本記事は、ポール・ジャルヴィス氏(著)、山田文氏(訳)の著書『ステイ・スモール 会社は「小さい」ほどうまくいく 』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています
内向的でも優れたリーダーになれる
ビジネスの世界とハリウッドには、共通のリーダー像がある。カリスマ性があり、権力的で、精力的に行動するタイプの人間(ほとんどの場合が男性)だ。大声で遠慮なく発言することで、周囲の注目を集める。こうしたリーダーもたしかに存在するだろうが、リーダーがこのような人物である必要はない(とくに、男である必要はまったくない)。カンパニー・オブ・ワンは、思慮深く、内省的で、落ち着いた人物が率いて経営することもできる。チームで動く場合もそれは同じだ。
カンパニー・オブ・ワンにもリーダーシップは必要である。自分ひとりで仕事をするのなら、リーダーとしてサービスや製品をうまく売りこみ、クライアントや顧客とよい関係を維持しなければならない。フリーランサーなどとチームを組んで仕事をするのなら、その人たちを率いる必要もある。企業のなかにいれば、たとえ分不相応でもリーダーシップを発揮しないと、自律して動くのに必要な自由とコントロール、弾力性、スピードを確保できない。
カリスマ、すなわち魅力たっぷりに自分を売りこみ、人を動かして人を巻きこむことができる力は、リーダーが生まれながらにして持つものだと思われがちだが、実際にはそんなことはない。カリスマは必要に応じて学ぶこともできれば引き出されることもある。おとなしい人でもこれは同じだ。
ローザンヌ大学ビジネス・スクールの研究によると、管理職の人たちに訓練を施してある種の性質を鍛えると、(たとえ生まれつきのカリスマ性を持っていなくても)カリスマ性が高まり、リーダーとしての総合的な能力も向上した。物語とメタファーを使い、大きな期待を持たせて、表情を工夫するだけで、だれもがカリスマ性を持って人に刺激を与えることができるのだ。
また、自分にとっても他者にとっても極端に高い目標を設定するのも、カリスマ性を高めるのに役立つ。ガンディーは有名な「インドを立ち去れ」のスピーチで、暴力を使わずにイギリスの支配から自由になると言って国全体を鼓舞した。シャープの元CEO町田勝彦は、会社が危機に瀕していた1999年に、突拍子もないことを語って従業員を激励した。消費者の需要を満たすため、2005年までにすべてのブラウン管テレビ(奥行きのある大きく不恰好な昔のテレビ)を薄型のLCDテレビにかえると論じたのだ。
ただ、このような突拍子もない目標と予想を掲げるだけでは不十分だ。これが実際に達成できるという自信をともなっていなければならない。ガンディーは非暴力の抗議を幾度となく展開していた。町田は技術者たちに必要なリソースを提供して目標達成は可能であると信じさせ、技術者たちが目標を達成してくれるはずだという信頼を伝えた。
Facebook のCEOマーク・ザッカーバーグは典型的な内向型リーダーだ。そのため、COOのシェリル・サンドバーグの手を借りて、社会的、政治的な面の助言を仰いでいる。マークは多くの従業員や部下を自分の支配下に置くのではなく、少人数の誠実で協力的な人たちとのつながりを活用している。また、ほかのスタートアップと創業者たち(たいてい起業家精神にとても富んだ人たち)と話し、Facebook に加わるよう説得するのにも長けている。時間をふんだんに割いて相手の話を熱心に聞くことで、それを可能にしているのだ。
ハーヴァード・ビジネス・スクールの研究によると、とりわけ高いスキルを持ち率先して動くチームを管理するときには、内向的なリーダーがうまく機能することがある。物静かで冷静なリーダーは、人の話に注意深く耳を傾け、集中力を保ち、中断なく長時間働くのを厭わないからだ。それにこういったリーダーは、自分と同じことができる人たちのチームをうまく率いることもできる。
必要なスキルを身につけることではじめて自由がうまく機能するのと同じで、小さなチームで活動するカンパニー・オブ・ワンでも、一人ひとりのメンバーが高い専門性を持つことが求められる。そうすることで、個人としても集団としてもあまり管理されなくても動けるようになるのだ。
アダム・グラント、フランチェスカ・ジーノ、デイヴィッド・ホフマンが行ったこの研究によると、内向的な人のほうがいい上司になれる可能性が高い。一方で外向的な人は、考えるより先に口が動いてしまうことも多く、チームの尊敬を失って成果を出せないこともある。ただし、内向的であろうと外向的であろうと、人の話をよく聞き、賢明で有用な意見を受け入れるリーダーであれば、信頼を築いて協力を得られるという。
外向的な人のほうが有能なリーダーになれるという考えが文化に深く浸透しているが、内向的なリーダーはこの思いこみを乗り越えなければならない。内向的な人と外向的な人の割合はほぼ同じだが、経営者や経営幹部の96%以上を外向的な人が占めている。2006年の研究では、企業の上級幹部の65%が、内向的であるのはリーダーにとってマイナスだと考えていた。
しかし、この固定観念は考えなおす必要がある。必ずしも正しくないからだ。リージェント大学の研究によると、リーダーになり、リーダーとして仕事をつづけるにあたって重要なのは、ほかの人の役に立ち、ほかの人の能力を高めたいと思う気持ちである。『老子道徳経』にまでさかのぼる〝召使いの(サーバント)リーダーシップ〟という考え方がある。会社が目標を達成するには、社員や顧客が目標を達成するのを手助けするのがいちばんだという考えだ。
そのようなリーダーは、注目を集めようとするのではなく、ほかの人の成功や成果に光を当てる。サーバント・リーダーシップでは謙虚さが求められ、最終的にその謙虚さが成果をもたらすのだ。カンパニー・オブ・ワンは、ほかの人を元気にすることでチームや会社全体が元気になることを理解している。
カンパニー・オブ・ワンは穏やかな人であることも多い。大声をあげることなく、世界をよくしようという自分の気持ちに内側から動かされて仕事をしている人たちだ。多くの人が、自分は会社をはじめたり経営したりするタイプではない、あるいはほかの人に刺激を与えて一緒に仕事をしたりものを買ってもらったりできる人間ではないと考えている。わたし自身も社交が苦手で、集団のなかではあまり話せない。会議やパーティーなど、あらゆる場でうまく振る舞えずにいる。そこでわたしは、自分が得意なことを中心にビジネスを組み立てることにした。
オンライン講座と文章でのコミュニケーションだ。自分が内向的なのを言い訳にして行動しないのではなく、内向性をプラスの方向に活用することにしたのである。そうすることで、自分の個性とスキルに合ったリーダーとしてのあり方を見いだすことができた。大人数の集団に向けて話すのは避け、一対一のコミュニケーションに頼ることにしたのだ。わたしが講演会をしないでオンライン・コースで教えているのは、内向的な性格だからだ。オンライン・コースであれば、わたしがうまくコミュニケーションをとれる手段を使うことができ、受講者とつながることもできる。
わたしにはリーダーとしての能力がほとんどないので、それがわたしのカンパニー・オブ・ワンの足を引っぱりかねない。だからわたしは、管理の必要がまったくないフリーランサーたちだけと仕事をしている。みんな仕事のやり方を熟知した一流の専門家だ。わたしはただ基本的なことを伝えるだけで、あとは任せておく。仕事を依頼する相手には完全な自由を与え、ミーティング、出社、管理は必要ない状態にしておいて、わたしも自分の仕事に専念できるようにしているのだ。
もし問題が起こったら知らせて欲しいと伝えているので、何も連絡がなければ順調に仕事がすすんでいるということだ。わたしは、社交が苦手だったりほかの人をうまく管理できなかったりという欠点を抱えているが、それをビジネスの足かせにするのではなく、ビジネスに活かしているのだ。わたしのやり方だと、人に仕事を依頼するときに普通よりお金がかかる(一流の専門家の仕事は高くつく)。しかしそれだけの価値があり、わたしのビジネスに利益をもたらしている。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます