無数にあるマーケティング戦略をどのような流れで決定すればよいのか?
(画像=THE OWNER編集部)

THE OWNER特別連載「経営者のお悩み相談所 〜経営コンサルタントが一問一答!〜」第21回目は「マーケティング戦略をどのような流れで決定すればよいのか?」という経営者のお悩みについてお答えします。

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【今回のご質問】
マーケティング戦略を作っていく上で、大まかにどのような流れで決定されますか?(例えば、WHO→WHAT→HOW) その際に、WHO,WHATは一個に決めやすいですが、HOWが山ほどあって決めきれません。(例えば、facebookやGoogleやYahoo!などプロモーション媒体が無数にあるので…)

マーケティング戦略を考えるときに何をどういう順番で考えればよいのか、はっきりと思い描いてすぐに実行できるマーケティング責任者は意外と少ないのではないでしょうか。複雑なマーケティング戦略を分解して、例も交えてわかりやすく考えてみましょう。

岩下 廉(株式会社ポムスタディ 代表取締役社長)
岩下 廉(株式会社ポムスタディ 代表取締役社長)
【略歴】製薬会社、国家公務員総合職での勤務を経て、ITベンチャー企業でディレクターを務める。20年1月より株式会社ポムスタディを設立して独立。
【学歴】東京大学 農学部 国際開発農学専修 卒
【資格】TOEIC970、将棋アマチュア参段
【株式会社ポムスタディ】マーケティングを中心としたコンサルティング事業および教育学習支援事業を推進。コロナ禍の状況下でも、増益増収を達成中。
HP:https://pom-study.com
Mail:info@pom-study.com

まずはオブジェクティブを確認してみましょう

マーケティングを行う際にまず何を初めに考えるかというのは戦略策定上、非常に重要なこととなります。私自身マーケティングのコンサルティングを行う際は、まずオブジェクティブ(=目的、目標)をはっきりさせることを念頭に置きます。

一般的にコンサルティングの際は外部の人間として社内に入っていくので、コミュニケーションミスがないように目的確認を行うという意味合いもありますが、企業によっては先に実施するマーケ施策のみが決まっており、目的が後付けになっていたり、ひどい場合ですとまったく目的がなかったりします。こうした事態を防ぐためにも、マーケティング目的の確認は必須だと感じています。さらに目的があることで、マーケティング戦略は格段に立てやすくなります。

それでは、目的はどのようにして決めればよいのでしょうか。マーケティングの目的は経営戦略からの大きな影響を受けます。例えば、伝統の味を大切にする創業300年の日本料理店と首都圏での大規模出店を得意とするファミリーレストランでは、企業として重んじる価値やアピールすべき内容が大きく異なることが予想されます。

まさに「企業として重んじる価値」というのが経営戦略のオブジェクティブであり、マーケティング戦略はこの価値の実現に寄与できるものでなくてはなりません。つまり具体的な手法としては、まず自社のビジョンやミッションに照らし合わせて、最終的に何を成し遂げたいのかを明確にします。続いて、そのためにマーケティングで何を目指していくべきなのかを洗い出します。このようにしてマーケティングのオブジェクティブを確認します。

自社分析と環境分析を行う

目的が決まればすぐにでも個別具体的な戦略を練りたくなりますが、実はそこにもう一つの落とし穴があります。マーケティングのオブジェクティブを決めるということは、自社としての軸を確認する作業です。この時点では、他社との関係性や市場での自社の位置など客観的な情報が不足しています。そこで活躍するのが自社分析や環境分析です。以下に有名なものをいくつかピックアップして紹介します。

1. SWOT(スウォット)分析

SWOT分析はStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つの頭文字を取ったマーケティング分析手法です。4分野それぞれに該当する環境要因をあげていき、2つ以上の要素を組み合わせることで解決策を見つける手法です。

強みと弱みというのは、内部環境であり自社でコントロールできるものとされています。この強みと弱みに関しては、先駆けて行った自社分析の内容と似たものが要素として上がるはずです。そして、機会と脅威は自社でコントロールできない外部要因が該当します。

例えば、有名ハンバーガーチェーンで考えると、価格が安いことが強みであり、脅威としては新型コロナウイルスによって店頭での販売が不振に陥ることが挙げられます。この2点から、価格が安いので外部のデリバリーサービスを利用しても合計価格が安価で価格競争力を失わないため、店頭での販売不振をデリバリー事業への転換で補うことができるという戦略を導き出すことが出来ます。

2. PEST(ペスト)分析

PEST分析は前述のSWOT分析よりもさらに外部要因にクロースアップした分析手法で、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の4要因に着目して分析を行います。SWOT分析に先駆けて行い、外部要因のOpportunityやThreatに気づきやすくするために活用できます。もちろんPEST分析単体としても有用で、外部要因の変化や特徴に着目して有益な戦略を編みだすことができます。

3. 3C(サンシー)分析

3Cとは、Company(自社)、Competitiors(競合他社)、Customers(顧客)の3つの頭文字を指します。日本人経営コンサルタントの大前研一氏によって考案された手法です。通常は、顧客→競合他社→自社の順番に分析を行います。

顧客分析では自社製品を含む商品群を購入している層の特徴を挙げていきます。性別、年齢、住所、家族構成など手元にある顧客のデータが詳しいほど詳細な顧客像が浮かび上がり、最終的な施策の成功率も上がります。場合によってはアンケートを取るなどして不足したデータを補うことも必要です。

次に競合他社について考えますが、この時は対象をやや広めに考えることが重要です。例えば、温泉施設の競合は温泉銭湯などの類似施設ばかりでなく、リラックススペースとして捉えると旅館やカフェなども潜在的な競合である可能性があります。

最後に自社の分析を行いますが、この際は自社の強みにフォーカスするようにします。顧客の意見や他社との比較から見えてきた自社にしかない強みを発見し、マーケティングの力でその強みを打ち出していくことで新たな顧客獲得につなげます。

分析結果からマーケティング戦略を考える

分析が終わった時点で、大まかかもしれませんが、ターゲットとなる顧客(WHO)と注力すべき自社製品(WHAT)が見えているはずです。見えていない場合は再度分析を見直してみましょう。前述の3手法を用いる場合は、まず外部要因を見てから内部要因へ、そして最後にその組み合わせを俯瞰するという順番が好ましいです。

具体的には、まずPEST分析を行って外部要因の洗い出しを行い、次に3C分析で顧客や競合他社といった重要な外部要因にフォーカスします。また同時に自社の強みや弱みを発見できれば、最後にSWOT分析で外部要因と内部要因を俯瞰して、自社にしか打ち出せない戦略を見つけるというような流れです。

ここで初めてどうやって顧客にアプローチを行うか(HOW)という問題が生じます。ご質問はHOWが膨大で決めきれないという内容でしたが、WHOとWHATが厳密に決まっているのであれば、媒体の特性から選ぶべきHOWは自然と少数に絞り込めるはずです。WHOもWHATも決まっていて、それでもどれを選べば良いのか分からないという場合は媒体特性についての知識不足が原因かもしれません。

例えばSNSであれば、フェイスブックは比較的高年齢層向けでBtoBにも利用でき、他方インスタグラムは若年層のユーザーが多くBtoCの中でも画像や動画で映えることが重要な飲食やファッションに向いていると考えられます。また、リスティング広告ではGoogle広告とYahoo!プロモーションに利用者数とユーザビリティ以外ではあまり大きな差はありませんので、広告費用の割合を調整しながらどちらにも出稿するなど、媒体特性を学んだ上で合理的に対処することが望ましいと考えられます。

ここまでに記載したことすべてを十分にご存知で、それでもなおHOWの決定に悩むという方はかなり少数ですがいらっしゃるかもしれません。常に新しい最先端のマーケティング手法を開拓しなければならないような業種の場合(広告代理店など)は、そもそも媒体についての知見が得られないこともあるでしょう。そうした場合は判断が難しいですが、現状得られる情報の中から最適と思われる戦略をとにかく策定して、まずは低予算で回してみることでしょう。ABテストを行ったり、あるいはPDCAのように少し長いスパンで考えてみたりと試行錯誤を繰り返すうちに、どんなに知見が薄い媒体でも最適な戦略が見えてくるはずです。

大きな方針から落とし込み、分析を行って最適な戦略を見つける

今回の話を整理します。次の3ステップを着実に実行していただければ、マーケティング戦略の大まかな策定の流れについては問題ないはずです。

(1)会社のビジョンやミッションといった大きな目標からマーケティング目標への落とし込みを図る。

(2)内部環境と外部環境の分析を行い、適切な戦略を見つける。

(3)HOWについて決めきれない場合は、PDCAを繰り返して最適な戦略を探る。

以上です。最後までお読み頂きありがとうございました。

文:岩下 廉(株式会社ポムスタディ 代表取締役社長)

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