木造アパートの経営はやめとけ……このような意見を不動産投資のネット記事などで見たことはないでしょうか。本記事では、この否定的な意見のもとになっている10の理由をマンション経営と対比しながら深掘りしていきます。「木造アパート経営を考えている」「木造アパート経営とRC造マンション経営どちらにすべきか迷っている」といった人に役立つコンテンツです。

あわせて木造アパート経営の基本知識や3大メリット、RC造マンションとの比較も紹介します。

目次

  1. 1.不動産投資で「木造アパートはやめとけ」といわれる10の理由
    1. 1-1.理由1 キャッシュフローが厳しくなりやすい
    2. 1-2.理由2 売却時に不利になりやすい
    3. 1-3.理由3 騒音トラブルが起きやすい
    4. 1-4.理由4 物件が供給過剰になりやすい
    5. 1-5.理由5 経営規模が限られる
    6. 1-6.理由6 害虫が発生しやすい
    7. 1-7.理由7 建物が老朽化しやすい
    8. 1-8.理由8 気密性が悪くカビや結露が発生しやすい
    9. 1-9.理由9 地震や火災で不安がある
    10. 1-10.理由10 空室率が高まりやすい
  2. 2.木造アパート経営の特徴・初期費用・利回り傾向
    1. 2-1.木造アパート経営を他ジャンルと比べた際の特徴
    2. 2-2.木造アパート経営の主な初期費用
    3. 2-3.木造アパート経営の利回りの目安
  3. 3.木造アパート経営の見逃せない3大メリットとは?
    1. 3-1.メリット1 高利回りの傾向がある
    2. 3-2.メリット2 耐用年数が短いので節税効果が大きい
    3. 3-3.メリット3 初期費用を抑えやすい
  4. 4.木造アパート経営の法定耐用年数(減価償却期間)に関する知識
    1. 4-1.木造アパート経営の法定耐用年数(減価償却期間)
    2. 4-2.法定耐用年数は長いほうがよい?短いほうがよい?
    3. 4-3.木造アパート経営はローンで不利な面も
  5. 5.木造3階建てアパート経営のメリットと注意点
    1. 5-1.注意点1 構造計算が必須になる
    2. 5-2.注意点2 耐火性能の基準が厳しい
    3. 5-3.注意点3 RC造マンションよりも防音性・遮音性が落ちる
  6. 6.木造アパート経営とRC造マンション経営の比較
    1. 6-1.比較1 減価償却費で有利なのはどっち?
    2. 6-2.比較2 固定資産税で有利なのはどっち?
    3. 6-3.比較3 資産価値が高いのはどっち?
    4. 6-4.比較4 修繕費がかかるのはどっち?
    5. 6-5.比較5 客付けしやすいのはどっち?
  7. 7.木造アパート、RC造マンションに向いているタイプとは?
    1. 7-1.木造アパートに向いているタイプとは?
    2. 7-2.RC造マンションに向いているタイプとは?
  8. 8.ジャンル選びで迷う人は「低層マンション」の選択肢も
  9. 9.木造アパート経営についてよくある質問
    1. 9-1.Q:木造アパート経営をおすすめできない理由とは?
    2. 9-2.Q:木造アパート経営のメリットとは?
    3. 9-3.Q:木造アパート経営に向いているタイプとは?
    4. 9-4.Q:RC造マンション経営に向いているタイプとは?

1.不動産投資で「木造アパートはやめとけ」といわれる10の理由

不動産投資で「木造アパートの経営はやめとけ」 その5つの理由とは
(画像=LYD/stock.adobe.com)

はじめに「木造アパートはやめとけ」といわれている理由にフォーカスしますが、木造アパート経営を全否定するものではありません。後半では、木造アパートの特徴やメリットなどにも触れていきます。これらを大前提として10の否定的な理由を紹介します。

1-1.理由1 キャッシュフローが厳しくなりやすい

不動産投資でキャッシュフロー重視の人は、木造アパートを選ぶ際、慎重になったほうがよいでしょう。なぜなら木造アパート経営の場合、RC造マンション経営に比べるとローンの返済期間が短い設定になることが多いからです。同じ金額を借りられたとしても返済期間が短くなると毎月の返済金額が増えてキャッシュフローが厳しくなります。

なぜ木造アパートだと返済期間が短くなりやすいのでしょうか。その理由は、法定耐用年数にあります。2019年3月に金融庁が行った「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査」によると「融資期間を物件の法定耐用年数以内に設定している」と回答したのは、「一切行っていない」という回答を除いて銀行97%、信用金庫・信用組合93%でした。(一部案件で実施も含む)

法定耐用年数の長さを比べるとRC造マンションが47年に対して、木造アパートは22年と半分以下です。融資期間を「耐用年数以内」に設定している金融機関が多い傾向のため、返済期間の設定で木造アパートが不利になることは明白でしょう。さらに中古物件になると法定耐用年数から経過年数が引かれる点も忘れてはいけません。

例えば築15年の木造中古アパートであれば「法定耐用年数22年-経過年数15年=7年」で、融資期間を法定耐用年数以内に設定すると最大でも7年しかありません。一方で耐用年数が47年あるRC造マンションは、同じ築15年でも「耐用年数47年-経過年数15年=32年」で融資期間を法定耐用年数以内に設定しても最大で32年もあります。

木造とRC造ではこのような違いがあるため、キャッシュフローを重視する場合は法定耐用年数の長いRC造マンションを選ぶのが無難です。ただし「新築/築浅のアパート」と「築古のRC造マンション」を比べると、RC造マンションのほうが法定耐用年数の短いケースもあるので注意しましょう。

※法定耐用年数について詳しく知りたい人は、本記事の「木造アパート経営の法定耐用年数(減価償却期間)に関する知識」の項をご参照ください。

1-2.理由2 売却時に不利になりやすい

前項では、木造アパートの法定耐用年数が短いとキャッシュフローが厳しくなりやすいと説明しました。しかし法定耐用年数の短さは、物件の売却時にもマイナス要因となる可能性があります。これも「木造アパートはやめとけ」といわれる一因です。特にキャピタルゲイン(売却差益)を狙いたい人は注意しましょう。

例えば、購入時に築15年だった木造アパートを10年後に売却すると築25年です。法定耐用年数の22年をすでにオーバーしているため、「買い手がつきにくい」「購入希望者が現れても耐用年数オーバーを理由に融資審査で落ちてしまう」といった可能性があります。

1-3.理由3 騒音トラブルが起きやすい

木造アパートは、RC造マンションと比べて騒音トラブルが発生しやすい傾向です。稼働率が落ちてしまうと低利回りになるリスクがあります。

2021年1月に株式会社AlbaLinkが運営する「訳あり物件買取プロ」が行った「賃貸物件を借りて後悔する瞬間についての意識調査」によると、「賃貸契約で後悔したことがある」と回答した人は、全体の69.8%(500人中349人)もいました。

この結果から、入居者のかなりの割合が騒音にストレスを感じていることが分かるのではないでしょうか。また後悔理由の第1位は「騒音トラブル」です。後悔したことのある349人のうち152人と約43.6%の人が「騒音トラブル」を後悔した理由に挙げています。後悔しているのであれば、契約更新をする率は当然下がるといえるでしょう。

さらにいうと、契約更新前に退去する人がいる可能性もあります。外壁や内壁、床などが薄くなればなるほど建物の音を遮る性能は落ちるのが一般的です。木造アパートは、RC造マンションに比べて壁や床が薄いので騒音トラブルが発生しやすいといえるでしょう。

1-4.理由4 物件が供給過剰になりやすい

木造アパートは、RC造マンションに比べて物件の供給過剰になる恐れ(=空室リスク高)があることも要注意です。

これは、アパートとマンションの建設用地の特徴が影響しています。マンションの建設用地で多いのは、駅近の容積率200%以上のような土地です。こういった立地は、すでに開発が進んでいることが多いため、短期~中期で賃貸物件が供給過剰になる可能性は低いでしょう。

一方でアパートの建設用地で多いのは、駅から少し離れた容積率が60〜100%程度の土地です。こういった立地は「遊休地を活用するため」「相続税対策のため」といった理由で入居者ニーズがないにもかかわらず、アパートが次々に建築され、賃貸物件が飽和する可能性があります。

1-5.理由5 経営規模が限られる

同じ1棟物件でも、部屋数が多い傾向があるのは、木造アパートよりRC造マンションのほうです。将来に向けて経営規模を拡大していきたい賃貸オーナーであれば、マンション経営を選ぶのが効率的といえるでしょう。

一般的にアパートの部屋数は、8〜10戸程度が目立ちますが、マンションだと中層で数十戸以上、低層でも10戸以上が多い傾向です。このような部屋数に違いがあっても不動産投資を始めるときの以下のような手間はさほど変わりません。

  • 立地や物件探し
  • 施工業者や不動産会社の選定
  • 契約手続き
  • 融資審査などの手間

1-6.理由6 害虫が発生しやすい

木造の建物の柱や床下などを食いつくすシロアリは、木造アパートの大敵です。シロアリが発生しても気付きにくく、気付いたときには建物の強度が弱まり地震などの際に倒壊するリスクがあることも少なくありません。シロアリ対策としては、新築アパートの場合、敷地や木材などに防蟻処理を行うのが有効です。

また中古の木造アパートの場合、専門家の診断を受けてシロアリが発生しているときは駆除、発生していなくても防蟻処理をするのが無難でしょう。ただし防蟻処理や駆除をしても効果が一時的な可能性もあります。効果を維持し続けるには、定期的な管理や処理などランニングコストがかかる点も見逃せません。

1-7.理由7 建物が老朽化しやすい

木造アパートとRC造マンションを比較すると、一般的には「木造アパートのほうが寿命は短め」と考えられています。これも「木造アパートの経営はやめとけ」といわれる大きな理由の一つです。例えば建物の資産価値の基準となる法定耐用年数で見ると木造(22年)は、RC造(47年)の半分程度しかありません。

また国土交通省の資料を見ても木造の建物(戸建住宅)は、約20年で市場価値がほぼゼロになります。それだけ木造の建物の老朽化が早いということです。木造アパートは、築20年前後を過ぎても継続して経営していくこともできます。しかし建物の老朽化が早い木造の住環境を保ち続けるには、かなりの労力と費用が必要です。

1-8.理由8 気密性が悪くカビや結露が発生しやすい

近年は、高気密の木造住宅も広まっているため、「木造=気密性が悪い」とは一概にいえません。ただし気密性能の低い築古、あるいはローコストの木造アパートなどは、結露が大量に発生する可能性があります。場合によっては、入居者の健康に悪影響が出たり建物の寿命が短くなったりするケースも十分考えられるでしょう。

・結露の健康への影響
住宅室内で大量のカビの胞子を吸うとぜんそくが悪化したりアレルギーの原因になったりするリスクがあります。(参照:内閣府防災の資料)

・結露の建物寿命への影響
壁の内部に発生した大量の結露は、建物の構造を腐らせる原因になることもあります。

1-9.理由9 地震や火災で不安がある

木造アパートは、RC造マンションと比べて地震による倒壊リスクが高かったり、火災保険が割高であったりする点はデメリットです。これも「木造アパートの経営はやめとけ」といわれる理由になっています。

・地震リスク
耐震基準をクリアしている建物であれば木造・RC造のどちらでも必要な耐震性能を備えていると考えられるでしょう。ただし木造の場合、建物の老朽化が早い傾向、かつシロアリ発生や構造の腐りなどで構造が弱ってしまい耐震性が低下する恐れがあります。

・火災保険
火災保険料で比較するとRC造よりも木造のほうが割高となります。なぜなら木造のほうが火災リスクとしては高いと考えられているからです。ただし木造でも建築基準法が定める準耐火構造の防火性能を持っているものは、火災リスクがやや低いと判断されることもあります。

1-10.理由10 空室率が高まりやすい

上述した9つのデメリットの中でも「騒音トラブルが起きやすい」「建物が老朽化しやすい」「カビや結露が発生しやすい」などは、入居者満足度にダイレクトに反映されやすい傾向にあります。そのためこれらの問題が複合的に発生している物件は、空室率が高まる原因になりやすいといえるでしょう。入居者ニーズのあるエリアの場合、退去が発生しても次の入居者が決まりやすい一面があります。

しかし退去のたびに原状回復費や仲介手数料、広告料(AD)などの負担が発生するため、結果的に低利回りになりやすいです。一方、入居者ニーズのないエリアの場合、築年数が経つたびに空室率が上がっていき売却しようにも空室が多いため買い手がつかない可能性があります。また買い手がついたとしても安値で買いたたかれる可能性もあるでしょう。

2.木造アパート経営の特徴・初期費用・利回り傾向

ここまで「木造アパート経営はやめとけ」といわれる10の理由を紹介しました。しかし上述したように本記事は、木造アパート経営を全否定するものではありません。木造アパート経営を検討している場合は、向いているタイプと向いていないタイプについても押さえておきましょう。ここからは、判断材料の一つとして木造アパート経営の特徴・初期費用・利回り傾向などについて解説します。

2-1.木造アパート経営を他ジャンルと比べた際の特徴

不動産投資は、大きく分けて「区分マンション」「木造アパート」「RC造マンション」といったジャンルごとに以下のような特徴があります。

ジャンル特徴
区分マンション・都心物件だと好立地が多い
・初期費用を抑えやすい
・経営に手間がかからない
木造アパート・高利回りの傾向がある
・耐用年数が短いので節税効果が大きい
・RC造よりも物件価格を抑えやすい
RC造マンション・法定耐用年数が長い
・防音性、遮音性が高い
・アパートよりも戸数が多い傾向

木造アパートの3つの特徴(メリット)については、後ほど詳しく解説します。

2-2.木造アパート経営の主な初期費用

「木造アパートはやめとけ」という一部の意見もあります。しかし実際には、木造アパートを選択している賃貸オーナーも少なくありません。なかには「木造アパート経営の初期費用について知りたい」という声も多いので要点を解説していきます。ちなみに初期費用の内容は、木造アパート、RC造マンションのどちらを選択しても共通です。

なお不動産投資の初期費用は、土地購入や建物建築の有無などで内容が大きく変わってくる点も押さえておきましょう。

【土地購入や建物建築などがある場合の初期費用】

  • 土地購入費
  • 建物解体費
  • 測量費・地盤調査費・地盤改良費
  • 水道分担金
  • 設計監理費
  • 建築費 など

補足すると土地をすでに所有しているなら「土地購入費」は不要です。また所有地が建物を建てやすいよう整地および測量されているなら「建物解体費」「測量費・地盤調査費・地盤改良費」は必要ありません。注意したいのは、水道を新規で契約する場合に負担する「水道分担金(水道加入金や水道利用加入金とも呼ばれる)」です。

水道分担金がどれくらいかかるかは、物件を建設する自治体によって大きく異なります。一例では、横浜市の水道分担金は16万5,000円×戸数(口径13、20、25ミリメートルの場合)です。これに対して同じ首都圏でも、東京都なら水道分担金は必要ありません。

「設計監理費」は、設計や施工の進捗管理に対する項目ですが、業者によって金額に差が出やすい項目なので内容を必ずチェックしましょう。「建築費」は建物構造によって、費用が変わってきます。木造はRC造など他の構造に比べて割安な傾向です。

【土地購入の有無にかかわらず必要な初期費用】

  • 不動産取得税
  • 印紙税
  • 登記費用
  • アパートローン手数料
  • 火災保険料(地震保険など含む) など

中古物件の場合は、不動産仲介会社へ支払う「仲介手数料」も必要になります。上記初期不要を補足するとアパートローン手数料は、借り入れする金融機関へ支払うものです。物件購入時にローンを利用しないなら必要ありません。一方でローンを利用して物件を購入する場合は「火災保険」への加入が必須です。ただし「地震保険」に加入するかは、個別の判断となります。

例えば過去に大地震で被害を受けたエリアに物件を建てたり軟弱地盤の物件を購入したりする場合は、地震保険を検討してもよいでしょう。なお地震保険は、火災保険とセットで加入するサービスのため、単体での契約はできません。

2-3.木造アパート経営の利回りの目安

木造アパートやRC造マンションなどの収益物件の購入を検討する際、「利回り」は重要な指標です。不動産投資における利回りとは「年間家賃収入を物件購入価格で割ったもの」です。式にすると次のようになります。

  • 表面利回り=年間家賃収入÷物件の購入価格×100

また不動産投資の利回りは、主に以下の3種類があることもポイントです。

利回りの種類内容
表面利回り単純に年間家賃収入を物件購入価格で割った利回り
想定利回り満室を想定して割り出した利回り
実質利回り必要経費を差し引いて計算した利回り
※不動産投資の利回りは、これ以外にもあります。

一般的に木造アパートは、他の不動産投資のジャンルに比べて「高利回りの傾向がある」といわれています。では、具体的にどれくらい高利回りなのでしょうか。不動産投資と収益物件の情報サイト「健美家」の調査によると以下のようなデータがあります。

ジャンル平均利回り
(表面利回り)
区分マンション7.44%
1棟アパート8.59%
1棟マンション8.04%

厳密には、上記データの1棟アパートのすべてが木造ではありませんが、大半は木造と考えてよいでしょう。この結果に基づくと、1棟アパートの利回りは、区分マンションと比べて1.15ポイント、1棟マンションと比べて0.55ポイント高くなっています。

3.木造アパート経営の見逃せない3大メリットとは?

「木造アパートはやめとけ」という意見の記事は、デメリットに偏った内容が多い傾向です。しかし木造アパート経営には、メリットもあります。RC造マンションなどと比べたときの大きな3つのメリットは、以下の通りです。

3-1.メリット1 高利回りの傾向がある

上述したように木造アパート(1棟アパート)は、区分マンションや1棟マンションなど他の不動産投資のジャンルに比べて利回りが高い傾向があります。ただし「高利回り=利益が多い」というわけではない点に注意が必要です。木造アパート経営は、建物が老朽化しやすいため、維持管理のコストが想定以上にかかることもあります。

表面利回りが高い場合でも、必要経費を差し引いたり空室率を加味したりして実質利回りを算出すると低いケースもあるため要注意です。また、現在木造アパート経営で十分な実質利回りが確保できていても建物の老朽化が早いことを考えると売却や解体、建て替えなどの出口戦略を意識する必要もあります。

3-2.メリット2 耐用年数が短いので節税効果が大きい

木造アパート経営は「なるべく多くの減価償却費を計上したい」という人に好まれる傾向があります。なぜなら減価償却費を多く計上して帳簿上の収支が赤字になれば納める所得税を減らしたり場合によっては還付金として戻ってきたりする可能性があるからです。また木造アパート経営の収支が黒字の場合でも減価償却費を多く計上して最終的な利益を圧縮できれば納める所得税を減らせます。

木造アパート経営と減価償却費の関係については、次の項でさらに詳しく解説します。

3-3.メリット3 初期費用を抑えやすい

木造アパートは、RC造マンションなどと比較して初期費用を抑えやすいこともメリットの一つです。一般的に木造の建物は、RC造などと比べて工事費が安くなります。そのため新築物件であれば建築費、中古物件であれば建物購入費を抑えることが期待できるでしょう。ただし木造アパートでも高級物件を得意とするハウスメーカーの建てたものや、グレードの高い部材や設備を使ったものは割高となります。

こういったワンランク上の物件は、RC造マンションの建築費と大きな差がなくなることも少なくありません。両者の建築費(工事費)にどれくらいの差があるかは、本稿後半の「木造アパート経営とRC造マンション経営の比較」の項で解説していきます。

なお、国際的な社会情勢により木材が高騰するケースがあり、その場合は木造とはいえ初期費用を抑えられないことがあります。

4.木造アパート経営の法定耐用年数(減価償却期間)に関する知識

不動産投資を始めるうえで法定耐用年数(減価償却期間)の基本知識は、必須です。ここでは、法定耐用年数について改めて整理していきましょう。

4-1.木造アパート経営の法定耐用年数(減価償却期間)

法定耐用年数とは、建物・車・設備など業務で長期的に使える資産の使用可能期間のことです。国(財務省令の別表)では、資産ごとに「法定耐用年数」を定めており、それに基づいて建設や購入にかかった費用を分割して経費化していくことができます。経費化を分割していくときの項目が「減価償却費」です。建物の法定耐用年数は、構造によって期間が変わってきます。例えば新築物件の場合、一般住宅・集合住宅にかかわらず木造なら22年、RC造なら47年です。

実際には、法定耐用年数を大きく超えたからといって物件が使えなくなるわけではありません。建物の寿命についてはさまざまな研究・調査があり、一例ではRC造の平均寿命は約68年、木造は約65年との結果もあります(現 早稲田大学・小松幸夫名誉教授の2011年調査)。そのため「法定耐用年数=建物の寿命」ではなく、あくまでも国が便宜上、設定した使用可能期間と考えたほうがよいでしょう。

4-2.法定耐用年数は長いほうがよい?短いほうがよい?

建物の購入金額が同じなら法定耐用年数が短いほうが毎年計上できる経費は多くなります。つまりRC造マンション(47年)よりも木造アパート(22年)のほうがより多くの経費(減価償却費)を毎年計上できるわけです。ただ法定耐用年数が長いほうがよいか、短いほうがよいかは、賃貸オーナーが何を重視するかによって異なります。

例えば「経費をたくさん計上することで所得税を圧縮したい」という人は、法定耐用年数が短い木造アパートのほうが向いているでしょう。

4-3.木造アパート経営はローンで不利な面も

経費を毎年たくさん計上できるのであれば「RC造マンションよりも木造アパートのほうがよいのでは?」と感じる人もいるのではないでしょうか。しかしローンを含めて考えるとそう単純ではありません。なぜなら記事の冒頭で紹介したように、多くの金融機関はローンの返済期間を法定耐用年数内に設定しているからです。

ローンは、返済期間が短くなるほど毎月の返済額が上がります。そのためキャッシュフローを重視する人の場合は、RC造マンション向きといえるでしょう。

5.木造3階建てアパート経営のメリットと注意点

一般的に「木造アパート経営」というと2階建ての建物になることが多い傾向です。しかし一部の住宅メーカーでは、木造3階建ての選択肢も用意しています。木造3階建てアパートの主なメリットは、以下の通りです。

  • 2階建て木造アパートよりも敷地を有効活用できる
  • RC造マンションよりも建築費が安い
  • RC造マンションよりも施工期間が短い
  • 耐用年数が短く(新築22年)減価償却費を多めに計上しやすい など

このように魅力のある木造3階建てアパートですが、以下の3つのような注意点もあります。

5-1.注意点1 構造計算が必須になる

同じ木造アパートでも2階建ては「構造計算の審査が省略できる」(※一部、2階建てでも構造審査が必須となるケースがあります)、3階建ては「構造計算が義務づけられている」という大きな違いがあります。この分、木造3階建てアパートの設計・建築は、2階建てよりも手間やコストがかかります。この違いが生まれる理由は、建築基準法において「3階以上の木造建築物」は構造計算による安全性のチェックが義務づけられているからです。

そのため木造3階建てアパート経営を新築から始めるならこの分野で実績のあるハウスメーカーや設計事務所などをパートナーに選ぶのが無難といえるでしょう。ちなみに木造3階建てアパートを施工できる業者は、2階建てと比べると限られます。

5-2.注意点2 耐火性能の基準が厳しい

耐火性能で見ても木造3階建てアパートは、木造2階建てよりも厳しい基準となっています。建物が高くなる分、建築のハードルが上がるのはやむを得ないでしょう。具体的にどのような耐火性能の基準の違いがあるのでしょうか。まず隣り合う住戸の間を仕切る界壁を準耐火構造にすることを求められるのは、木造3階建てアパートも2階建ても同じです。

木造3階建てアパートになるとさらに住戸内の壁・床・天井も準耐火構造にしなくてはなりません。

5-3.注意点3 RC造マンションよりも防音性・遮音性が落ちる

建物の防音性・遮音性は、使用する床パネル・吸音材・サッシの種類などに大きく左右される傾向です。これらの条件が同じであれば木造3階建てアパートと2階建てアパートの防音性・遮音性は、ほぼ同じと考えられます。しかし木造3階建てアパートとRC造マンションの防音性・遮音性を比べると木造3階建てアパートのほうが落ちるのが一般的です。

なぜならRC造は、重くて分厚い鉄筋コンクリートで壁や天井が構成されているからです。一方で木造は、軽い部材の構造のため、防音性・遮音性で劣ります。あわせて気密性の悪い木造アパートの場合、すきまから隣の部屋や外部の音が漏れてくることも少なくありません。

6.木造アパート経営とRC造マンション経営の比較

ここまで解説してきた内容を踏まえていくつかのテーマで木造アパート経営とRC造マンション経営の比較をしていきましょう。なかには、RC造マンションよりも木造アパートのほうが優位なテーマもいくつかあります。

6-1.比較1 減価償却費で有利なのはどっち?

減価償却期間(法定耐用年数)で見ると木造アパートが22年に対してRC造マンションは47年です。建物の購入費用を短期間で経費化したいなら木造アパートのほうが有利といえるでしょう。

6-2.比較2 固定資産税で有利なのはどっち?

建物の新築時の固定資産税評価額は、請負工事金額の50〜60%程度が基準となります。ここから築年数とともに評価額が減っていくのがポイントです。また評価額が減るスピードは、木造アパート(約10年で半分)よりもRC造マンション(約20年で半分)のほうが緩やかとなるため、固定資産税を抑えたい場合は、木造アパートのほうが有利かもしれません。

6-3.比較3 資産価値が高いのはどっち?

同じ床面積の建物を建てるならRC造マンションのほうが木造アパートよりも階数がある分、広いので資産価値が高くなるでしょう。また同じ広さの建物だとしても(例:3階建て)、RC造マンションのほうが資産価値は高いと考えられます。なぜなら木造よりもRC造のほうが下表のように工事費用が割高だからです。工事費用が高いということは、それだけ建物の資産価値が高いといえるでしょう。

構造工事費用
1平方メートルあたり
(全国平均)
木造17万2,000円
RC造
(鉄筋コンクリート造)
26万円
SRC造
(鉄骨鉄筋コンクリート造)
26万8,000円
S造
(鉄骨造)
25万円

6-4.比較4 修繕費がかかるのはどっち?

民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック(国土交通省)によると30年間でかかる平均的な修繕費は、RC造マンション・木造アパートのどちらでも200万円台前半(1LDK〜2DK/1戸あたり)とほぼ同じです。ただRC造マンションは、木造アパートと比べて戸数が多い傾向にあります。そのため1棟あたりの修繕費がかかるケースが多い傾向です。

構造1戸あたり修繕費1棟あたり修繕費総額
木造アパート
(10戸)
約216万円約2,160万円
RC造マンション
(20戸)
約225万円約4,490万円
出典:国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」

上記のモデルケースで見ると木造アパートとRC造マンションの修繕費の差は、1戸あたり約9万円しかありません。しかしRC造マンションは、10戸多いため、1棟あたりの修繕費で見ると負担が約2,330万円重くなります。

このように修繕費だけで見るとRC造マンションのほうが負担は重いです。しかし同じ間取りなら木造アパートよりもRC造マンションのほうが家賃を高めに設定しやすい(=収入が多い)ことも考慮すべきでしょう。

6-5.比較5 客付けしやすいのはどっち?

木造アパートとRC造マンションのどちらが客付けしやすいかは「どのような入居者像を設定するか」で異なります。仮に学生や若いビジネスパーソンをターゲットにする場合、防音性・遮音性が劣る木造アパートよりもRC造マンションのほうが客付けしやすいでしょう。また「低家賃重視」「防音性や住み心地にはこだわらない」といった入居者像なら親和性が高いのは、木造アパートです。

7.木造アパート、RC造マンションに向いているタイプとは?

「木造アパート経営はやめとけ」という内容は、すべての人があてはまるわけではありません。タイプによって木造アパート向きの人もいれば、RC造マンション向きの人もいます。ここまで解説してきた内容をもとに両者の違いを整理してみましょう。

7-1.木造アパートに向いているタイプとは?

木造アパートは「自己資金(ローンの頭金)を抑えたい人」に向いています。自己資金は「物件価格の約20%」を求められる傾向です。そのためRC造マンションに比べて物件価格の安い木造アパートのほうが抑えやすいといえます。また木造アパートは、法定耐用年数が短い分(新築の場合22年)、1年あたりの減価償却費を多めに計上できる点がメリットです。

これを考慮すると「所得税を圧縮することを優先したい人」と相性がよいでしょう。また木造アパートは、固定資産税評価額の減り幅がRC造マンションよりも早いので「固定資産税を抑えたい人」に向いています。

ただし「エリア内に入居者ニーズがあるか」「賃貸物件が供給過剰になっていないか」についてしっかりと確認したうえで不動産投資を始めないと赤字物件になってしまいかねないので注意が必要です。

7-2.RC造マンションに向いているタイプとは?

RC造マンションは「まとまった自己資金が用意しやすい人」に向いています。まとまった自己資金を用意できるアドバンテージを利用しながら、木造アパートよりも規模感があり耐用年数の長いRC造マンションを所有できます。

また、駅近や商業地域など「好立地で不動産投資をしたい人」もRC造マンション向きです。アパートよりも階数のあるマンションを選ぶことで、好立地の魅力を最大限に活かして、効率良いリターンが期待できます。

8.ジャンル選びで迷う人は「低層マンション」の選択肢も

本稿では、木造アパートとRC造マンションの2択で考えてきました。しかしこのほかにも不動産投資には「戸建て」「シェアハウス」「テナントビル」といった選択肢もあります。それぞれのメリット・デメリットを把握したうえで自分に合うジャンルを選択しましょう。

さらにいえば、中層マンション・高層マンションとアパートの中間的な位置づけの「低層マンション」というジャンルもあります。低層マンションとは、2〜3階程度のコンパクトな物件のことです。

低層マンションは、階数が少ないため、高層の建物が制限されている住宅街(第一種・第二種低層住居専用地域)に建てられます。「アパートだと規模感が足りない」「高層マンションだと規模感が大きすぎる」という人は、こちらも選択肢に加えてみてください。

9.木造アパート経営についてよくある質問

最後に本記事で解説してきたポイントをQ&A 形式で紹介します。

9-1.Q:木造アパート経営をおすすめできない理由とは?

A.「木造アパートはやめとけ」といわれる理由は、全部で10あります。

  1. キャッシュフローが厳しくなりやすい
  2. 売却時に不利になりやすい
  3. 騒音トラブルが起きやすい
  4. 物件が供給過剰になりやすい
  5. 経営規模が限られる
  6. 害虫が発生しやすい
  7. 建物が老朽化しやすい
  8. 気密性が悪くカビや結露が発生しやすい
  9. 地震や火災で不安がある
  10. 空室率が高まりやすい

9-2.Q:木造アパート経営のメリットとは?

A. 木造アパート経営には、主に以下の3つのメリットがあります。

  • 高利回りの傾向がある
  • 耐用年数が短いので節税効果が大きい
  • 初期費用を抑えやすい

9-3.Q:木造アパート経営に向いているタイプとは?

A. 木造アパート経営に向いている主なタイプは、以下の3つです。

  • 自己資金(ローンの頭金)を抑えたい人
  • 所得税を圧縮することを優先したい人
  • 固定資産税を抑えたい人

9-4.Q:RC造マンション経営に向いているタイプとは?

A. RC造マンションに向いている主なタイプは、以下の2つです。

  • まとまった自己資金が用意しやすい人
  • 好立地で不動産投資をしたい人

※最寄り駅からやや離れた住宅地などに建てたい場合、低層マンションの選択もあり

(提供:YANUSY

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