不動産投資の情報収集を進めていると「オーナーチェンジ物件」という表記を目にすることがあるだろう。オーナーチェンジ物件にはどのようなメリットとデメリットがあるのだろうか。
今回は、どのような物件を購入すべきか検討している人に向けて、収益物件におけるオーナーチェンジとは何か、オーナーチェンジ物件のメリットとデメリット、なぜ売主はオーナーチェンジ物件を売るのかなどについて解説する。あわせてオーナーチェンジ物件を購入する場合の注意点や確認すべきこと、良いオーナーチェンジ物件を見つけるポイントについても紹介していく。
目次
1.収益物件におけるオーナーチェンジとは?
「オーナーチェンジ物件」とは、賃貸入居者がいる物件のオーナー(所有者)のみが変わる物件を指す。
収益物件には区分マンション、一棟マンション、アパート、ビル、店舗・事務所、一戸建てなどさまざまな種類があるが、売買対象となる物件がどの種類であっても、入居者がいてオーナーが変わる場合はオーナーチェンジ物件と呼ぶ。
2.オーナーチェンジ物件を購入すると引き継ぐ「権利と義務」
オーナーチェンジ物件は、単に不動産を購入するだけでなく引き継ぐ「権利と義務」があるため、あらかじめ確認する必要がある。なぜならオーナーが交代しても前のオーナーが賃借人(入居者)と結んだ賃貸契約がそのまま新しいオーナーに引き継がれるからだ。
2-1.引き継ぐ権利
前オーナーから引き継ぐことができる主な権利は、次の3つだ。
- 入居者から家賃の支払いを受ける権利
- 契約が終了するときに建物(部屋)を返還してもらう権利
- 契約が終了するときに入居者に原状回復してもらう権利
これらの権利と次に紹介する義務は、改正民法でしっかりと定められているため、オーナーの判断で変えることはできない。権利が保護される半面、義務を拒否することもできないため、オーナーの責任が及ぶ範囲をよく学んでおく必要がある。
2-2.引き継ぐ義務
オーナーが引き継ぐ3つの義務は、次のとおりである。
- 入居者に建物(部屋)を使わせる義務
- 建物に不具合がある場合に修繕する義務
- 入居者が退去するときに敷金を返還する義務
引き継ぐ権利や義務といっても不動産賃貸では常識的なことばかりだ。そのためそれほど難しい事項があるわけではない。
以上の引き継ぐ権利や義務を踏まえたうえで収益物件におけるオーナーチェンジのメリットとデメリットを確認しておこう。
収益物件におけるオーナーチェンジのメリット
オーナーチェンジ物件にはどのようなメリットがあるのだろうか。ここからは、オーナーチェンジ物件の主なメリットを列挙し、それぞれを解説していく。
空室を埋める手間とコストがかかりにくい
オーナーチェンジ物件はすでに入居者がいるので、空室を埋める手間とコストがかかりにくいことがメリットだ。空室リスクは不動産投資の大きなリスクの1つであり、それを当面は心配しなくて済むことは大きなアドバンテージといえるだろう。
ただし、一棟マンションやアパートのように複数の部屋が存在する場合は、オーナーチェンジ物件といえども空室が存在していることがある。そのときは、空室を埋める手間とコストがかかることには注意が必要だ。
物件を購入してすぐに収入が得られる
上記と関連するが、オーナーチェンジ物件はすでに入居者がいるので、滞納などがなければ物件を購入してすぐに家賃収入を得ることが期待できる。特に区分マンションや一戸建てなどにおけるオーナーチェンジの場合は、このメリットが顕著だ。区分マンションや一戸建てなどの収益物件は、「入居者がいる状態か」「空室の状態か」の2パターンしかなく、空室のまま引き渡しを受けた場合は賃借人が決まるまで家賃収入がない状態が続くからだ。
購入前に収支計算がしやすい
これも上記に関連するが、オーナーチェンジ物件はすでに入居者がいるので、物件を購入してすぐに家賃収入を得ることが期待できることから、購入前に収支計算がしやすい。
前述のとおり、一棟マンションやアパートの場合はオーナーチェンジ物件とはいえ、空室が存在しているケースがある。このケースであっても最近入居者が決まったほかの部屋の家賃料を参考に収支計算をすることができる。
収益物件におけるオーナーチェンジのデメリット
それでは、オーナーチェンジ物件にはどのようなデメリットがあるのだろうか。ここからは、オーナーチェンジ物件の主なデメリットを列挙し、それぞれを解説していく。
購入前に室内の確認ができない
オーナーチェンジ物件はすでに入居者がいるので、原則として、購入前に室内を確認することは難しい。また、購入後もその入居者が退去しない限りは難しいといえる。
入居者がいると室内の壁やフローリング、設備の劣化具合が確認できたいため、退去した段階で確認したところ想定以上に劣化していて多くの修繕費がかかってしまったというケースもある。
さらに、部屋の間取りは購入前に販売資料などである程度確認できるものの、「実際の間取りは異なる場合があります」などの免責文言がついている場合も多い。購入後に入居者が退去して、いざ初めて室内を確認したら、「想像していた間取りとぜんぜん違う……」となってしまう可能性があることには注意が必要だ。
入居者との条件変更ができない
原則として、前オーナーと現入居者が結んだ賃貸契約は条件変更ができない。「賃料をもっと上げたい」と思っていても、オーナーチェンジしたタイミングでの値上げはできず、次の更新時期を待つ必要がある。
さらに、前オーナーがサブリース契約を締結している場合はさらに注意が必要だ。サブリースとは不動産の一括借り上げ方式のことだ。不動産会社などの事業者が、土地や建物の所有者(大家)から不動産を一括して借り上げて、一定の金額を所有者に支払う。所有者には、満室時の80%〜90%のサブリース料が支払われることが多い。
サブリース契約を解約するときは、一定の解約料がかかる場合もある。サブリース契約自体は悪ではなく、上手に使えば有用な方法だが、前オーナーがサブリース契約を締結している場合は、原則としてその契約を引き継ぐ必要があるので注意が必要だ。
また、何らかの事情により、そのエリアの相場賃料よりもサブリース賃料のほうが高くなっている物件もある。その場合、将来的にサブリースの賃料減額が要請されたり、サブリース会社から一方的に契約を解除されたりする可能性がある。契約が解除された場合、賃貸の募集を新たに行わなければならないが、相場賃料よりも高い賃料での募集は入居者が決まらない可能性がある。その結果、募集家賃を下げざるを得なくなり家賃収入が減少する可能性があるので注意したい。
なぜ売主はオーナーチェンジ物件を売るのか
これから不動産投資を始めようとする人からすると、「なぜ売主は、空室にならない限り定期的に賃料を得ることができるオーナーチェンジ物件を手放すのか」と疑問に感じるかもしれない。
ここからは、売主がオーナーチェンジ物件を売る主な理由について解説する。オーナーチェンジ物件を購入するときは、売主が売る理由をしっかり確認しよう。なかなか本当のことを言ってもらえないケースも想定されるので、少なくとも「売主が売る理由」を推察するようにしたい。
不動産価格が上昇したため
まず、「不動産価格が上昇し、利益確定をするために売却する」という理由が挙げられる。不動産投資の利益には、定期的な賃料(インカムゲイン)のほかに、物件の値上がり益(キャピタルゲイン)もある。購入時よりも不動産価格が上昇し、キャピタルゲインを得るために売却するという売主もいるだろう。
ほかの収益物件に買い換えるため
上記に関連して、「ほかの収益物件に買い換えるため」ということも挙げられる。ほかの収益物件に買い換える理由はさまざまだが、例えば規模拡大を進めたい不動産投資家のなかには、いま保有している物件を売却し、その資金を頭金にローンを組み、より大きな収益物件を購入する人もいるだろう。
まとまった資金が必要になったため
「まとまった資金が必要になったため」ということも挙げられる。例えば、結婚資金を確保する必要がある、マイホームを購入するので頭金が必要になった、ほかのローンや損失を補填するために使う、などが想定される。その資金の必要性(緊急度)が高ければ高いほど、迅速に売却したいということであり、買主側としては指し値が通りやすい(値段交渉がしやすい)ケースといえる。
物件が満室もしくは満室近くになったため
「物件が満室もしくは満室近くになったため」ということも挙げられる。一棟マンションやアパートの場合、空室が埋まっていない状態に比べて、埋まっている状態のほうが高く売却できる傾向がある。
不動産投資家のなかには、空室が多い一棟マンションやアパートを安く購入して、もしくはゼロから建設して、空室を埋める努力を行い、物件が満室もしくは満室近くになったら高値で売却して利益を狙うスタイルの人もいる。
売主にとって不都合なことがあるため
「売主にとって不都合なことがあるため」ということも挙げられる。例えば、大規模修繕の時期が近い、入居者の退去時期が近い、入居者とトラブルが起きた、周辺環境が変化したなどが挙げられる。買主側としては、事前に察知しておきたい理由と言える。
6.敷金や原状回復はどうなるのか
オーナーチェンジ物件を購入した場合、敷金や原状回復費用の負担はどのようになるのだろうか。基本的には、購入後に前オーナーがかかわることはほとんどない。そのため入居者への対応は、すべて新オーナーが行うと考えたほうがよい。
6-1.敷金の問題
入居者が入居した当初に支払った敷金は退去時に返還する義務をオーナーは負う必要がある。オーナーチェンジ物件を購入する場合、この義務は旧オーナーから新オーナーに引き継がれることになる。
一般的にオーナーチェンジ物件の売買において売買代金支払いの際に売買価格から敷金相当額を差し引くことで旧オーナー新オーナーとの間で敷金精算することが多い。
6-2.原状回復の問題
入居者が退去するときに原状回復してもらう権利を引き継いでいるため、入居者の使い方の問題で損耗した箇所は、入居者に原状回復費用を負担してもらう。一方で経年劣化や通常使用して生じる損耗についてはオーナーの負担となる。どちらが負担するかの線引きについては、国土交通省がガイドラインを公表しているため、ダウンロードして参考にするとよいだろう。
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改定版)のダウンロード ※この先は外部サイトに遷移します。
7.オーナーチェンジ物件を購入する場合の注意点
オーナーチェンジ物件は、魅力的なメリットが多い。しかし購入する場合には、次の点に注意することが必要だ。いずれも利回りに関する注意事項である。中古物件の場合は、広告に想定満室利回りが掲載されているため、空室が出れば利回りは低下することに注意が必要だ。
7-1.悪質なオーナーチェンジ物件に注意する(適正賃料など)
オーナーチェンジ物件のなかには、悪質な内容の物件も存在する。よくあるのが「物件の価値を上げるため見せかけの入居者を使って高い家賃に設定し利回りの良い物件に見せかける」という手口だ。入居者がいると思って購入したにもかかわらず、しばらくして見せかけの入居者が退去してしまい空室が発生する事態となりかねない。
このケースの手口を見抜くには、広告を鵜呑みにせず、ほかの部屋の家賃を不動産会社へ確認することだ。例えば、ほかの部屋の家賃は安いのに売りだしている部屋の家賃だけ突出して高ければ悪質な物件の可能性がある。ただし入居者の居住年数が長く家賃の更新を続けた結果高くなっているケースもあるため、一概に悪質な物件と断定することはできない。
見せかけの入居者であれば入居期間が短期なはずなので居住年数も不動産会社に確認するとよいだろう。
7-2.物件タイプによって利回りに差が出る
ワンルームマンションやファミリーマンションなど、物件タイプによって利回りは異なるので注意が必要だ。家賃収入を物件価格で割った表面利回り(想定利回り)ではファミリータイプが若干高く、一度入居すると比較的長期間の入居が見込める傾向にある。一方でワンルームの場合、表面利回りは下がるものの、ファミリータイプに比べ入居者が早く決まりやすい傾向にある。
8.良いオーナーチェンジ物件を見つけるポイント
良いオーナーチェンジ物件を見つけるには、どのようなポイントに着目すればよいのだろうか。次に挙げる3つの事項はいずれも調査に関するポイントだ。事前に問題点を調べておくことは、購入してから後悔しないためにも必要な作業といえる。
8-1.物件に足を運んで現地調査をする
物件を購入する際は、現地に足を運んで物件を自分の目で調査することが大切である。なぜなら不動産広告に書かれている物件概要はあくまでも情報にすぎないからだ。周辺環境は、実際に現地を歩いてみないと細かい問題までは気づかない可能性がある。
8-2.物件を手放す理由を調べる
物件を手放す理由は、価格交渉にも大きく影響するため、事前に知っておきたい。先に手放す理由を5つ述べたが、このうち「物件が満室もしくは満室近くになったため」という理由であれば、売り手が有利になる。物件価値が高いため、値下げしてまで手放すことは考えにくい。逆に「まとまった資金が必要になったため」という理由の場合は、ある程度売却を急いでいるので買い手が有利となり、多少の値下げ交渉も可能だろう。このように手放す理由によって値下げ交渉の可否が異なるので理由を調べる必要があるのだ。
8-3.契約内容や経営状況を調べる
オーナーチェンジ物件は、前オーナーと入居者が交わした契約を引き継ぐため、自分で条件を決めることはできない。そのため契約内容をよく調べることが重要だ。契約書には、家賃や保証人の有無、敷金の取り扱いなど重要な情報が載っている。不明な点があれば購入前に前オーナーに問い合わせたうえで書面に記録しておくとよい。
経営状況については、不動産会社が細かい点までは教えてくれないケースも考えられる。しかし区分物件の場合なら現在の入居者がどれくらいの入居期間か知るだけでも推測することは可能だろう。一棟物件の場合は、集合ポストの表札を見れば空室の状況がわかりやすい。
9.購入する際に不動産会社に確認すべきこと
物件の購入を決めた後は、不動産会社へ売買契約に進む前に次の2点を確認することが必要だ。売買契約後にキャンセルすると違約金が発生する場合があるため、契約前は慎重に行動したい。
9-1.購入を検討するのに必要な書類をそろえられるか
オーナーチェンジ物件の購入を検討する際は、必要な書類を不動産仲介会社に請求することが必要だ。しかしこのとき不備が目立つようであれば物件管理に不安があるため、慎重に検討したほうがよい。最低限必要な書類は、次のとおりである。
- 登記簿謄本
- 固定資産税納税通知書
- レントロール(不動産の賃貸条件一覧表)
- 建物の損害保険料に関する資料
- 管理費に関する資料
- 修繕履歴
これらの書類は、基本的なものであり実際の売買ではこのほかにも確認すべき書類は多岐にわたる。土地測量図・境界確認書のようにマンションの売買では必要ないが土地や土地付きのアパートなどの一棟物件、一戸建てを売買する場合は確認が必要な書類もあるため注意したい。
9-2.購入する物件に懸念する事項はないか
書類を確認したら最後に購入する物件に懸念する事項がないか不動産会社に確認してから売買契約に臨むことが大事だ。基本的な概要は「重要事項説明」で知ることができるが、なかには重要事項説明義務がない事項もある。例えば家賃の減額交渉中の入居者がいたとしても不動産会社に説明の義務はない。そのため重要事項説明になかったことは、不動産会社に質問して確認したほうがよい。
優良な不動産会社なら買い手に不利益になる事項は、開示してくれるはずである。
10.オーナーチェンジ物件はメリット・デメリットや注意点をよく確認して検討しよう
ここまで、どのような物件を購入すべきか検討している人に向けて、収益物件におけるオーナーチェンジとは何か、オーナーチェンジ物件のメリットとデメリット、なぜ売主はオーナーチェンジ物件を売るのかなどについて解説してきた。オーナーチェンジ物件は、デメリットがあるものの、物件を購入してすぐに収入が得られるため、空室を埋める手間とコストがかかりにくく、購入前に収支計算が立てやすい物件だ。
一方で、オーナーチェンジ物件の購入は、入居者のいない通常の売り出し物件を購入するのとは条件が異なるのも事実である。オーナーチェンジによるメリット・デメリットや注意点をよく確認して購入を検討するようにしよう。
(提供:manabu不動産投資 )
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