本記事は、渡邉貴義氏の著書『自己流は武器だ。 私は、なぜ世界レベルの寿司屋になれたのか』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています。
劇場型という新しい形の寿司屋を創造したこと
寿司オペラの誕生
店はカウンター8席のみ。2時間でおまかせのおつまみと寿司をお出しする照寿司のこのやり方を、僕は自分で寿司オペラと呼んでいます。
照寿司のやり方は、例えば、決して寿司歌舞伎とかと呼ばれるようなものではないんです。
寿司と歌舞伎って、どちらも日本のもの。日本の伝統的なものをかけあわせています。しかし照寿司の寿司は革新的なもの。伝統的なもののかけあわせではないのです。それで、寿司とオペラをかけあわせてみたらどうだろう?と。世界中に通ずる言葉にならないだろうか?ということで寿司オペラという言葉を作りました。
来ていただければ分かるのですが、照寿司で体験していただく2時間は、まさに壮大なスケールの体験なんです。それは劇場でオペラや舞台を観るのと同じ感覚です。
だからこそ世界中からお客様がわざわざ戸畑まで来てくださるわけです。
寿司を通じて体験を売る
つまり照寿司は、体験を売る寿司屋なんです。それは新しい飲食の形でもあるってことなんですが。
結局、照寿司は地方にあっても、世界一有名な寿司屋になれたわけですけれど、そもそも地方って発信するチャンネルすら与えられていない。ジャーナリズムも育っていないし、中央のメディアに出ることもなかなか叶いません。
これは本当に声を大にして言いたいことなのですが、地方のことって、よほどのことでないと中央のメディアに取り上げてもらえないんです。本当に発言力がない。
でもそこに甘んじていたら地方の店はどんどん発信力を失ってしまう。
特に日本中の寿司屋は江戸前を目標にしています。私もそうでした。でも海外からのお客様に言わせると、伝統を大切にしている名店は、プリズン寿司だと。プリズン、つまり牢屋に入れられているみたいな感じで、寿司が出てくると。なぜ俺たちは、緊張感のある空間や張り詰めた空気の中で、寿司を食わないといけないんだと、伝統的な名店で寿司を食べた世界中の人が口をそろえて言うわけです。例えば、ラテン系のブラジル人などに言わせると、どうして寿司屋がしーんとしているのかが分からない、と。彼らはワクワクしながら食事を楽しみたいのです。
でも照寿司は違います。
もちろん写真を撮ってもOKですし、ショーを楽しむ感じでお寿司を楽しめる店なんです。そして思い出も作っていただける。だから照寿司は、劇場型寿司、体験型寿司とも言えるのです。
そして2020年のコロナ禍を経験して照寿司はさらに強くなりました。今の照寿司は、劇場型の寿司からお客様と照寿司との冒険、「寿司アドベンチャー」とも言えるものを目指して変化を遂げつつあります。