京都議定書の採択で世界はどう変わった? 現代の実情と課題

森林等の吸収量や京都メカニズムクレジット(※温室効果ガスの売買を可能にした制度)を加味すると、京都議定書の削減目標はすべての締約国が達成している。日本も2016年3月に国連による審査が完了し、6.0%の削減目標を達成したことが正式に認められた。

温室効果ガス排出量の削減要因

しかし、温室効果ガスの排出量が削減した要因を見てみると、実際に環境対策が十分に進んでいるとは言いきれない。例えば、2008~2009年の主な削減要因は、世界金融危機による景気後退であった。また、2012年には欧州で債務危機が発生しており、これも温室効果ガスの排出量が削減したひとつの要因になっている。

なかには産業構造の変化や発電方法のシフトによって温室効果ガスを抑えた国も存在するが、すべての国が該当するわけではない。実際に世界金融危機から回復した2010年には、多くの国で温室効果ガスの排出量が増えている。

本当の意味で環境対策を進めるには、世界各国がパリ協定の目標達成に向けて積極的に動き出す必要がある。具体的には、森林等の吸収量や京都メカニズムクレジットに依存せず、温室効果ガスの「平均排出量」そのものを減らす努力が重要になってくるだろう。

環境問題について経営者が今後考えるべき3つのこと

今回解説したなかでもパリ協定は、今後の国際社会に大きな変化をもたらす可能性がある。では、世の中の経営者は京都議定書やパリ協定を意識したときに、どのようなことを考えるべきだろうか。

業界によって意識すべき点は多少異なるが、以下では経営者が特に考えたいポイントを解説する。

1.企業評価を意識した環境問題への取り組み方

京都議定書やパリ協定の影響で、環境問題への意識は世界中で強まっている。例えば、2015年の国連サミットでは世界中の貧困や教育、環境問題を解決するために、「SDGs(持続可能な開発目標)」が新たに採択された。

また、近年では「環境・社会・ガバナンス」の観点から投資対象を選ぶ、ESG投資も浸透してきている。つまり、環境問題への取り組みが企業評価につながる時代となっており、将来的には企業の環境対策がますます重視される。

したがって、特に温室効果ガスなどの有害物質を多く排出する企業は、ステークホルダーや社会から評価される環境問題への取り組み方を考えていきたい。

2.環境対策に関する補助金・支援制度の活用

パリ協定などで採択した目標を達成するために、政府はさまざまな補助金・支援制度を実施している。代表的なものとしては、二酸化炭素の削減に貢献した企業に対して補助金を交付する「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」が挙げられる。

環境対策は国家予算を費やして進められるものであるため、今後に関してもこのような補助金・支援制度が拡充される可能性は高い。補助金・支援制度を活用すると、設備などの導入コストを抑えながら企業評価を高められるので、政府や自治体が実施する制度はこまめにチェックしておこう。

3.発展途上国に進出するリスク

前述の通り、パリ協定の対象には先進国以外も含まれるため、発展途上国への進出事情は今後大きく変わる可能性がある。

産業が成長していない発展途上国にとって、自国に進出してくる外国企業は温室効果ガスの排出量を増やす要因となり得るものだ。そのため、地域によっては環境に関する法律が整備され、外国企業の立場が不利になることも考えられる。

場合によっては企業イメージや企業価値を下げることにもつながりかねないので、海外進出を目指している企業は現地の情報をこれまで以上に細かく調べておきたい。