EBITDAの活用における3つの注意点

EBITDAの活用における注意点を3つ解説していく。

注意点1.資金の流れを正確に把握できない

EBITDAは、企業のお金を稼ぐ力を主にキャッシュベースで把握したいときに役立つが、その背後にある借入金や設備投資は見えてこない。たとえば、借入金返済や期中に行った設備投資の金額などもEBITDAには反映されない。

また、キャッシュベースで把握できると強調したが、実際には支払利息や税金を差し引くため、EBITDAの値がそのまま企業にキャッシュとして積み上がるわけではない

その企業の価値を知るためには、「本業で儲けが出ているか」という視点だけでなく、「実際にどのくらいの資金が残っているか」という視点も重要だ。EBITDAを「企業のお金を稼ぐ力」として参考にしつつ、キャッシュフロー計算書など他の財務諸表も確認し、資金の流れを把握するよう努めたい。

注意点2.役員報酬や保険料にも着目すべき

中小企業でEBITDAを用いる場合、役員報酬や保険料にも着目する必要がある。

オーナー経営者の意向が強く反映される中小企業では、ライフイベントに合わせて役員報酬を増額したり、節税のため保険料を計上したりすることがある。決算書上は、当然このような費用も差し引いた営業利益、経常利益、税引前当期純利益が記載されている。

役員報酬を増額した結果、EBITDAが小さくなっても、本業でお金を稼ぐ力が衰えたわけではない。節税目的の保険料についても同様だ。そのため、中小企業でEBITDAを用いる時は、役員報酬と保険料の影響を除いた上で通期比較するなど、フラットに比較分析する工夫が大切だ。

注意点3.計算式が統一されていない

EBITDAは、決算書をもとに簡単に計算できるが、計算方法が統一されていないので少し粗い指標だ。そのため、EBITDAの計算式や特性を理解した上で、あくまで企業のお金を稼ぐ力の目安として参考にしたい。

もちろんEBITDAだけでなく、決算書の借入金額や資産項目に着目するなどして、総合的な観点で企業を評価・比較する視点を養うことも大切だ。

EBITDAに関連する3つの指標

EBITDAに関連する重要な指標がいくつかある。どの指標も、M&Aや投資先選定などさまざまなシーンで活用できる。各指標の意味や計算式、使われるシーンを詳しく解説していく。

指標1.EBITDAマージン

EBITDAマージンとは、売上に占めるEBITDAの割合であり、次の計算式で表される。

EBITDAマージン=EBITDA÷売上高

EBITDAマージンが高いほど、売上に対して多くの金額がキャッシュとして残っていると読み取れる。

売上が増加したが経費が増えていない場合、売上は横ばいだが経費が減った場合などに、EBITDAマージンも上がる。つまり、EBITDAマージンは企業の経営効率を表すといえよう。通年比較したときにEBITDAマージンが極端に上下している場合、その要因を把握することも大切だ。

EBITDAさえ計算すれば、EBITDAマージンも簡単に計算できる。毎年の事業状況を把握するためにEBITDAマージンを算出し、経営の参考にするのもいいだろう。また、投資先選定やM&Aの候補先選定においても、EBITDAマージンが参考になる。

指標2.EV/EBITDA倍率

EV/EBITDA倍率とは、EV(イーブイ)がEBITDAの何倍かを表す指標だ。日本語では簡易買収倍率といい、EV/EBITDAマルチプルと呼ばれるときもある。

EVとは、EnterpriseValueの頭文字で成り立つ用語であり、一般的に事業価値をさす。ある時点の企業を金銭的価値に置き換えた指標である。

EVとEV/EBITDA倍率の計算式は次の通りだ。

EV=株式時価総額+純有利子負債

EV/EBITDA倍率=EV÷EBITDA

純有利子負債は、有利子負債から現預金等を差し引いた値だ。EVでは、「負債=債権者が将来的に回収できる見込みがあると判断した金額」とみなし、時価総額に純有利子負債を足して事業価値を算出する。

EV/EBITDA倍率では、事業価値をEBITDAの何年分でまかなえるかがわかる。つまり、M&Aでは、買収にかかった初期投資額を何年で回収できるかを判断するのに役立つ。

EV/EBITDA倍率の相場は6倍~7倍ほどで、これより高ければ割高、低ければ割安と判断される。なお、国内ベンチャー企業のEV/EBITDA倍率は、3~5倍程度になることが多いといわれている。M&Aで妥当とされる目安は、4倍~8倍ほどだ。

ただし、国や業種、時期によっても変わるため、一概に判断せず、同業種・同規模の企業のデータを参照するなどの工夫が必要だ。

指標3.EBIT

EBIT(イービット)とは、Earnings Before Interest and Taxesの略語で、EBITDAと同じく、企業の価値を判断する上で参考になる指標だ。EBITの計算式は次の通りだ。

EBIT=税引前当期純利益+支払利息-受取利息

EBITでは、利息の影響を除けるものの、EBITDAとは異なり減価償却費の影響を除くことはできない。そのため、EBITDAより簡易的に計算できるものの、分析には注意が必要だ。

一方で、減価償却費が年々減少していくことによる影響や、設備投資のタイミングなどが浮かび上がるため、EBITDAとはまた違った視点での比較分析が可能だ。