- 照寿司が地方である北九州の戸畑という土地にあったこと
- SNSとうまくリンクしたこと
- 照寿司=渡邉貴義というキャラクター作りが成功したこと
- 劇場型という新しい形の寿司屋を創造したことなどが挙げられます。
なかでも、照寿司が九州で最大の都市、福岡市内ではなく、戸畑という北九州市の住宅地にあったことも大きな成功の要因ではないかと思っています。
良くも悪くも戸畑への郷土愛抜きには、現時点での照寿司の成功はあり得なかったのです。