日本の所得再分配の状況
厚生労働省では、昭和37年からおよそ3年に1回程度、税や社会保障による「所得再分配の状況の調査」を行っている。
所得再分配の調査に用いられる指標に「ジニ係数」がある。「ジニ係数」とは、所得の均等度を表す世界的な指標だ。0~1の間で変動し、0に近いほど所得格差が小さいことを意味する。
厚労省の調査におけるジニ係数は所得の低い順に調査対象世帯を並べ、世帯数と所得額の累積比率から算出した所得の格差より求められている。
所得再分配の調査結果では、当初所得から計算したジニ係数と所得再分配後のジニ係数、そして2つのジニ係数を比較した「ジニ係数改善度」(次項解説)を複数年にわたり、比較したものが示されている。
2005年~2021年までの、直近6回の所得再分配調査の結果では、2014年から「ジニ係数の改善度」が下がっていることが窺える。
【ジニ係数・改善度】
ジニ係数の改善度
ジニ係数の改善度は以下のとおり算出される。
ジニ係数の改善度
=(当初所得のジニ係数-再分配所得のジニ係数)÷当初所得のジニ係数×100
当初所得とは、所得再分配が機能する前の所得である。
給与所得、自営業の所得、財産所得、家内労働所得、雑収入、仕送り、企業年金、生命保険金などの合計額となる。
再分配所得は、当初所得に社会保障からの給付金(例:公的年金、児童手当、生活保護など)や現物給付(医療や介護サービスの給付)を加算し、社会保険料や税の支払いをマイナスして計算される。
日本では社会保険が所得再分配に貢献
所得再分配のジニ係数の改善度は、社会保障と税に分けてそれぞれ公表されている。
2005年~2021年までの直近6回の所得再分配の調査結果では、いずれも社会保障による再分配が圧倒的に高い。しかしながら、2014年からは若干減少している。
年齢階級別の所得再分配について
厚生労働省による「令和3年度所得再分配調査の結果」を見ていくと、世帯員の年齢を5歳ごとの階級に分け、各人の「等価所得」から「所得再分配係数」を計算した資料がある。
「等価所得」とは、世帯所得を世帯人員の平方根で割って調整したものだ。
この資料によると、所得再分配がより機能しているのは、65歳以上であることが推察できる。
・「所得再分配係数」とは
下記のとおり計算される。
(等価再分配所得-等価当初所得)/等価当初所得
年齢階級ごとの「所得再分配係数」は、どの年齢層に所得再分配が機能しやすいかを判断する一つの材料になる。
所得再分配がより機能していれば、等価再分配所得が大きくなり、所得再分配係数が大きくなるからだ。
結果は、0歳~59歳までの所得再分配係数はマイナスであるが、60歳からプラスに転じていた。
【60歳以降の所得再分配係数の一覧】
60歳~64歳 4.3
65歳~69歳 55.6
70歳~74歳 103.3
75歳以上 159.4
したがって高齢者であるほど所得再分配の恩恵を受けやすい場合が多いといってよいだろう。
【注意点】
所得再分配係数は、社会保険などからの給付がある場合、それを世帯員で均等に分けて計算している。例えば、高齢者に支給される年金や子どもに対する手当などがあっても、世帯員で均等に分けられている。したがって、特定の世代の所得再分配機能の公平・不公平さを完全に表しているものではない点に留意して活用する必要がある。
日本と海外の所得再分配
日本だけでなく海外の所得再分配の状況も気になるところだ。OECDによる「Income Distribution Database」のデータを参考に、アメリカや中国、スウェーデンのジニ係数も記載しておく。