社会保険による所得再分配
医療保険や介護保険、公的年金保険も、基本的には所得の多い者が保険料を多く負担する。各保険において保険料の仕組みを確認してみたい。
医療保険
医療保険とは、対象となる医療サービスを3割の負担で受けられる社会保険の1つである。
負担割合は、70歳からは2割、75歳からは後期高齢者医療制度によって1割に引き下がるが、所得が高ければ3割負担になることもある。また、被保険者が支払う月々の保険料の金額も、基本的には高所得者ほど多く低所得者ほど少ない。
このように窓口での負担割合や月々の保険料は、所得によって異なるものの、受けられる医療サービスの対象や給付金の額は平等であり、所得再分配の機能が備わっている。
保険料の仕組みは保険の種類によって異なる。医療保険の種類は、協会けんぽ(全国健康保険協会)、大企業などの組合健康保険、船員保険、共済組合、国民健康保険(市町村)などさまざまだ。
代表的なものを見ていこう。
【協会けんぽ】
多くの企業が加入する協会けんぽでは、個人が負担する保険料を「標準報酬月額×料率」で計算し、事業者を通じて毎月納める。
標準報酬月額が高いほど保険料の等級が上がり、保険料を多く負担する仕組みだ。必然的に、所得の高い者は所得の低い者が受ける医療サービスについても支える構造になっており、所得再分配の役割を果たしている。
【国民健康保険】
市町村が管轄する国民健康保険は、主に勤め先の健康保険に入っていない者が加入する医療保険である。国民健康保険の加入者がいる世帯では、世帯ごとに医療分・後期高齢者支援分・介護分の3区分で計算した保険料の合計を納める。
それぞれの区分には、所得割・資産割・均等割などの項目があり、トータルで各区分の保険料が決定する。所得割は、世帯の所得が高いほど多くかかる仕組みだ。
【75歳以上の医療保険】
75歳を迎えると、それまでの医療保険から後期高齢者医療制度に移行する。
後期高齢者医療制度における保険料は、均等割・所得割の合計額であるが、このうち、所得割は世帯の所得で判定される。世帯所得が高ければ保険料も上がる仕組みだ。
介護保険
介護保険とは、対象となる介護サービスを1割の負担で受けられる社会保険の1つである。
介護サービスの対象になるのは40歳からで、保険料の納付も40歳からはじまる。
保険料は1号被保険者(65歳以上)と2号被保険者(40歳以上65歳未満)で計算方法が異なるが、いずれも所得の高い者ほど多くなる仕組みだ。
負担割合についても、基本的には1割だが、65歳以上は所得が高ければ2割・3割に上がる。もちろん負担割合や支払った保険料の金額に関わらず受けられるサービスは平等であり、医療保険と同じように所得再分配の役割を果たしている。
公的年金保険
公的年金制度には、保険加入者が一定の年齢を迎えた場合に支給される「老齢年金」、保険加入者の死亡や障がいによって支給される「遺族年金」「障害年金」の3つに分かれる。
それぞれに20歳以上60歳未満の国民全員が加入する国民年金部分と、会社員や公務員などを対象とした厚生年金部分がある。
公的年金制度の仕組みは、3階建ての建物に例えられる。1階部分が国民年金部分、2階部分が厚生年金部分、3階部分が基金や確定拠出年金などだ。
年金保険料は現役の世代が納めて高齢者を支える「世代間扶養」の仕組みになっている。基本的に、国民年金保険料の負担は一律であるが、厚生年金保険料は1階部分となる国民年金を含めて「標準報酬月額×税率」で決まる。
所得再分配の機能が働いているのは、主に厚生年金保険だ。現役時代の所得によって年金受給額に差が生じすぎないよう調整されている。
年金は基礎年金部分と報酬比例部分で構成される。基礎年金部分は加入月数等で決まるため、それまでの所得に左右されない。
たとえばAさんとBさん(所得はAさんの半分で所得以外はAさんとすべて同じと仮定)がいたとしよう。
BさんはAさんの半分しか厚生年金保険料を払っていない。もし所得再分配が機能していなければ、Bさんがもらえる年金額はAさんの半分となるはずだ。
しかし、2人の基礎年金部分は同じなので、BさんはAさんの半分以上の年金を得られる。報酬比例部分があるので、Aさんのほうがたくさん年金をもらえることは変わらない。