セキュリティトークン(ST)を活用した新しい資金調達法として不動産STOが注目を集めています。不動産投資型クラウドファンディングにSTOのスキームを応用すれば、これまで課題であったことの解決が期待できるでしょう。
不動産STOとはどのような仕組みで投資家にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。本記事では、話題の不動産STOについて詳しく解説します。
目次
1.不動産STOとは?
不動産STOとは、不動産を小口化・デジタル証券化することにより、自由に売買ができる仕組みのことを指します。STOとは「Security Token Offering」の略語で、セキュリティートークン(ST)を発行して行う資金調達の総称です。そのなかでもデジタル証券化されたセキュリティトークンを売り出すことで不動産投資のための資金調達を行うのが「不動産STO」となります。(STOの詳細は後述)
不動産を小口化することで投資しやすくする仕組みは、不動産STO以外にもあり、例えば近年では不動産クラウドファンディングなどが人気です。しかしこの仕組みの場合、小口化された不動産に対する権利を自由に売買することが難しく「原則投資期間が終了するまで現金化できない」など流動性に課題があります。
不動産STOは、権利をデジタル証券化することでネット上での流通がしやすくなる点が魅力です。これにより「二次市場の確立や投資への参加、離脱が手軽になる」など多くのメリットがあるため、不動産の新たな資金調達方法として、また投資家から新たな投資方法としても注目を集めています。
1-1.セキュリティトークンの意味とメリット
上述したように不動産STOの「STO」は「Security Token Offering」の頭文字を取った略語です。不動産の権利を証明するデジタル証券としてセキュリティトークン(Security Token、以降ST)を発行し、それを出資者が購入することで成立する新しい資金調達方法を指します。STは、ブロックチェーン技術を利用してデジタル化された法令上の有価証券です。
STは、暗号資産で採用されているブロックチェーン技術によって権利が明確なため、資産性が担保されています。(詳細は後述)不動産STOを理解するには、まずこのSTについて知る必要があります。STの主な特徴は、以下の5つです。
・24時間取引と決済が可能
・データの安全性が高い
・取引コストが抑えられる
・契約の同時執行が担保される
・所有権を小口化しやすくなる
1-1-1.24時間取引と決済が可能
2023年時点で主要な証券取引所は、取引時間が決められています。しかしSTは、暗号資産と同様、基本的に24時間いつでも取引が可能です。将来的には世界中でSTがいつでも取引ができるようになるとされています。また証券取引所での決済は売買成立から数日後ですが、STでは即時決済も可能です。つまり、不動産のSTも24時間取引ができます。
1-1-2.データの安全性が高い
不動産STOに用いられているSTは、多くの暗号資産で採用されている分散型台帳技術により高い安全性が確保されます。分散型台帳は、参加者全員でデータを管理および共有するため、改ざんが非常に難しいのが特徴です。さらにSTは、証券規制のなかで発行される点でも安全性が確保されます。
技術的なバックボーンは同じですが、暗号資産のように「管理者や発行者が不明確」ということがなく信頼性も高い傾向です。
1-1-3.取引コストが抑えられる
ST化された有価証券は、迅速な決済が可能で管理も短期間かつシンプルで済みます。また売買や譲渡における各種の手続きは、暗号資産で利用されているスマートコントラクトの仕組みで自動化されているため、人件費がほとんど発生せず取引にかかるコストを抑えることが可能です。
これにより費用対効果や流動性の面から証券化の難しかった資産の証券化もSTOで可能になることが期待されます。例えば美術品などもデジタル証券化され、新たな取引方法が現れる可能性も秘めているのです。
1-1-4.契約の同時執行が担保される
不動産STOでは、不動産の権利が売買されます。小口化されているとはいえ不動産の権利を証明する証券となるため、安全な売買環境が必要です。「代金を支払ったのに証券が引き渡されない」「証券を引き渡したのに代金が支払われない」といったことが起きるようでは、不動産STOを安心して取引できません。
不動産STOで発行されたSTは、先述したスマートコントラクトによって売買されるため、代金の支払いと証券の引き渡しが自動的かつ同時に執行されます。このスマートコントラクトにより、不動産STOは取引の安全性が担保されているのです。
1-1-5.所有権を小口化しやすくなる
金融資産や不動産所有権の小口化は、手続きや管理コストがかかるため、これまで積極的に行われてきませんでした。しかし不動産STOは、手続きが自動化および簡略化されるため、小さな単位への分割が容易です。所有権の小口化が進めば少額投資も可能になるため、特に不動産STO分野で新たな投資機会が増えるとして期待されています。
1-2.STOとは新たな資金調達方法
STOは、STを介した資金調達方法の一つです。投資家は、投資対象へ出資することでデジタル証券となるSTを受け取ります。投資先が運用される間に配当を受け取れたり売却に伴う収益を得られたりできる点は、従来の投資と同様です。STは、電子記録移転権利として金融商品取引法の法規制を受けています。
STOを取り扱う金融機関は、金融庁から認定された自主規制団体「一般社団法人日本STO協会」の規約遵守が求められているのが特徴です。STOと似た資金調達方法にICO(Initial Coin Offering)がありますが、原資となる暗号資産(仮想通貨)には発行体が不明確なものも多くトラブルが続出していました。一方で一定規模以上のSTOは、有価証券届出書の提出が必要です。
このようにSTOは、取引の健全性や投資家の保護に努められています。すでに多くのSTOのスキームが不動産の分野で応用されているのは、こうした取引の健全性が確保されていることも大きな理由の一つといえるでしょう。
1-2-1.大阪ではST取引所が開業
日本におけるST動向として注目なのは、「大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)」というPTS運営会社です。PTSは「Proprietary Trading System」の略で証券取引所とは異なる私設取引所のこと。PTSを運営する同社がそのノウハウを活かしてSTの取引サービスを提供しています。同社は、2021年4月1日にネット証券大手のSBIグループと三井住友ファイナンシャルグループが設立したPTS運営会社です。
同年10月には、野村ホールディングスや大和証券グループも資本参加するなど日本の名だたる大手金融関連企業が関与することからもST取引所への期待感がうかがえます。アジアの国際金融都市といえば香港が有名です。しかし香港では、中国当局による民主派への弾圧が強められていることもあり外資系金融機関がアジアの拠点を日本に移転する動きが見られます。
それを受けて日本では、競争力強化のために大阪や福岡などを特区に指定して国際金融都市としての地位を向上させたいとする戦略があるのです。大阪デジタルエクスチェンジもこうした動きの一端にあるもので、今後本格的な稼働によって日本のST取引が活性化されることが期待されます。
1-2-2. BOOSTRYがSTOプラットフォーム「ibet」を提供
上記の大阪デジタルエクスチェンジ以外では、株式会社BOOSTRYのSTOのプラットフォーム「ibet」があります。不動産を含むSTOによる資金調達を支援したり、STの流通に関する事業を展開したりしているのが特徴です。同様のSTOプラットフォーム提供の動きは、他社にも見られますが、こうした動きが加速していけばより一層不動産STOのインフラが整備されていくでしょう。
なお同社には、上記の大阪デジタルエクスチェンジと同様にSBIホールディングス株式会社が資本参加しています。
1-2-3.似て非なる、STOとICOの根本的な違い
STOは、セキュリティトークンを活用して資金を調達する手段として普及が進んでいます。上述したように不動産STOは、STOの仕組みを応用した不動産の資金調達方法ですが、これとよく似た仕組みで先行しているのがICOです。ICOとは「Initial Coin Offering」の略で暗号資産(仮想通貨)の世界で活用されている資金調達手段の一つのことを指します。
暗号資産のブロックチェーンを用いているため、技術的にはSTOと似ている部分が多くSTO自体がICOから応用されたものともいわれています。では、なぜSTOが注目されているのでしょうか。それは、安全性や信頼性に大きな違いがあるからです。ICOでは、暗号資産発行時、発行主体が誰なのかが定かではないこともあるため、詐欺まがいの手口に悪用されるリスクがあります。
また暗号資産は、国によっては全面的に禁止されているため、今後の普及に疑問符がつく側面もあるのです。その点、STOは国家による「お墨付き」があり信頼度が高く安心して取引できることから資金調達手段として普及できる能力が期待できます。このようにSTOとICOは、似て非なるものなのです。
不動産STOはあっても「不動産ICO」がないのは、STOの安全性や透明性に大きな違いがあるからといえます。
1-3.STOのスキーム
続いて、新たな資金調達方法として注目されるSTOのスキームについて解説します。これは、不動産STOも同様となるため、目的を「不動産投資の資金調達」に読み替えると不動産STOの解説にもなるでしょう。企業が資金を調達する手段のなかに社債発行がありますが、STOも基本的に社債と同様のスキームです。
社債の場合は、発行体となる企業が社債を発行しそれを投資家が買うことで資金を調達します。STOは、それをブロックチェーンに代替してスキームが形成されているのが特徴です。従来の社債発行スキームでは、振替期間として証券保管振替機構(通称「ほふり」)が社債の保有状況を管理しますが、STOでは管理をブロックチェーンで行います。
ブロックチェーンは、参加者の全員で記録台帳を保管し相互に監視することで内容の正確性が担保される仕組みです。仮に何者かがブロックチェーンに記録されている情報を改ざんしてもネットワーク上にある別の端末との情報に相違があれば改ざんと見なされ自動的に修正されます。暗号資産は、この仕組みによって通貨としての資産性が確保されているのです。
ブロックチェーンの技術があれば従来の社債発行もブロックチェーンに置き換えることが可能でしょう。STOは、それを実際に行っているところが大きな特徴です。「STを誰が保有しているのか」ということもブロックチェーンに記録されるため、追跡したりSTを保有している投資家とコミュニケーションを取ったりしやすくなります。
また「ほふり」が管理をするとどうしても時間的かつ費用的なコストがかかります。もちろんブロックチェーンでもコストがかからないわけではありませんがはるかに効率的で低コストです。この環境を利用すると、STOは現在の機能だけでなく新たな機能も実装されてより魅力あるものになる可能性があります。
2.不動産STOを導入するメリット5つ
不動産STOを導入すると主に以下の5つのメリットが期待できます。
2-1.権利を小口化し投資しやすくなる
不動産の権利をSTOによって小口化することで投資資金をより集めやすくなります。従来の不動産への直接投資は、自己資金か融資で一定の金額を用意する必要がありました。
しかし、不動産STOで小口化されれば少額投資も可能になり幅広い投資家からの投資が期待できます。後述しますが、不動産投資型クラウドファンディングも小口化によって資金を集めやすくするスキームの一つです。ただ、不動産STOのような流動性がないため、今後は不動産の小口化スキームで不動産STOが主役に躍り出る可能性があります。
2-2.世界中の投資家から資金調達可能に
不動産STOによる資金調達のためにSTを取り扱う証券取引所に上場すれば、世界中の投資家から資金を集められることが期待できます。すでに米国など海外には、STを売買可能な取引所がいくつかあります。日本からもSTを取り扱う証券取引所へ上場することで国内より多くの資金を集められる可能性があるでしょう。
これは、不動産STOによって日本の不動産へ世界中からの投資が喚起されるチャンスでもあります。
2-3.個性的な不動産への投資
現物不動産取引では難しくても不動産STOなら個性的な不動産への投資機会も広がります。収益性が高くなくとも個性的な不動産施設であれば、投資の配当を金銭に限らず施設利用やサービスをリターンに含むことで投資家の間口を広げることも可能です。こうしたスキームも低コストで手軽さが強みの不動産STOなら事業化を目指すこともできます。
一定額以上の投資をする場合、従来は資金が必要でどうしても配当金や売却益でのリターンを求められていました。しかし不動産STOで少額投資が可能になれば「個性的な店舗や歴史的な施設などを応援したい」という個人投資家のニーズを発掘できる可能性があるでしょう。すでにある不動産STOの実例には、こうした目的を達成しているプロジェクトが含まれています。
2-4.不動産を24時間取引できるようになる
現物不動産の取引ができるのは、原則として不動産業者の営業時間内です。不動産を証券化した商品のREITも取引ができるのは、証券会社や証券取引所の営業時間内のみとなります。
一方、不動産STOで発行されたSTは、ブロックチェーン上に存在するデジタル証券となるため、24時間いつでも取引が可能です。不動産を24時間いつでも取引できる手法は、不動産STO以外にはないでしょう。
2-5.不動産の取引コストが大幅に軽減される
現物不動産の取引には、仲介手数料や売却活動に伴うさまざまなコストが発生します。しかし不動産STOで小口化されたSTの売買は、スマートコントラクトによって自動化されているため、人件費とは無縁です。
きわめて低コストでデジタル証券の売買ができるため、今後不動産STOがさらに普及すると不動産取引コストの概念が大きく覆るかもしれません。
3.不動産投資型クラウドファンディングにおける不動産STOの導入事例
ネットを活用して不特定多数のクラウド(大衆)から資金を集める手法のことをクラウドファンディングといいます。不動産投資型クラウドファンディングはその一種で、クラウドファンディングによって投資家から資金を集めて物件を購入・運用するのが特徴です。運用で得られた利益を出資者に分配する仕組みにより、実質的な不動産の小口化ができます。
ここでは、不動産投資型クラウドファンディングに不動産STOが活用された事例を2つ紹介します。
3-1.葉山の古民家宿づくりファンド
2019年に国内初の一般投資家向け不動産STOとして「葉山の古民家宿づくりファンド」が実施されました。すでにプロジェクトの目標募集額1,500万円に達しファンド組成は完了。投資実行後にSTが発行され投資家へ持ち分が譲渡される流れとなっています。「葉山の古民家宿づくりファンド」では、不動産STOによって小口化されたSTへの投資によって葉山の空き家の所有権を持つことが可能です。
これにより建物や敷地の維持管理が行われ古民家再生に協力できます。想定利回りは2%、運用期間は4年3ヵ月で投資家には施設を割引価格や無料で利用できる特典がついているのが魅力です。すでに多くの利用者(つまりST購入者)が現地の「平野邸」を訪れており、自然に囲まれた古民家での時間を楽しんでいます。
3-2.大家.com
株式会社グローベルスが運営する「大家.com」では、2020年12月から不動産賃貸物件の運営資金をクラウドファンディングで集めています。投資金額は、1口1万円です。賃料収入を配当とし運用期間終了後は売却益などで元本償還されます。投資家は、出資後にSTが発行され持ち分を取得。また不動産STOのスキーム上で書面確認を行ったほかの投資家へ出資持分の譲渡も可能です。
従来の不動産投資で得た持ち分は、運用期間が終わるまで譲渡は難しい傾向でした。しかし不動産STOのスキームを用いることで譲渡がしやすくなり、流動性が高められたことで投資の自由度が向上した一例です。
4.不動産STOによって解決される不動産投資型クラウドファンディングの課題
不動産STOを活用すれば不動産投資型クラウドファンディングが抱えてきた課題を根本的に解決できる可能性があります。主に以下の3つのような課題の解決が期待されています。
4-1.不動産STOによるSTの二次流通、流動性の向上
企業がIPO(新規公開)で株式上場し資金調達をした場合、IPO時に株式購入した投資家の全員が生涯その株券を持ち続けるわけではありません。逆にIPO時に株式を買わなかった人は、永久にその企業へ投資ができないわけではなく証券取引所に上場しているかぎりいつでも売買できます。これは、証券取引所や「ほふり」などの仕組みがあるからです。
不動産投資型クラウドファンディングにも、これと同じことがいえます。従来のクラウドファンディングでは、新規募集時に出資をした人が投資期間内に権利を売ったり、逆に新規募集時に出資をしなかった人が途中から権利を購入したりすることが困難でした。しかし不動産STOでは、いつでも自由に売買できるSTを発行し、ST保有者が出資者となるため、STの二次流通市場が確立します。
今後の不動産投資型クラウドファンディングは、不動産STOの普及に伴い、いつでも自由に権利を売買できるのが基本形となるかもしれません。
4-2.いつでも始められて、いつでもやめられる
不動産投資型クラウドファンディングは、最初の募集時に投資期間が定められているため、原則その期間の満了までは資金が拘束されます。しかし前項で解説したように不動産STOでSTが自由に売買できるようになれば「いつでも始められていつでもやめられる」というように自由度の向上が期待できるでしょう。
一般的な不動産投資型クラウドファンディングの場合、投資期間は数ヵ月~数年に及びます。その期間に急なお金の入用が発生した場合には、損失を覚悟のうえで中途解約するしかありませんでした。しかし、不動産STOで発行されるSTは自由に売買ができるため、途中でやめたいと思っても不利になることはありません。特に「いつでもやめられる」という点は、投資家にとって大きな安心感となります。
4-3.ブロックチェーンが取引の安全性を確保する
ブロックチェーンは、暗号資産の資産性を担保するための基幹技術となります。不動産STOがこれを応用することで資産性や取引の安全性を確保しているのは、すでに解説した通りです。保有している不動産の権利は、STの形でブロックチェーンに所有者情報が記録され改ざんされることはありません。紙の権利書であれば盗まれる危険がありますが、ブロックチェーンにそのリスクはないのです。
また、不動産STOは、スマートコントラクトで取引が自動化されているため、同時執行によって契約が処理されるのは安心感があります。
5.不動産投資型クラウドファンディング市場は今後も拡大の予測
不動産投資型クラウドファンディングの市場は、拡大傾向にあります。このスキームが拡大することは、不動産STOの拡大も意味しており、今後不動産STOも拡大の一途をたどることが期待できるでしょう。ここでは、不動産投資型クラウドファンディング市場が今後も拡大していく4つの理由について解説します。
5-1.透明性が高く投資に安心感がある
不動産投資型クラウドファンディングは、法整備が進んでいるため、高い透明性が確保されています。現物不動産の世界では「海千山千」といわれるような不動産業者もいることから無価値に近いような物件を高値でつかまされてしまう事例が後を絶ちません。
一方、不動産投資型クラウドファンディングの場合、参入業者数が現物不動産の世界より少なく、なかには知名度の高い老舗不動産会社もあります。
今後もそれほど参入業者の数が多くなるわけではないので、評判の悪い業者の名前はすぐにネット上で流布するでしょう。信用が大切な業種だけに悪徳業者が入り込む余地は小さいといえます。その意味では、現物不動産よりも不動産投資型クラウドファンディングのほうが透明性は高く安心感があるかもしれません。
5-2.参入業者の顔ぶれに魅力がある
不動産投資型クラウドファンディングに参入している業者の規模や特徴は、多岐にわたります。不動産STOのスキームは、現物不動産と異なり小規模事業者でも参入しやすいため、各業者が個性を発揮しやすい環境です。大手不動産会社などは安定感が魅力的な一方で、規模の小さな業者はユニークな不動産物件への投資を不動産STOスキームで募集しているケースも少なくありません。
「これまで不動産市場に参入できなかった業者が不動産STOで参入を果たしている」といったケースもあるため、参入業者が個性豊かな顔ぶれであることも不動産STOの醍醐味です。
5-3.人気の少額投資ニーズに応えている
不動産投資型クラウドファンディング自体が小口化で投資のすそ野の拡大を目的としているため、不動産STOについても同様のことがいえます。
現物不動産の場合、物件によっては億単位の購入費用が必要ですが、不動産STOでは1万円や数万円といった少額から始められるものが多い傾向です。近年では、さまざまな投資で少額から始めることが推奨されており、リスク観点からも人気が高まっています。
不動産STOは、こうしたニーズに応えているため、今後も市場が拡大することが期待できるでしょう。
5-4.米国ではすでに市場が急拡大している
不動産投資型クラウドファンディングの本場ともいえる米国では、すでに不動産投資型クラウドファンディングの市場規模が急拡大中です。また今後も大きく成長すると見られており、そのための具体的な方法の一つとなる不動産STOも含めて市場の成長が見込まれます。
以下は「POLARIS MARKET RESEARCH」が発表した不動産投資型クラウドファンディングの市場規模推移と今後の見通しです。
2030年までの見通しでは、不動産STOの市場規模や案件数が今後もさらに急拡大していくことが期待できるでしょう。
6.海外における不動産STOの現状
2023年時点で日本におけるSTOは、「まだまだ始まったばかり」というイメージが強いかもしれません。しかしすでに海外では、大手取引所が取り扱いを始めており、本格的にSTOの案件数が増えています。前章では、米国で不動産投資型クラウドファンディングの市場規模が急拡大していることを示すデータを紹介しました。
しかし海外における不動産STOに関するムーブメントは、これだけではありません。少々意外に思えるかもしれませんが、米国に次いでSTOの案件数が多いのはスイスです。そのスイスの証券取引所「SIX」は、デジタル証券の取引所として「SIX Digital Exchange(SDX)」を開設しており、ここではSTも取引されています。
そのほかにも英国領ジブラルタルにあるジブラルタル証券取引所も暗号資産関連の取り扱いに積極的です。同証券取引所でもSTOの取り扱いがあります。このように海外では、着実にSTOが普及しつつあり案件実績も積み重ねられている傾向です。市場規模の成長は先ほど解説した通りですが、世界のSTO市場における成長の内訳にも注目してみましょう。
先に紹介した「POLARIS MARKET RESEARCH」のデータでは、米国を含むNorth Americaが最も多くのウェイトを占めているのに対し、2030年の予測ではAsia Pacificの市場規模がそれに次ぐ規模となっています。ここには、日本や中国なども含まれていますが、日本やその周辺国でも今後は不動産STOが拡大していく可能性があるといえるでしょう。
6-1.STOでも強い、米国の勢い
STOをいち早く採用し、多くの案件数を積み重ねているのが米国です。そのことは、すでに紹介している不動産投資型クラウドファンディングの市場規模推移を見ても理解できるのではないでしょうか。2019年時点でSTOの案件数は110件を超えており、2位につけているスイスの26件と比べても5倍以上の規模です。
ITを活用した新しい技術やスキームに対して積極的な国柄もありますが、米国で多くのSTO実績が積み上がっていることには、ほかの理由もあります。例えばSTを発行するプラットフォームを提供している企業の大半が米国企業のため、STを発行する土壌が早くから形成されていたことが理由の一つです。ちなみに米国以外では、スイスや英国が上位にランクインしています。
これは、スイスのSIXやジブラルタル証券取引所がSTを取り扱っているため、市場が活性化しているといえるでしょう。世界最大のSTO案件として名を馳せた「tZERO」では、1億3,400万米ドルもの資金調達に成功して注目を集めました。次いで同じく米国の「Proxima Media」案件の調達額は、1億米ドルです。
3位以下はUAE、スイス、ベラルーシ、香港の案件が続きます。しかし上位20位のなかで米国は、10案件を占めており、STOがいち早く浸透し資金調達手段として定着しつつあることがうかがえるでしょう。
6-2.現状は比較的小規模な資金調達案件が多い
ランキングの上位は100億円を超えるような規模の大型案件が並びますが、全体を見渡すとSTO案件の大半は、日本円にして20億~30億円規模の資金調達に用いられていることが分かります。従来型の社債発行ではさらに大きな規模の資金調達も珍しくないので、それと比べるとまだまだSTOは比較的小規模な資金調達に用いられていることが多い傾向です。
STOの認知度や信頼性などが向上すると、より規模の大きなSTO案件が続々と登場することも考えられます。また、不動産分野での活用が進んで不動産STOの案件が増えるとREITのような規模のSTO案件が続々と登場することも予想されるでしょう。そのため、STO市場規模の拡大とともに調達案件の規模も大きくなっていく可能性があります。
STOは、名称やスキームが似ているためICOと混同されることも多い傾向です。またICOだけでなく暗号資産そのものに懐疑的な見方をしている人にとっては、STOも未発達な金融スキームに見えてしまう可能性があります。今後は、そうした見方が改善することで日本でも大きなSTO案件が登場することも珍しくなくなるでしょう。
7.不動産STOの今後の課題
「まだまだ始まったばかり」という印象が強い不動産STO。とても優れたスキームだけに今後のさらなる市場規模の拡大に期待したいところですが、そのためには以下のような課題もあります。
7-1.どれくらい投資先が現れるか
2021年の段階で不動産STOは、枠組みができたばかりの初期段階にあります。2022年は実例の蓄積、2023年からは本格的に市場が拡大していきたいフェーズです。これを現実のものにして既存の投資先が新たにSTOに適合させるためには、人員の配置やデータ移管が必要になります。そのため「手間やコストをかけてもSTOに参入したい投資先がどれくらい現れるか」といった内容が第1の課題です。
また、投資先の数も大切ですが「既存の投資先とは差別化された新たな魅力を持つ投資先が現れるか」といった点も注目されます。日本国内において不動産投資型クラウドファンディングの市場規模は、着実に拡大しています。2018年時点で約21億円だった市場規模は、2019年に約48億円、2020年には約60億円へと成長しました。
この傾向は、今後も続くと考えられているため、不動産投資型クラウドファンディングは市場規模の拡大とともに投資商品としての市民権を獲得していく可能性が高いといえるでしょう。これらの案件で不動産STOが採用され、ST化されたデジタル証券が暗号資産のように市場流通するようになれば、さらなる案件数の増加が期待できます。
7-2.国内取引所の運営開始
実際にSTの取引を行う国内の取引所の稼働はこれからです。2021年4月1日にSBIホールディングス株式会社と株式会社三井住友ファイナンシャルグループは、共同でPTS(私設取引システム)の運営を目指す「大阪デジタルエクスチェンジ株式会社」を設立。2022年4月28日にはPTS取引システムに関する認可を取得しており、ST取引サービスの提供に着々と準備が進んでいます。
また発行プラットフォームは、続々と誕生している傾向です。先ほどBOOSTRYについて紹介しましたが、その他にも三菱UFJグループやLIFULLなども発行プラットフォームに参入しています。こうした大手企業の動きに追随するベンチャー系なども相まって、不動産STO市場はさらに活性化していくことが見込まれるでしょう。
ただし、「今後に向けてどれだけのSTOが集まるか」「上場基準や投資家の保護」など、検討すべき問題は数多くあります。まずは、日本初のST取引所となる今後の大阪デジタルエクスチェンジ株式会社の動向に注目しましょう。
8.不動産取引に新たな風を吹き込む
不動産STOが今後さらに浸透すれば、権利の小口化による恩恵で投資資金の限られる若い投資家を集めやすくなるでしょう。これにより個性的な店舗や施設など新たな価値で投資を募る不動産が増え不動産投資が活性化する可能性もあります。また、権利のデータ化によって従来の書類を中心とした煩雑な手続きなどが改善されることも期待されるポイントです。
不動産は、とても古い業種で業界には古い商慣習も多く残っています。これが機能している面もありますが、やはりコストやスピードの面などでデメリットとなっている一面も否めません。不動産STOは、こうした不動産業界に新しい風を吹き込み、不動産業界を大きく変革かつ発展させる起爆剤となるポテンシャルを秘めています。
9.不動産STOでよくある質問
9-1.Q.STOの意味は?
A.STOとは、「Security Token Offering」の頭文字を取った略称で、セキュリティトークン(Security Token)を発行して行う資金調達方法のことです。
9-2.Q.不動産投資においてSTOはどんなメリットが期待できる?
A. STOで期待できる主なメリットには、以下のようなものがあります。
・権利の小口化
・世界中から資金調達しやすくなる
・個性的な不動産へ投資しやすくなる
・24時間取引ができる
・二次市場の確立で活性化する など
不動産STOは、不動産投資の世界を大きく変貌させる可能性があります。
9-3.不動産投資型クラウドファンディングへの出資は解約できる?
原則として不動産投資型クラウドファンディングは、投資期間が満了するまで現金化はできません。もし解約することができても違約金や手数料などで損失が発生する可能性があります。しかし不動産STOは、デジタル証券化されたSTが二次流通するため、STを売却するだけで手軽に出資から離脱することが可能です。
9-4.不動産投資型クラウドファンディングに出資したお金は元本保証?
出資金は、元本保証ではなく元本割れのリスクがあります。出資金の元本を保証することは、出資法によって禁じられているため、投資家はリスクを取りつつリターンを狙うことが必要です。ただし、投資家の出資金を優先的に保護するスキームがあるため、万が一運用会社や案件が破たんしたとしても優先的に保護される場合があります。
(提供:YANUSY)
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