資産管理会社を設立して、資産管理会社にて資産を管理している富裕層は多い。なぜ、富裕層は資産管理会社を設立するのだろうか。今回は、全3回に渡って、富裕層の資産管理の舞台となることが多い「資産管理会社」について特集してみたい。

オーナー経営者が資産管理会社を活用する理由
(画像=PIXTA、ZUU online)

上場会社オーナーが資産管理会社で自社株を持つ理由は?

資産管理会社は、富裕層の資産管理に活用される。そして、富裕層の多くはオーナー経営者(開業医や不動産オーナー含む)だ。したがって、資産管理会社はオーナー経営者がよく活用するものだと言えるだろう。なお、資産管理会社で管理する資産は自社株が主になる。

第3回では「なぜオーナー経営者は資産管理会社を活用するのか」について考えてみたい。オーナー経営者といっても、大きく分けて上場会社オーナーと非上場会社オーナーが存在する。それぞれ置かれている状況が異なるため、分けて考えるべきだ。まずは、上場会社オーナーについて考えてみよう。

レピュテーションリスク対策

上場会社オーナーが保有株式を大量に移動(異動)した場合には、株価への影響や株主順位変動によるレピュテーションリスクへの考慮が必要となる。

そこで資産管理会社を設立し、個人で保有する自社株を資産管理会社へ移動させることによって、自社株の保有名義は資産管理会社になる。保有株式の移動を完全に隠せるわけではないが、個人名で保有するときよりも、レピュテーションリスクは低下することが多い。

3%ルールの回避

上場会社からの配当金を受け取る場合、「特定口座で源泉徴収あり」であれば20.315%が源泉徴収(源泉分離課税)されるため、確定申告は不要だ。しかし、3%以上の上場株式を保有している場合は「大口株主」として扱われ、上記の対象外になる。

大口株主は、配当所得の課税方式が総合課税に限定され、その他の所得との合算で所得税が課されてしまう。これをプライベートバンクや富裕層の資産管理の世界では、俗に「3%ルール」と呼ぶ。

所得税は累進課税であるため、所得税と住民税を合わせた最高税率は55%に達する(実際は配当控除があるため、配当所得に対する実効税率はもう少し低くなる)。3%ルールに該当する人は、高額な役員報酬を得ていたり、その他の所得が大きかったりする可能性も高く、配当収入まで総合課税扱いになってしまうのは厳しいルールだ。

そのため、上場株式を3%以上保有する大口株主は、資産管理会社を設立し、個人で保有する上場株式を資産管理会社へ移動させることがある。これによって、上場株式からの配当は「個人の所得税」ではなく「資産管理会社の法人税」の対象となり、第1回でも解説した「所得税と法人税の税率の違い」から税負担を低くすることができる。

なお、「受取配当金の益金不算入制度」によって、法人が受け取る配当は、一部もしくは全額の益金不算入が認められている。保有株式の割合が、100%の場合は100%益金不算入(ただし上場会社に関しては起こり得ない)、1/3超100%未満の場合は100%益金不算入(負債利子控除)、5%超1/3以下の場合は50%益金不算入、5%以下の場合は20%益金不算入となっている。

上場会社オーナーの持分比率は1/3以下であるケースも多く、100%益金不算入となるのは難しい。ただ、個人の株式保有比率を3%未満まで下げることで、個人の配当収入は3%ルールを外れて20.315%課税となり、法人の配当収入もある程度は益金不算入が認められる。配当の全額を個人で受け取るよりは、法人個人を合わせた手残りが大きくなるはずだ。

法人に自社株を移すタイミングを失ったオーナーも・・

上場会社の大株主欄を眺めていると、配当を受けており、最高税率にタッチする収入を得ていそうなオーナーでも、個人で3%以上保有していることが散見される。これはどういうことなのだろうか。

個人から資産管理会社に自社株を移すとなると、税法上、個人から法人に売却したということになり、個人にはキャピタルゲイン課税が課される。一般的に、オーナーは創業時から株式を保有しており、簿価が極めて低いため、時価のほとんどが含み益だ。

その時点で売却してしまうと、時価の約20%に相当する多額のキャピタルゲイン課税が発生する。3%ルールを回避するメリット以上の資産毀損が発生するため、法人に移すタイミングを失ってしまったというのが実情だろう。

また、上場後にオーナー個人が株式を売却する際は、公開買付制度(TOB)などの規制もある。したがって、上場を前提とした会社経営を行っていくのであれば、資産管理会社への株式移転は、なるべく簿価との乖離が少ない非上場株式の段階で行ったほうが有利になることが多い。

非上場会社オーナーが資産管理会社で自社株を持つ理由は?

上場会社オーナーでなくても、非上場会社オーナーが資産管理会社で自社株を持つことは多い。

ひとつの理由は配当だ。個人が受け取る非上場株式の配当は総合課税扱いとなり、所得税・住民税を合わせた最高税率は55%なので、3%ルールを回避する流れと同様に「所得税と法人税の税率の違い」から税負担を低くすることができる。「受取配当金の益金不算入制度」を活用できることも同様だ。

また、当初は経営効率化のためにホールディングス化(持分会社に事業会社の株式を移動させること)にしたが、次第に、事業会社からの配当を吸い上げてオーナーファミリーに資金還流させるための箱(実質的なオーナーファミリーの資産管理会社)に扱いが変化するパターンもある。

資産管理会社は富裕層が知恵をこらした資産承継装置

ここまで全3回に渡って、富裕層と資産管理会社の関係について見てきた。資産管理会社は、日本の高い所得税や相続税を乗り越えて次世代に富を繋いでいくため、富裕層が知恵をこらした資産承継装置と言えるだろう。

資産管理会社の効果をフル活用するためには、次世代以降の相続まで念頭に置いた大局観を持つことが重要だ。なお、本特集に記載されている税制や税務判断の詳細に関しては、税理士などの専門家に確認して頂きたい。

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