本記事は、後藤洋平氏の著書『“プロジェクト会議”成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで』(翔泳社)の中から一部を抜粋・編集しています

「管理」しようとすればするほどうまくいかない

上司
(画像=PIXTA)

プロジェクトがうまくいかないとき、メンバーのやる気や能力、行動やマインドが足りないと、人や組織の「不足」「欠点」に焦点があたります。

そのためプロジェクト管理においては、人間の能力の限界を補う工夫が実践されています。人間誰しも、知識や経験、スキルには限界があるし、いつもやる気に満ちているわけではない。だからそれを補い管理する必要があるのだ、というわけです(表1-2)。

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(『“プロジェクト会議"成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで』より)

これらのプロジェクト管理手法は、人間観の根本において「性悪説」を採用している、といえるでしょう。確かに人間の能力や知性には限界があるため、これらの手法を上手に取り入れることで、実際に進捗が改善されるのも事実です。

しかし、これらの有用性は重々承知したうえで、本書ではそのような根本的な人間観を、あえて少しの間だけ保留します。なぜなら、こうした“管理”の発想ではプロジェクトがその本質として孕む根本的な問題を解決できないからです。

組織的な活動を円滑に管理するためには、当事者同士が事前に個別のアクションを明文化し結果を約束することが欠かせません。しかし、前例のない取り組みにおいては、この「約束」こそが最大の困難なのです。

いつまでに、どの程度のコストで、どんな資源を用いて、どんな仕様を満たして、どんな結果を生み出すのか。やってみないと、どうなるかわからない。一方で、約束しないとそもそも始まらない。えいやと決心し、約束する。どこかで間違いが生まれる。よかれと思ってコミットしたことが、かえってあだになる。

大規模プロジェクトには、頼りになる専門家がいて迷える子羊たちに正解を授けてくれて、あっという間にゴールに連れて行ってくれるのだろうと想像する人もいるかもしれませんが、実際はそんなスーパーヒーローみたいな人はほとんどいません。神ならぬ人の身で未知なる取り組みを取り仕切るには限界があります。

顧客の意向が急に変わった。素早く対応したいのに上の判断が遅くて動けない。必要な材料が間に合わない。すぐに解決しないと大変なことになるのに、危機感が共有されていない。本部はなにをしているんだ、なぜ現場と意識がこんなに乖離してしまうんだ──。

不確実性を排除し、未来を管理したい。そんな願望が、かえって収拾のつかない困難をもたらします

うまくいかないときはいつも同じシナリオをたどる

筆者は10年以上にわたって業種業態やジャンル、規模の枠を越えてさまざまなプロジェクトにかかわってきました。立場としても、メンバー、リーダー、責任者など、幅広くポジションを担ってきました(表1-3)。

1-2
(『“プロジェクト会議"成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで』より)

たくさんの仲間やお客様との出会いがありました。スターのような専門家たちとチームを組むこともあれば、経験・知識・知名度ゼロからのスタートアップもありました。

ひとくちにプロジェクトといっても、デジタル/非デジタルの別や、大企業/中堅/ベンチャーなど規模の大小によってそのあり方はさまざまです。課題解決か価値創出か、顧客からの依頼による取り組みか、自発的な取り組みかによっても力の入れどころは変わります。

どんなプロジェクトも、まったく異なる目的、手段、資源、制約条件のもとで計画されます。いつかどこかで想定外に見舞われ、思いもしなかったシナリオをたどります。そのチームに固有の問題が発生し、同じ物語は二度と起きません。事実は小説より奇なり。起きる現象は想像をはるかにこえて多様で、予測不可能です。

一方で、まったく異なる業界や領域の経験を積み重ね、成功も失敗も得てきたことで、あらゆるプロジェクトにおける共通項の存在に気づくようにもなりました。リスク対策に気をとられ、チャンスを逃してしまう。決めたはずの目標がぶれる。約束したはずの作業がうやむやになる。都合の悪いことを見ないようにする。大きなトラブルが発生するまで、問題に気づかない、対処しようともしない。

そしてたどりついたのが、この命題です。

あらゆるプロジェクトにおいて同じ状況は二度と繰り返さない。
それにもかかわらず、直面する困難は“いつも同じ”である。

“プロジェクト会議”成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで
後藤洋平(ごとう・ようへい)
「なぜ人と人は、考えたことを伝えあうのが難しいのだろうか」を生涯のテーマとしている、プロジェクト進行支援家。株式会社ゴトーラボ代表。「世界で一番わかりやすく、実際に使えるプロジェクト推進フレームワーク」を目指してプロジェクト工学を提唱し、プロジェクトマネジメント教育、ハンズオン支援に取り組んでいる。著書に『予定通り進まないプロジェクトの進め方』(共著、宣伝会議)、『紙1 枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本』(共著、翔泳社)などがある。

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