本記事は、本橋亜土氏の著書『ありふれた言葉が武器になる 伝え方の法則』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています

相手の心を動かす最強の演出法。それは「ギャップ」

牛肉,ステーキ
(画像=june./PIXTA)

「話にインパクトを持たせたいならギャップが大事」という言葉をよく聞きます。

見た目は怖いのに、実は優しくてつい心を許してしまったり、休日、ラフな格好で会った翌日に、スーツでビシッとキメてきて、クラっときてしまう、こんな状況を「ギャップ萌え」と呼んだりします。

テレビ番組でもギャップを使って視聴者の心を動かす演出が多く使われています。 以前、弊社ディレクター何人かに、「一番効く演出ってなんだろう?」と聞いたときも、最も多かったのが、「ギャップじゃないですか?」という答えでした。

ここで1つ、テレビの現場で使われている表現を例に挙げてギャップの持つ力を紹介しましょう。

法則 「甘い」

この「甘い」という言葉が持つ破壊力、ご存じでしょうか?

本来、甘くないものを「甘い」と表現することで、ギャップを生み、とても大きな付加価値をつけることができるのです。

かつて私は、「王様のブランチ」(TBS)という情報番組で、リポーターを連れて全国の旅館や話題の飲食店を数多く取材していました。

ここでポイントになるのが、「食レポ」の腕。担当するリポーターによって、表現力はピンキリです。

ディレクターも思いつかないような秀逸な表現で味を伝えるリポーターがいる一方で、まだこの仕事をはじめて間もない、あまり表現の引き出しを持っていないリポーターがいるのも事実です。

しかし、どのリポーターと取材したとしても、料理の味を魅力的に伝えなければなりません。

そんなとき、私が初心者のリポーターに言っていた言葉があります。それは、

表現に困ったら、『甘い』と言えばなんとかなる!

これは、かなり役立ちました。 たとえば、肉を食べたときは……、

噛めば噛むほど、ギュッ ギュッ って「甘み」が出てきます!

刺身を食べて……、

口に入れた瞬間、いっぱいに「甘み」が広がります!

生野菜を食べたときも・・・

野菜なのに、「甘み」があるってすごいですね!

あなたもこんな食レポを見たことがあるのではないでしょうか。でも冷静に考えてみると、フルーツならともかく、肉ってそんなに甘みが出るものだったでしょうか?

甘い魚ってどうなんでしょう?

私は一度も生野菜を甘いと思ったことはありません。

きっとあなたも同じだと思います。

でも不思議なもので、「甘い」と表現するだけで、スーパーで安売りされている肉や刺身では、味わえない代物という印象を与えます。

甘いはずがないものに対して、「甘い」と言うと、
途端に高級で美味しそうな印象を与えることができるのです。

これが「ギャップ」の効果です。

ちなみに、対象が「甘くないもの」であればあるほど、その効果は大きくなります。

飲食店の方はもちろん、一般の方も食べログの口コミやブログ、SNSなどの文章にぜひ活用してみてください。

読み手にインパクトを与えることができるはずです。

「甘い」以外に使える便利なギャップ表現

ここまで、「甘い」という言葉を例に挙げながら「ギャップ」の効果効能について解説してきました。ついでと言ってはなんですが、「甘い」と同じ効果を持つギャップワードをいくつか紹介しておきましょう。

【濃い】

食べ物の味は、素材の味と調味料の味とに分けられます。

この「濃い」という言葉は、「素材の味」に対して使うと表現を効かせることができます。

このサラダ、野菜自体の味がすっごく濃い。こんなの初めて!

「素材の味が濃い」と言われると、なんだか良いもののように感じますよね?

でも、そこの感覚は個人の見解なので、決まった尺度がありません。言ったもの勝ちです。

【すごく香る!】

香りも、スパイス等の香りと、素材そのものの香りが存在します。

スパイスを使った料理を表現する際に、あえてスパイスではなく、素材の香りにフォーカスすることで、ギャップ感を演出することができます。

スパイスが効いているのに、鶏肉の甘い香りがすごく香る!

旅番組や、食レポ、ナレーションを注意深く聞いていると、意外と使えるギャップ表現が埋まっているものです。

また、

「Aの奥にあるB(例:苦味の奥にある甘味)」

「Aの次にBがやってくる(例:歯ごたえの後にしっとりとした食感がやってくる)」

など、冷静に考えるとよく意味がわからないのに、勢いで突破しようとしている表現も多々あります。

ぜひ、いい表現を探して活用してみてください。

ありふれた言葉が武器になる 伝え方の法則
本橋亜土(もとはし・あど)
1978年生まれ。番組制作会社スピンホイスト代表取締役。大学卒業後、バラエティ番組専門の制作会社を経て、ドキュメンタリーを制作するフォーティーズに入社。同社代表で、日本ドキュメンタリー界の巨匠である東正紀氏に師事する。その後、複数の制作会社でディレクターとして「王様のブランチ」(TBS)「行列のできる法律相談所」「嵐にしやがれ」「しゃべくり007」(全て日本テレビ)など、複数の人気情報・バラエティ番組を制作する。その後、プロデューサーを経て2017年に独立し、株式会社スピンホイストを設立。「ニンゲン観察バラエティモニタリング」「バース・デイ」(ともにTBS)「それって!? 実際どうなの課」(中京テレビ)などの番組を制作。一方、独立時に本書の元となった、テレビ業界の「伝え方の勝ちパターン」を体系化し、そのノウハウを使った企業PR動画の制作業務をスタート。「テレビの手法を活かした完成度の高い動画が作れる」と評判を呼び、住友林業、新日本製薬、マルコメなど、数多くの企業から依頼が舞い込んでいる。

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