近年の税制改正は「所得の多い人から税金を多く徴収する」という増税が活発化していることが特徴です。また2015年から相続税の基礎控除額が見直されたため、高所得者にとっては増税に対する対策が必須となりつつあります。

目次

  1. 年収3,000万円以上は全体の何割?
  2. 年収によって手取り額はどのように変わる?
  3. 年収3,000万円の人の暮らしって?
    1. 事例①:独身一人暮らし
    2. 事例②:子どもがいる家庭
  4. 年収3,000万円の持ち家率
    1. 持ち家:年収3,000万円の住宅ローンの借入額
    2. 賃貸:年収3,000万円の家賃相場
  5. 年収3,000万円を稼げるおすすめの職業
  6. サラリーマンでも外資系なら年収3,000万円以上稼ぐことはできる
    1. 投資銀行
    2. コンサルティングファーム
  7. 年収3,000万円は富裕層?業種別平均年収との比較
    1. 勤務医
    2. 獣医
    3. 公認会計士
    4. 中小企業診断士
  8. 年収3,000万円を稼ぐために必要な3つの習慣
    1. 長期かつ広い視野を持つ
    2. スキマ時間の有効活用
    3. 氾濫する情報に惑わされない
  9. 年収3,000万円の高所得者に税対策が必要な理由
    1. 給与所得控除額の遷移
  10. 年収3,000万円の壁とは?
    1. 1 配偶者控除および配偶者特別控除
    2. 2 住宅ローン控除
    3. 3 住宅資金等の贈与非課税制度
    4. 4 結婚・子育て資金の贈与非課税制度
  11. 年収3,000万円以上であればぜひ実践したい節税対策
    1. 1 iDeCo・つみたてNISA
    2. 2 ふるさと納税
    3. 3 運用に不動産投資を取り入れる
  12. 不動産投資による節税効果
    1. 不動産投資が必ず節税効果を生むわけではない
    2. 不動産投資における節税のポイント
  13. 節税対策として不動産投資を選ぶ際に注意すべきポイント
    1. 1 土地よりも建物部分の割合を多くする
    2. 2 修繕費は定期的なもの以外に突発的なものがある
    3. 3 売却するタイミングの見極め
  14. 法人設立を視野に入れる
  15. 投資先としてヘッジファンドが注目されている
  16. 年収3,000万円の節税対策に関するQ&A
    1. Q.年収3,000万円の高所得者に税対策が必要な理由は?
    2. Q.所得額が一定額を超えると適用されない控除制度とは?
    3. Q.不動産投資による節税効果を高めるポイントは?
    4. Q.不動産投資を行ううえでの赤字決算は本当に節税になる?
    5. Q.減価償却費をどう活用する?
    6. Q.損益通算の仕組みとは?
    7. Q.デッドクロスとは?
    8. Q.海外不動産への投資でも節税は可能?
    9. Q.不動産投資で節税できるって本当?

年収3,000万円以上は全体の何割?

年収3,000万円の税対策とは?
(画像=takasu/stock.adobe.com)

年収3,000万円以上の人の割合は、全国でどのくらいいるのでしょうか。国税庁が発表している「民間給与実態統計調査(令和2年分)」によると2020年12月31時点における年収2,500万円超の割合は、全体の0.3%、約14万5,000人でした。2019年と比較すると割合は、0.3%と同じですが人数は約6,000人減少となっています。

過去5年間で見ると2018年の約16万4,000人(0.3%)をピークに減少傾向です。また2020年度の男女別で見ると男性は、全体の0.4%(約13万3,000人)が年収2,500万円を超えています。一方女性は、全体の0.1%(約1万2,000人)にとどまっており男女差がある点も特徴的です。さらに全体の年収区分において最も多い層は、300万~400万円(全体の17.4%、約913万人)でした。

これらを踏まえると所得格差の実態が大きく浮かび上がっているといえます。

年収によって手取り額はどのように変わる?

日本の所得税は、所得が高くなるにつれて税率が上がる「累進税率」を採用しています。そのため年収が多いからといってすべて自分の手元に入ってくるわけではありません。年収とは、会社から支給される給与や各種手当てを含めた総額でそこから社会保険料や所得税、住民税が差し引かれた額が実際に受け取れる手取り額です。

では、年収に対する手取り額の目安はどのくらいなのでしょうか。計算は、以下の条件をもとに行います。

【試算条件】
・給与所得者(40歳以上・東京都在住)
・独身(所得控除は給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除のみとし、他の所得控除の適用はなしとする)
・表示金額については1万円未満切り捨てとする

【計算例】
・社会保険料(全国健康保険協会:2022年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表をもとに算出。雇用保険料は収入額の0.3%として計算)
・所得税額:年収-(社会保険料+給与所得控除+基礎控除)×税率
・住民税額:均等割(5,000円)+所得割(課税所得金額×10%)

年収800万円の場合の社会保険料額は、上記の計算例で算出すると約120万円となります。また該当する給与所得控除額190万円と基礎控除の48万円を指しい引いた課税所得金額は、442万円です。

  • 課税所得金額:年収800万円-(社会保険料120万円+給与所得控除190万円+基礎控除48万円)=442万円

課税所得金額442万円の所得税率は20%(控除額42万7,500円)となるため、所得税額は約45万円となります。

  • 所得税額:課税所得金額442万円×所得税率20%-控除額42万7,500円=45万6,500円

住民税額の基礎控除額は、所得税と異なり43万円です。所得税同様に課税所得金額を算出すると以下のようになります。

  • 課税所得金額:年収800万円-(社会保険料120万円+給与所得控除190万円+基礎控除43万円)=447万円

それを当てはめて求められる住民税は、以下の通りです。

  • 住民税額:均等割5,000円+所得割(課税所得金額)447万円×10%=45万2,000円

住民税は、約45万円となり最終的な手取り額は以下のように算出できます。

  • 手取り額:年収800万円-(社会保険料約120万円+所得税約45万円+住民税約45万円)=約590万円

所得税の基礎控除額は、納税者本人の合計所得金額(今回の場合は給与所得金額)が2,400万円以下であれば48万円です。しかし2,400万円超となると段階的に少なくなり2,500万円超で控除がなくなるため、注意しましょう。住民税も同様に2,400万円を超えると43万円から段階的に少なくなり、2,500万を超えると控除額は0円となります。

年収社会保険料所得税住民税手取り額
800万円120万円46万円45万円590万円
850万円122万円54万円49万円625万円
900万円125万円63万円53万円659万円
950万円128万円73万円58万円691万円
1,000万円131万円82万円63万円724万円
1,500万円163万円207万円110万円1,020万円
2,000万円172万円369万円159万円1,300万円
2,500万円174万円566万円212万円1,548万円
3,000万円175万円772万円263万円1,790万円
3,500万円177万円972万円313万円2,038万円
4,000万円178万円1,171万円363万円2,288万円

また社会保険料のうち雇用保険料率については、自己負担額が2022年10月より改正され0.3%→0.5%(一般事業の場合)と現行よりも0.2%増加することも覚えておきましょう。

年収3,000万円の人の暮らしって?

年収3,000万円といっても社会保険料や税金の負担を考えると、手元に残るのは約6割程度です。賃貸住宅の場合を仮定すると、どのくらいの家賃の物件に住めるのでしょうか。手取り額の3分の1程度を家賃に充当するとして考えてみましょう。

事例①:独身一人暮らし

上記の表の通り独身で一人暮らし(年齢40歳以上)の場合、手取り額は約1,790万円と想定できます。1,790万円の3分の1は約596万円でボーナスがないと仮定して12ヵ月で割ると約49万7,000円です。そのため約50万円の家賃の物件に住むことができる計算となります。

例えば東京なら六本木などのコンシェルジュサービスのある高級タワーマンション(1~2LKD、約65~75平方メートル)に住むことができそうです。

事例②:子どもがいる家庭

配偶者や子どもがいる場合は、所得控除額が多くなるため、一般的に独身よりも手取り額が多くなります。ただし配偶者控除は、納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超えると適用されません。そのため扶養している子どもの扶養控除分のみ所得控除額が大きくなります。実際に以下の例で手取り額を試算してみましょう。

  • 給与所得者(40歳以上)
  • 配偶者の収入はなし
  • 子ども2人(19歳の特定扶養親族と17歳の一般控除対象扶養親族)

特定扶養親族の場合の控除額は63万円、一般の控除対象扶養親族の場合だと38万円です。この額を加味した手取り額を試算してみましょう。

  • 課税所得金額:年収(3,000万円)-給与所得控除(195万円)-社会保険料控除(175万円)-扶養控除(101万円)=2,529万円

  • 所得税:課税所得金額2,529万円×所得税率40%-控除279万6,000円=732万円

  • 所得割(課税所得金額):年収(3,000万円)-給与所得控除(195万円)-社会保険料控除(175万円)-扶養控除(78万円)=2,552万円

  • 住民税:均等割5,000円+所得割(課税所得金額)2,552万円×住民税率10%=255万7,000円

所得税と住民税の合計は約987万円です。そのため手取り額は「3,000万円-987万円=約2,013万円」となります。この3分の1を家賃に充当する場合は、年間約671万円、月額約55万円の物件に住むことが可能です。100平方メートルを超える青山などにあるファミリー向けの分譲賃貸マンションなどに住める可能性が高いでしょう。

年収3,000万円の持ち家率

年収3,000万円の持ち家率を見てみましょう。

持ち家:年収3,000万円の住宅ローンの借入額

住宅ローンの借入可能額は、金融機関によって異なります。しかし借り入れる際には「いくら借りるか」ではなく「いくらなら無理なく返済していくことができるか」を優先することが大切です。そのためにも年収における年間の返済額(返済負担率)を考える必要があります。他にもローンを利用する可能性を加味すると無理なく返済していける返済負担率は20%程度です。

年収3,000万円で返済負担率が20%の場合、年間の返済額は600万円、月額に換算すると約50万円となります。仮に毎月50万円の返済を1.5%の固定金利で35年間返済する場合、借入可能額は約1億6,000万円です。住宅購入の際には、他にも諸費用が発生することや購入後の固定資産税の支払いなどを考慮すると若干余裕を持って1億5,000万円程度に抑えたほうがいいかもしれません。

選ぶ金融機関によっては、住宅ローンの融資限度を「1億円もしくは2億円まで」と決めている場合もあります。そのため利用する際には、借り入れする金融機関が取り扱う住宅ローンの内容を確認してから申し込むようにしてください。また2022年の税制改正で住宅ローン控除の適用を受けるための要件の一つとなる所得要件が従来の3,000万円以下から2,000万円以下に縮小されています。

給与所得者の場合、従来なら3,195万円以下であれば適用を受けられたものが2,195万円以下でなければ要件に当てはまりません。そのため住宅ローン控除の適用を受けられないことも認識しておく必要があります。

賃貸:年収3,000万円の家賃相場

賃貸物件を考えるなら上述した通り手取り額の3分の1程度に賃料を抑えるのが賢明です。一人暮らしであれば50万円程度、家族であれば家族構成によって異なりますが多くても55万円程度にとどめておきましょう。月額50万~55万円程度であれば都心のタワーマンションでの生活も夢ではありません。またファミリー向けの広い物件を探す場合でも立地条件のよい場所を選ぶことができそうです。

ただし賃貸物件の場合は、契約期間や更新時の費用などを契約時に必ず確認しておくことが求められます。そのうえで更新時や急な退去の際にも慌てることのない収支状態にしておきましょう。

年収3,000万円を稼げるおすすめの職業

厚生労働省が発表している「令和3年賃金構造基本統計調査」によると決まって支給される給与額の平均は約34万円でした。給与が多い例を挙げると以下の通りです。

職業決まって支給される現金給与額(月)
医師約105万円
パイロット(航空機操縦士)約81万円
大学教授約65万円
法務従事者約64万円
経営・金融・保険専門職業従事者約64万円
歯科医師約58万円
大学准教授約53万円

このような職業であれば、年収3,000万円に届く可能性はあります。ただし大学教授や大学准教授以外は、どれも難易度が高い資格が必要です。資格を得ることで高収入につながるため、高収入を得たい場合は早いうちから目標を立てて努力する必要があるでしょう。また公認会計士や税理士、社会保険労務士など経営・金融・保険専門職業従事者といわれる人たちも約64万円と高めです。

法務従事者(裁判官 や検察官、弁護士など)と同様に高収入を得られる可能性が高い職業といえるでしょう。さらに医師であれば勤務医と開業医で収入が異なり開業医であればより一層高収入を得られる可能性があります。また法務従事者など司法試験に合格している人であれば裁判官を辞めた後に弁護士として開業し高収入を維持することも期待できるでしょう。

サラリーマンでも外資系なら年収3,000万円以上稼ぐことはできる

前述した職業は、どれも難易度が高い資格や研究実績などが求められます。では、一般的なサラリーマンで年収3,000万円を目指すことは難しいのでしょうか。実は、サラリーマンでも年収3,000万円以上の収入を得られる可能性はあります。それは外資系の企業に勤めることです。外資系企業は、一般的に海外企業が日本で会社を設立しているケースが多いですが日本の会社との共同出資の会社もあります。

外資系企業は、日本企業と比べると給与水準が高いといわれているため、外資系の企業に就職すれば高収入を得られる可能性が高まるでしょう。

投資銀行

外資系の投資銀行と聞いて真っ先に思い浮かぶのは「ゴールドマン・サックス証券株式会社」ではないでしょうか。ゴールドマン・サックス証券会社(日本・六本木)の平均年収はおよそ2,000万円といわれており、かなりの高収入に位置しています。ただこの数値は平均年収のため、年代や役職別に異なってくるでしょう。ちなみに年代別では、以下の通りです。

  • 20代:約1,000万~1,500万円
  • 30代:約1,500万~2,000万円
  • 40代:約1,800万~2,400万円
  • 50代:約2,000万~2,500万円

また年収は、役職別でも大きく異なります。役職は大別すると「アナリスト」「アソシエイト」「ヴァイスプレジデント」「マネージング・ディレクター」です。それぞれの年収の目安は、以下のようになっています。

  • アナリスト:約800万~1,500万円
  • アソシエイト:約1,500万~3,000万円
  • ヴァイスプレジデント:2,000万円以上
  • マネージング・ディレクター:5,000万円以上~数億円

コンサルティングファーム

コンサルタント会社は、外資系にかかわらず比較的高年収の業種です。外資系のコンサルティングファームは、「戦略コンサルティングファーム」「総合コンサルティングファーム」に分かれています。平均年収は、30代で約800万~900万円と高めです。またコンサルティングファームも投資銀行と同様に役職によって収入が異なる点が魅力となっています。

例えば戦略コンサルティングファームの場合、「アナリスト」「コンサルタント」「マネージャー」「プリンシパル」「パートナー」の順に高くなる傾向でベースとなる年収は、以下の通りです。

  • アナリスト:約500万~800万円
  • コンサルタント:約900万~1,300万円
  • マネージャー:約1,400万~2,000万円
  • プリンシパル:約1,700万~2,500万円
  • パートナー:2,500万円以上

これらを踏まえると年収3,000万円も決して夢ではないといえるでしょう。

年収3,000万円は富裕層?業種別平均年収との比較

では、年収3,000万円を稼げる業種として挙げられるそれぞれの平均年収はどのくらいなのでしょうか。厚生労働省が発表している「令和3年賃金構造基本統計調査」と医療関係者については同省が発表している「第23回医療経済実態調査の報告(令和3年実施)」をもとに確認していきます。

勤務医

厚生労働省の「令和3年賃金構造基本統計調査」によると医師の決まって支給される給与額は、約105万円でした。また年間の賞与など特別給与額が約117万円のため、年間の支給額は約1,377万円となります。

ただ「第23回医療経済実態調査の報告(令和3年実施)」によると開業医の院長クラスの場合、入院施設を持つ病院であれば年収が約2,950万円、入院施設を持たない病院でも約2,670万円と3,000万円近くの年収です。

獣医

近年のペットブームから獣医師も人気の職業の一つです。しかし実際の収入は、決まって支給される給与額が約42万円、年間賞与額が約82万円で年収に換算すると約586万円で医師に比べると低いことがうかがえます。

公認会計士

公認会計士および税理士の毎月の平均給与額は約44万円、年間賞与を含む特別給与額は約120万円で約648万円が平均年収です。会社の規模によっても異なりますが、多くても800万円程度になっています。

中小企業診断士

中小企業診断士の業種は、社会保険労務士などと共に「経営・金融・保険専門職業従事者」に該当します。同項目の毎月の平均給与額は約64万円、年間賞与を含む特別給与額は約258万円で約1,026万円が平均年収です。特別給与額が他の業種と比べて高いため、コミッション収入の割合が多いことが予想されます。

年収3,000万円を稼ぐために必要な3つの習慣

年収3,000万円となるとかなりの高収入に属しますが、それに達するために心がけておくべきことはあるのでしょうか。実際に年収3,000万円の収入を得ている人が実践している習慣についてみていきましょう。

長期かつ広い視野を持つ

まずは、自分の視野を広げることを意識しましょう。特に同じ職場で同じ仕事をずっと続けていると仕事のやり方はもちろん仕事に対する考え方も職場の雰囲気や仕事の内容に伴って偏りがちです。「こうでなければならない」という偏った概念を捨てて多様な意見を取り入れることや新しいことに挑戦することを心がけましょう。

実践を継続していけば長期的に広い視野を持つことにつながります。新しい知識や経験を取り入れることを習慣づけることが大切です。

スキマ時間の有効活用

時間の有効活用も大事な習慣です。スキマ時間を自分のスキルアップの時間にあてることでそれが毎日少しずつであっても将来的には大きな成長につながります。物事を始めるのに遅いということはありません。興味のある分野の情報を取り入れるなどスキマ時間を自分の成長のために使う習慣を取り入れましょう。

氾濫する情報に惑わされない

現代では、スマホ一つでさまざまな情報を得ることができます。ただその情報が本当に正しいものなのかどうかを判断して自分なりに理解を深めることができる応用力がある人は少ないかもしれません。誤った情報に翻弄されるほど無駄なことはありません。そのような無駄な時間を省くためにもまずSNSなどで拡散されている情報に触れないことを意識しましょう。

具体的には、信頼できる情報しか見ないように極力SNSを見る時間を減らすなどを心がけることが大切です。

年収3,000万円の高所得者に税対策が必要な理由

年収2,500万円を超える割合が0.3%存在する一方で、年収100万円以下、年収100万円以上200万円未満の低所得者の割合が2017年度から増えていることも見逃せません。

つまり低所得者の割合が増えている中でも高所得者の割合についてはほぼ横ばい状態となっているのです。こういった背景を踏まえて高所得者の負担が増えるさまざまな税制改正が行われていくことが想定できるでしょう。

給与所得控除額の遷移

給与所得者の場合は、基本的に経費という概念がありません。そのため経費にあたる費用として「給与所得控除」が設けられています。給与所得控除は、収入額によって上限が設けられているのが特徴です。これまでの税制改正で給与所得控除の金額がどのように変わってきたのかについて以下の表で確認してみましょう。

適用年給与等の収入金額の最高値給与所得控除額(上限)
2013~2015年1,500万円超245万円
2016年1,200万円超230万円
2017~2019年1,000万円超220万円
2020年~850万円超195万円
※2021年5月時点

改正を重ねるにつれて給与収入の最高値および給与所得控除額も下がっています。また2020年からは、給与所得控除以外でも2,500万円超の所得者については基礎控除の適用がなくなったため、かなりの負担増です。さらに同年には、配偶者控除や扶養控除の合計所得金額要件が引き上げられたり公的年金等控除の額が引き下げられたりしました。

また2022年10月からは、75歳以上の医療費の自己負担を年収に応じて1割負担から2割負担へ引き上げられるなど個人の支出増につながる改正が決定しています。超少子高齢化や所得の2極化により今後もこのような税改正が継続していくと考えておいたほうがよいでしょう。

年収3,000万円の壁とは?

年収3,000万円といった高所得者に限らず所得額が一定額を超えると適用されない控除制度があります。

1 配偶者控除および配偶者特別控除

配偶者控除および配偶者特別控除を受ける要件の一つは「納税者本人のその年における合計所得金額が1,000万円以下」です。そのため年収3,000万円であればさまざまな控除を利用しても合計所得金額が1,000万円を上回ることが予想されることから適用対象外となる可能性が高くなります。

2 住宅ローン控除

住宅ローン控除を受ける際の適用要件の一つには「特別控除を受ける年分の合計所得金額が2,000万円以下」というものがあります。年収2,000万円ギリギリであれば所得控除を適用することで要件範囲内に収まりますが、それらの控除を適用しても所得金額が2,000万円を超える場合は住宅ローン控除を受けることはできなくなります。

3 住宅資金等の贈与非課税制度

住宅を購入する際に父母や祖父母など直系尊属からの贈与を受けた場合は、要件を満たすことで非課税制度を利用することが可能です。しかし要件の中には「贈与を受けた年の年分の所得税に係る合計所得金額が2,000万円以下」と記載があります。そのため年収3,000万円であればこの適用を受けることができません。

4 結婚・子育て資金の贈与非課税制度

結婚・子育て資金に充てるために母や祖父母など直系尊属からの贈与を受けた場合も要件を満たせば非課税の利用が可能です。しかし要件の一つに「贈与を受ける前年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下」と記載されているため、年収3,000万円の場合はこの制度の対象とならない可能性が高いでしょう。また教育資金贈与の非課税制度についても同様の扱いとなります。

関連記事:所得の多い人ほど知りたい!ふるさと納税を上手く活用する方法とは

年収3,000万円以上であればぜひ実践したい節税対策

年収3,000万円になると基礎控除や配偶者控除などが所得控除の対象外となり課税所得金額を減らすことが難しくなります。しかし以下の方法で課税所得金額を削減できる可能性はあるため、内容をしっかりと理解し積極的に活用するようにしましょう。

1 iDeCo・つみたてNISA

iDeCoとは、個人型確定拠出年金の略称で私的年金の一つです。iDeCoの掛け金は、全額所得控除(小規模企業共済掛金等控除)の対象となるため、ぜひ取り入れたい制度といえます。本人の属性によって毎月の掛け金の限度額が異なりますが節税しながら将来の年金を増やすことができる点でおすすめです。

またつみたてNISAの活用を考えてもいいでしょう。つみたてNISAの場合は、iDeCoとは異なり掛け金が所得控除の対象となるわけではありません。しかし最大20年間非課税で運用することができます。

2 ふるさと納税

ふるさと納税も所得税や住民税を節税できる有効な方法です。高収入の人ほどお得な商品がたくさん選択できます。ふるさと納税は、自分の選んだ全国の自治体へ寄付を行い、自己負担額(2,000円)を除く寄付金額が所得税や住民税から控除される仕組みです。所得税では、所得控除(寄付金控除)の対象となり住民税では税額控除の対象となります。

ふるさと納税で寄付できる金額の条件は、年収および家族構成によって異なります。例えば年収3,000万円で社会保険料約175万円、妻(専業主婦)子ども2人(17歳および19歳)の場合、自己負担額2,000円で寄付できる金額の上限は約101万円です。

3 運用に不動産投資を取り入れる

高収入であれば余剰資金を運用に回すことを考えている人も多いのではないでしょうか。投資先は、株式や債券、投資信託などさまざまなものがありますが不動産への投資をポートフォリオに組み入れることで節税につなげられる可能性があります。特に実際に不動産を取得して運用するケースならば投資対象の物件購入時には、それらの購入資金を経費計上が可能です。

これにより大きな節税効果が期待できます。

不動産投資による節税効果

年収3,000万円ほどの高所得者となると不動産投資を考える人も多いのではないでしょうか。

不動産投資が必ず節税効果を生むわけではない

不動産投資による節税の効果が期待できるのは間違いありません。しかし不動産投資が節税対策として有効となるのは、あくまでも不動産所得がマイナスとなった場合です。不動産所得は、給与所得と合わせて損益通算することができるため、節税効果を期待するのであれば不動産所得が帳簿の上で損失を出していることが条件となります。

不動産投資における節税のポイント

不動産投資において節税効果を高めるポイントは「減価償却費」です。投資対象となる物件を購入した場合、当該物件の減価償却費を費用として毎年計上することができます。不動産所得は、その物件から得る収入(賃料収入)から物件の減価償却費や減価償却費以外の経費を引いた金額です。そのため減価償却費をどれだけ大きくできるかが節税のポイントとなります。

物件の減価償却費は「築年数」「構造」「購入費用」によって異なるため、いかに減価償却費を多く計上できる物件を購入できるかで節税効果は大きく変わってくるのが特徴です。

節税対策として不動産投資を選ぶ際に注意すべきポイント

上の内容をもとに節税対策として不動産投資を行う際に注意しておくべきポイントを3つ紹介します。

1 土地よりも建物部分の割合を多くする

上述した通り不動産投資において節税効果を高めたい場合は「減価償却費」の活用が大切です。ただし減価償却費の対象は建物のみで土地は対象とはなりません。そのため投資物件として不動産を購入するなら土地よりも建物の割合が多い物件を選ぶことがポイントです。

2 修繕費は定期的なもの以外に突発的なものがある

投資物件は、設備を維持するための修繕費がかかります。あらかじめ把握できる費用もあれば突発的な修繕が必要になることもあるでしょう。特に築年数の古い物件の場合は、大規模修繕が必要なケースもあるため、注意が必要です。

3 売却するタイミングの見極め

不動産投資は「売却」までを視野に入れて考えることが大切です。いくら運用途中で利益を得ていても売却時に大きな損失を出してしまったのでは、その不動産投資は成功とはいえません。例えば物件の購入の際にローンを組んだ場合、そのローンの元金返済額が物件の減価償却費よりも多くなるいわゆる「デッドクロス」の状態になるとキャッシュフローが悪化してしまいます。

そのためデッドクロスとなる前に売却を検討する必要があるでしょう。さらに不動産価格は、変動するため、最終的に利益が得られるタイミングでの売却する出口戦略を考えておく必要があります。

法人設立を視野に入れる

不動産所得以外の収入が給与収入だけの場合は、法人化することでさらに節税することが可能です。法人化することで、経費の幅が広がります。例えば家族を役員にすることで報酬を支払い経費にすることも可能です。法人化する際には「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」への加入も合わせて検討しましょう。掛け金をすべて経費として計上することができます。

投資先としてヘッジファンドが注目されている

年収3,000万円の高所得者であれば資産を有効活用することも視野に入れておきましょう。節税対策としての不動産投資以外にも投資先を検討し資産が減少するリスクを分散させることが大切です。また現在ではその投資先の一つとして「ヘッジファンド」が注目されています。ヘッジファンドとは、株式や債券、その他の金融派生商品などに分散投資し高い運用収益を追求する投資信託のことです。

より低いリスクで高い収益を狙う資産配分を構成したり将来の金融危機に備えたりする目的で利用され、日本では年金などの機関投資家の資金を主に預かって運用を行っています。これまでもリーマンショックやコロナショックのような世界的な金融危機が起こった際には、世界の株式や不動産などの資産が暴落となりました。

一方でヘッジファンドは、相場に左右されずに収益を得るためのリスクコントロールを行いながら運用し上述したような金融危機の際にも高い収益率を達成しています。このような現実から今後起こりうる金融危機に備えた自分の資産を守る方法としてヘッジファンドへの投資が注目され、利用者も増加しています。

不動産投資も、節税対策そして資産形成における有効な投資方法ですが、今後の日本における空き家リスクを考えるのであれば、将来において資産を安全に増やす目的で、自身の投資商品の一つにヘッジファンドを組み入れてもいいのではないでしょうか。

年収3,000万円の節税対策に関するQ&A

Q.年収3,000万円の高所得者に税対策が必要な理由は?

A.高所得者の負担が増えるさまざまな税制改正が行われていくことが想定できるからです。

Q.所得額が一定額を超えると適用されない控除制度とは?

A.配偶者控除および配偶者特別控除、住宅ローン控除、住宅資金等の贈与非課税制度、結婚・子育て資金の贈与非課税制度などがあります。

Q.不動産投資による節税効果を高めるポイントは?

A.「減価償却費」や「法人設立による経費計上」の活用がポイントです。

Q.不動産投資を行ううえでの赤字決算は本当に節税になる?

A.基本的に不動産投資で赤字決算になった場合は、他の所得と損益通算することで節税することが可能です。ただし減価償却費よりもローンの元金返済額が多くなる場合は、キャッシュフローが黒字となり、節税効果が出ない場合もあるため、注意しましょう。

Q.減価償却費をどう活用する?

A.減価償却費は、毎年経費として計上することができます。経費が増えることで利益が圧縮されるため、決算内容によっては節税となるでしょう。減価償却できる法定耐用年数は、建物の構造と築年数で決まるため、できるだけ法定耐用年数が残っている物件を購入することが大切です。また築年数が法定耐用年数を超えている場合でも、法定耐用年数に0.2を乗じた期間を耐用年数として利用できます。

Q.損益通算の仕組みとは?

A.不動産所得や事業所得、譲渡所得、山林所得の金額に損失が発生した場合、他の所得金額から控除することができる仕組みです。

Q.デッドクロスとは?

A.不動産投資におけるデッドクロスとは「減価償却費<ローンの元金返済額」となることを指します。デッドクロスになると税金の負担が増えるため早めの対策が必要です。

Q.海外不動産への投資でも節税は可能?

A.できません。2021年度以降は、海外の不動産所得によって生じた損失については、国内の不動産所得の損益通算ができなくなりました。

Q.不動産投資で節税できるって本当?

A.節税効果は高いですが、必ずすべてのケースで節税となるわけではありません。物件の内容や売却のタイミング次第では、節税効果が期待できないケースもあります。

(提供:YANUSY

【あなたにオススメ YANUSY】
「財産債務調書」を提出している人は財産が○億円以上!
ポスト港区!? 次に富裕層が住み始めるセレブ区はここaだ!
【特集#04】こんな領収証ならバレない?私的支出を経費にしたときのペナルティ
固定資産税の過払いが頻発…還付を受けるための3つのポイント
資産運用としての不動産投資の位置づけ