SPCを導入する2つのデメリット

SPCは、これまで述べたような目的で設立されるが、もちろんメリットばかりではなく、デメリットもある。

1.コストや手間がかかる

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(画像=THE OWNER編集部)

SPCにかかるデメリットとしてまず挙げられるのは、コストである。特に、SPCのなかでも特定目的会社を活用するスキームにおいてコストは顕著となる。例えば、会社法での会社設立においては、資本金は1円でよいことになっているが、特定目的会社の設立を行うと、最低10万円の資本金が必要となる。また、会計監査人による会計監査や、投資家に対する適宜の報告など、運用面においても一定のコストがかかることになる。

そのほかにも、内閣総理大臣への届出、資産流動化計画および業務開始届出の提出、監査役の選任など、設立に手間がかかる。さらに、一般的に不動産などをオフバランスしてSPCに譲渡した場合については、証券を発行して投資家から資金を集めていくことになるため、その資産の使用価値について社外に流出することもデメリットといえるかもしれない(もっとも、その部分については、譲渡益というかたちで先に享受している)。

2.不正利用

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また、SPCは不正に使われることもある。かつて、SPCに関する会計基準が発展途上だったころ、SPCの特定の資産を本体の会社から切り離すことができるという性質を用いた不正が横行していた。

これは、資金を迂回させるなどして、含み損のある資産を簿価で売却したことにし、損失を計上しないようにする方法である。

かつては、SPCを連結対象にしなくてもよい制度だったので、多額の減損や貸倒引当金が発生する可能性がある含み損を抱えた資産をSPCに売却することに(したことに)よって、連結決算上においても含み損を計上しないことが可能であった。

現在は、SPCを連結対象から外すための要件が厳格化されたことによって、SPCを利用した粉飾決算は難しくなった。

SPCの代表的な3つのスキーム

SPCの基本スキーム

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(画像=THE OWNER編集部)

SPCの仕組みを整理する。投資家から資産に対して出資を受け、配当により利益を還元する。同時に金融機関からも融資を受け資産を保持するという仕組みだ。実質的に営業するのは本体企業となっている。

具体的には3つのスキームがある。合同会社匿名組合スキーム・特定目的会社スキーム・投資法人スキームの3つである。どのスキルが使いやすいか、事例に応じて、メリット・デメリットを個別に判断する必要がある。

1.合同会社匿名組合スキーム

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まず、合同会社匿名組合スキームについて解説する。

SPCとして合同会社を設立し、投資家からの匿名組合出資と金融機関からの借り入れにより、不動産などの信託受益権を取得するなどして運用するスキームである。合同会社は、会社法に定める会社形態の一つであり、公証人の定款認証が不要であるなど、株式会社よりも設立が容易だ。そのうえ、法人の維持管理のために要求されるコストが低く、会社の組織も簡素でよいことから、もっとも利用されるSPCである。

匿名組合とは、商法上の組合のことを表し、当事者の一方(匿名組合員)が相手方(営業者)の営業のために出資し、その営業より生じる利益の分配を受けることを約束する契約形態をいう。組合という名称がついているが、商法535条に規定されている契約の一種であり、法人格があるわけではない。

集団での契約ですらなく、匿名組合は投資家と営業者との二者間契約である。なお、匿名組合が利用されるのは、二重課税を回避しながら、事業から生じる利益を投資家に還元できるからである。

二重課税とは、同一の所得に対して2度以上課税されることだ。例えば、株式会社に投資をした場合には、投資先の株式会社において利益が計上された時点で法人税などが課税され、投資先から配当があり自社で利益が計上された時点でさらに法人税が課税されることになる。これが二重課税である。

もちろん、受取配当金には益金不算入の制度が設けられてはいるものの、完全に二重課税を回避するには完全子法人株式でなければならないなど、厳しい制限が課せられている。匿名組合を利用すれば、SPCの利益に法人税が課され、法人税を控除したあとに分配される配当についても投資家に課税される二重課税を回避できる。

匿名組合では契約にもとづき、営業者が各投資家に分配したあとの残額が、その営業者の損益となるため、営業者に対しては、分配後の利益に対して課税される。分配後の利益の帰属にもとづき1回のみ課税されるため、二重課税が発生しない。

このように、1つの収益に対して、途中の段階では課税を差し控えることをパススルー課税という。

2.特定目的会社スキーム

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2つ目のスキームは、特定目的会社スキームである。SPCとして「資産の流動化に関する法律」にもとづく特定目的会社を設立し、金融機関からの特定借入や特定社債と、投資家からの優先出資により、不動産信託受益権または現物不動産を取得して運用するスキームである。

ところで、「特定目的会社」と「特別目的会社」は、非常に似た言葉であるが、意味するところは異なる。特定目的会社は、特別目的会社の一種であり、「資産の流動化に関する法律」という特別な法律により設立される法人である。

特定目的会社を設立することによって匿名組合と同じようなメリットを享受することができ、法人格がある分、出資者を募集することが容易だ。

特定目的会社スキームを利用するメリットとして、1つ目は一定の要件下で誰でも投資家を募集できること、つまり一定の期間を決めて監督庁から許可を得れば、金融商品取引業としての登録をせずに、投資家を募集することができる。金融商品取引業の登録のハードルは高いため、このメリットは非常に大きい。

2つ目は、投資できる財産や財産権の豊富さである。ほとんどの資産や財産権に投資することができ、不動産信託受益権に限らず、債権や現物不動産を取得資産とすることが可能だ。また、3つ目としては、各種税金や公租公課等の優遇措置があることや、一定の要件のもとパススルー課税が実現できることも大きなメリットである。

3.投資法人スキーム

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(画像=THE OWNER編集部)

3つめのスキームは、投資法人スキームだ。SPCとして投資法人・投資信託に関する法律にもとづく投資法人を設立し、投資家から資金を集めて運用する。投資法人も一定の条件下で配当が損金算入可能になり、二重課税が回避される仕組みになっている。

合同会社匿名組合スキームや特定目的会社スキームは、特定の資産について、3~5年程度の運用期間で募集することが多いのに対して、投資法人スキームは、一定のテーマを定めた法人を作り、運用期間を設けずに長期の運用を行うことが多い。

また、合同会社匿名組合スキームや特定目的会社スキームは特定の資産を流動化して、オフバランスをすることを目的として利用されることが多いのに対し、投資法人スキームは、先に資金を集めて収益性の高い資産などに対する投資を行うために利用されることが多い。