本記事は、押野満里子氏の著書『社長はメンタルが9割』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
「自己犠牲の罠」にハマってしまったら
日本人は、「自己犠牲」が大好き?
私は個人的に、「日本人ほど、自己犠牲が好きな国民はいない」のではないかと思っています。
「ああっ、私は今、人のために自己犠牲している」って、ある種の快感を得ている。
欧米人は、「自分の喜びのために動ける人が8割、他人の喜びのために動ける人が2割」。これに対して、日本人は「自分の喜びのために動ける人が2割、他人の喜びのために動ける人が8割」だという説を聞いたこともあります。
私の実感もそんな感じです。感情コンサルをしていて思うことは、他人のために自分を犠牲にしている人が本当に多いということです。
自己犠牲が好きで、快感を得ているだけならいいのです。でも、感情コンサルにこられた社長さんのなかには、「社長なんだから仕方なくやっているだけで、本当は自由にやりたいし、こんなことも言いたくない。でも、社員のために言っているんです」って、涙を流す方もいる。
はた目には、好きで自己犠牲をしているように見える社長さんでも、実は苦しんでいるんです。
街角で、「何のために働いているのですか?」って聞かれると、多くのサラリーマンが、「家族を養うために」って回答します。「仕事が楽しいから」なんて答える人は、ほぼ、いません。
これって、「家族のために(やりたくない)仕事をしている」というふうに聞こえるのは、私だけではないですよね。
だとしたら、まるで当然のことのように、「自分はやりたくないのに」という部分が抜けてしまっています。
私は、「やりたくないことは、やらなくていい」と言いたいわけではありません。その行動のなかに隠れている、「自分の本音」をちゃんとわかっていますか? ということが大切だと言いたいのです。
誰かのために動けることは素晴らしいこと。ただ、「誰かのために」の行動の前に、「自分はやりたくない仕事を家族のためにやっている」という自分の本音を、ちゃんとわかっていますか? ということです。
その「働きたくない」という思いと、「働かない」という行動は別のものです。
自分の思いをちゃんとわかって行動しているなら、自分に嘘をついていないということです。
自分の思いと行動が別のことをしているとき、自分を犠牲にして頑張っているのだと、認識していますか。
逆に言えば、どんなにお客様のために徹夜をしていても、その仕事が「自分が楽しくてやりたいこと」だとしたら、その人は「頑張って」はいません。
歓びの思いで、やりたいことをやっている人ほど、本物であり、人間力の大きい人だと私は思っています。
ビジョンや理念に立ち返る
ただし、「自分のために」という思いだけで会社を経営していたら、たぶん、2、3年しかもたないのではないでしょうか。なぜなら、そこにはお客様が不在だから。
その本音が見透かされ、お客様や取引先から見放されたり、社員も辞めていくかもしれません。
自分のためだけに仕事をしていても会社が継続しない、自己犠牲でやっていても辛くなる……。では、社長さんはどうすればいいのでしょうか?
いつも、「そもそも、なんで、自分はこの仕事をしているんだっけ?」という初心を忘れないことが大切です。
言葉としては、ビジョンとか理念とか経営方針とか、もっと簡単に「会社にかける思い」とか、なんでもいい。「なんで、自分がこの会社をやっているのか」を忘れないようにしていただきたいのです。
トラウマやコンプレックスだけが原動力になっていたり、業績不振になって、つい、お金、お金、お金になってしまったりして、この初心を忘れると、軸が揺らいで辛くなってしまいます。
それに、軸が揺らいでいる経営者の下にいる社員たちは、「何のために」が共有できないのでまとまりがなく、振り回されている、という思いが強くなりがちです。
いっぽうで、「ビジョンや理念」がはっきりしていれば、自分がやるべきこと、やらなくていいこともはっきりします。
たとえば、「品質を落とさず、約束を守って、周りの信頼に応える」というのがビジョンなら、少しくらい売上が下がっても、「品質は絶対に落とさない」って、すぐに判断できるはずです。
軸がしっかりしていれば、トラウマやコンプレックスによって、「周りから低く見られるんじゃないか」って不安になることもありません。
「俺1人が頑張っているのに、社員たちは気楽すぎる」なんて、自己犠牲の罠にハマらなくて済むに違いありません。