本記事は、村松由美子の著書『話し方に自信がもてる 声の磨き方』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています

緊張をゆるめるコツ

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(画像=PIXTA)

過度の自制とともに、日本人がとらわれやすいのが「緊張」でしょう。

あなたもこんな方を見たことはありませんか?

冒頭で、「どうぞリラックスしながら最後までお聞きください」と言ってプレゼンを始めたものの、その本人がどう見てもすごく緊張している……。

顔は硬くこわばって、出る声はかすかに震えています。

声はときどきうわずったり、かすれたり。なんだか聞いているこちらまで、緊張してしまいますよね。

こんなふうに、話し手が緊張すると聞き手はリラックスできません
無意識のうちに、話し手の緊張に共感してしまうからです

私たちの脳には、他人がしていることを自分のことのように感じさせる(共感させる)、「ミラーニューロン」という神経細胞があります。

この神経細胞のため、聞き手は話し手の「声」に影響を受けて、同じようにだんだん緊張していきます。

そう、緊張って伝染するんです。

このことに関連して、私が昔、アナウンサーになるための学校に通っていたときに言われたことを、まだ覚えています。

「人前に立つ人間は緊張するな。
見てくださる方が緊張してしまうから。
人前に立つ人間は恥ずかしがるな。
見てくださる方が恥ずかしくなってしまうから。
見てはいけないような気持ちになってしまうから」

本当にそのとおりだと、今も強く思います。

思わず目をそむけたくなるような人の言葉を、信頼なんてできませんよね。

だから、緊張しながら自信なさげな声を出す人の話は信頼されません。

「咳払い」をする

では、緊張をほぐすにはどうすればいいでしょうか?

一番簡単な方法が、「咳払い」です。

話をする前に、軽く「えへん」とやるだけで、心臓のドキドキも震えも、不思議とスッとおさまります

咳払いは本来、鼻、口から肺に空気を送り込む「気管」に入り込んだ異物を取り除くための行為。窒息の危険のある「誤嚥(ごえん)」を防いでくれるものです。

咳払いをすると、喉や気管などの体の緊張がいったんゆるみます。すると、気管に入り込んでいた異物が取れやすいように、咳払いを合図に体が自動調整してくれるため、自然と体がリラックスするのです。

喉もスッと開いて、緊張から出づらくなっていた声もラクに出るようになります。

吐く息の長い深呼吸をする

また、緊張解消のために心身のリズムを調整するという方法もあります。

私たちは、体と心、両方にリズムをもっています。

実は、緊張するとこのふたつのリズムは速くなります。リラックスすると、逆に遅くなります。

たとえば人前に立ったときに、過度に緊張して困るという場合は、この緊張して速くなったリズムのスピードを下げると、緊張感が緩和され、心身がリラックスに向かうということです。

では、そのリズムとはなんなのか。

まずは、体のリズムについて説明します。

手首のところに指を当てて、脈をとってみてください。
ドクン、ドクン、ドクン……。

手首でとりにくい場合は、あごの下あたりの首元で脈をとってみてください。

脈を感じることができたら、そこに指を置いたまま、まずは息を吸ってください。

もうこれ以上吸うことができないというところまでいったら、今度はまだそこに指を置いたまま、息をゆ~っくり「ふ~~~~」と吐いていってください。

ではもう一度やってみましょう。

指先で脈拍のスピードを感じながら、息を吸います。

これ以上吸えないというところまでいったら、また息をゆ~っくり「ふ~~~~」と吐いていく。

ここで確認してほしいことがあります。

息を吸っているときと吐いているときでは、脈拍のスピードが変わるということです。

吸っているときに脈拍は速くなり、吐いているときに遅くなります。

なぜこうなるのかというと、呼吸と自律神経が密接につながっているからです。

自律神経は日中に人を覚醒状態にしたり、夜にはリラックスさせて眠りにいざなうなど、人間の生命維持にとても重要な役割をしています。

この自律神経には、交感神経と副交感神経のふたつの種類があります。

交感神経は心身を覚醒、緊張状態にします。副交感神経は心身をリラックス状態にします。

息を吸うと交感神経が優位になります。つまり、心身は覚醒し、緊張状態に向かうので脈拍は速くなります。

逆に、息を吐くと副交感神経が優位になります。というよりも、交感神経がブロックされて副交感神経のみになるので、当然、心身がリラックスし、落ち着いていくのです。

人前で緊張しているとき、「あー、ドキドキしてきたー!!」なんて言いますが、ドキドキとは心臓の鼓動が速くなるということです。

心臓の鼓動は脈拍に反映されるので、緊張すると脈拍が速くなります。

ということは、緊張したときは呼吸をする際にゆっくり息を吐くと心臓の鼓動のスピードが落ち着き、心も落ち着いていくということですね。

落ち着きたいときには深呼吸をしましょう、とはよく言ったもので、こういった理由があるのです。

ですが、「これから人前で話すので深呼吸をします」という方をよく見てみると、とにかく目一杯息を吸って、少ししか吐き出していない方のなんと多いこと。

これではリラックスするどころか、緊張感が増して、余計に頭の中を真っ白にしてしまいます。

人前で話す前に、緊張解消のために深呼吸をする方法は有効ですが、その際には吸う息よりも吐く息を長くして、ゆっくりと吐き切ることが大切なポイントです

緊張感を緩和させるためには、ゆったりと吐く息が長い深呼吸をしましょう。

指先や手のひらでゆっくりリズムをとる

次に、心のリズムについて説明します。

自分の心のリズムを知るために、利き手の人差し指を使います。

では、またやってみましょう。

利き手の人差し指で、机の上をトントンと叩いてください。

トントンと叩き続けながら、こんなイメージをしてください。

あなたは午前の仕事を終え、ランチを食べようとパスタのお店に入りました。

メニューの中から食べたいものを選び、オーダーを済ませました。

ですが、10分、15分待っても、なかなか頼んだ料理が出てきません。

おかしいな? と何気なく隣の席の人を見てみると、明らかに自分よりも後にオーダーしたはずの料理が運ばれてきています。

あれれ? お店の中を見回してみると、自分よりも後にオーダーした人に、やはりどんどん料理が運ばれてきています。

はっと腕時計を見ると、休憩時間が残り15 分しかありません。

「えっ!?もう時間切れじゃないか! 」

さて、机をトントンと叩いている指の速さは、どうなりましたか?

叩く速さはどんどん速くなったと思います。

イライラしたり、プレッシャーを受けたり、緊張感が高まると、心のスピードは速くなるのです。

心の状態が指先に反映される

ということは、指先から心を誘導することができるのです。

普段の自分の指先のスピードをだいたい知ったうえで、人前で話す機会がある方は指先のスピードの速さを確認してみてください。

立って腕を下に伸ばしたまま、手のひらで太ももの横を叩く方法でもかまいません。

緊張感が強ければ強いほど、スピードは速くなっていきます。

スピードがすごく速い! やっぱりものすごく緊張しているぞ! というときは、叩いている指先や手のひらの速さを、徐々にゆっくりとしたスピードに落としていきましょう

気持ちがゆったりと落ち着いてくるはずです。

実は私たちは、本能的にこのリズムの速さを調整することが緊張感を下げること(感情の調整)につながることを知っています。

たとえば、大泣きしている赤ちゃんをあやしているお母さん。

赤ちゃんを泣きやませるために何をしているでしょうか?

赤ちゃんの背中をトントンと叩き、落ち着かせようとリズム調整をしていますね。

誰に教えられなくても、赤ちゃんの泣き方が激しければ激しいほど速く、赤ちゃんの背中をトントン叩いています。

それから徐々に叩くスピードをゆっくりと落としていきます。

そうすることで、赤ちゃんは次第に落ち着いて泣きやみます。

そう、私たちは指や手のひらなど、体が心のリズムとつながっていることを知っているんですね。

この方法を赤ちゃんにではなく、緊張している自分自身に使って落ち着かせればいいのです。

体と心のリズム調整を両方使うことで、過度な緊張をゆるめることができます。

人前に立って話す前に、大きくゆっくりと息を吐きながら、指先や手のひらのリズムを徐々に落としていってください。

これを3回くらい繰り返すと、過度な緊張がとれた状態で話し始められます。

ぜひお試しください。

話し方に自信がもてる 声の磨き方
村松由美子(むらまつ・ゆみこ)
一般社団法人感動ヴォイス協会代表理事。感動ヴォイスクリエイター。 伝え方コンサルタント。専門健康心理士。
京都生まれ。大学在学中にテレビのレポーターとしてはじめて「伝える」仕事を経験。就職した企業では広報・IRとしてプレゼンテーションを実施。 その後、フリーアナウンサーに転身。テレビ・ラジオのニュースキャスターをベースに、パーソナリティ、レポーターなどを務める。ナレーション・CM ソングを担当したラジオCMが2年連続ACC広告賞受賞。2009年、桜美林大学大学院に入学し、身体心理学における声とメンタルの関係を研究。ヴォイササイズ(声のエクササイズ)で声が変化すると同時に、メンタルアップと印象アップの両方の効果が出ることを、世界ではじめて実証する。2011年、その研究結果を論文にまとめ、ヨーロッパと日本の健康心理学会で発表。2014年、一般社団法人感動ヴォイス協会を設立。
現在は、企業研修講師、セミナー講師として全国で活動し、主にヴォイス・プレゼンテーション・コミュニケーション・メンタルを軸にさまざまな分野 のセミナー・研修を行っている。これまでの総受講者数はのべ4万人におよび、受講者満足度も98%と高い評価を受けている。受講者や聞き手を惹きつけ、突き動かしていくための感動ヴォイスを起点にした、感動の空気・空間づくりができる感動ヴォイステラーを育成・支援している。

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