本記事は、後藤洋平氏の著書『“プロジェクト会議”成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで』(翔泳社)の中から一部を抜粋・編集しています
プロジェクト会議力の向上に効くコンテンツ
プロジェクト会議を運営する技法を身につけるためには、実際に場数を踏んで実践することが王道ですが、自分の体験だけでは学びの総量が不足します。他者の経験を戦訓として吸収することが欠かせません。
業界の先輩の薫陶を受けたり、書籍をひもとき歴史に学んだりするのが一般的ですが、映画や漫画にも参考になるコンテンツがあります。
たとえばリドリー・スコット監督「オデッセイ(原題:The Martian)」はぜひ観ておきたい映画の1つです。近未来における火星開拓を豊かな知識と想像力で描いたSF小説『火星の人』(早川書房)を映画化したものです。
物語は、火星探査を行うチームが嵐に見舞われ、宇宙船で緊急脱出する様子から始まります。想定外のトラブルによってひとり火星基地に残されてしまった植物学者兼エンジニアが主人公です。
地球への生還を目指す主人公は、救助が来るまで生き延びるため、火星でジャガイモの栽培を始めます。その一方で救出に向かうチーム。彼らと遠隔でコミュニケーションを図って事態の改善に取り組むNASAの人たち。三者三様の苦闘が描かれます。
予算の制約や世論との折り合いを優先的に考えなければいけないNASA長官と、現場の人間に想いを遂げさせてやりたいフライト・ディレクターの葛藤が見どころです。
その他にも、理論と技術の世界で工夫を凝らすことを純粋に楽しむエンジニアや、無理難題を押し付けられ頭を抱えるロケット製造現場のリーダーなど、プロジェクトにかかわる関係者の悲喜こもごもが豊かに描かれています。
通信によって意思疎通はできるのに、それぞれの現場で起きる困難については、それぞれの現場の人にしか実際に手を下すことはできない。プロジェクトにおける隔靴掻痒の感覚が生き生きと活写されます。
納期に間に合うように頑張ったのに、ミスによって起きてしまう事故。必要なものはなに一つ足りることはない。それでもあきらめずにもがくことでつかめるチャンス。次々と発生する難題をクリアするために、使えるものはなんでも活用する豊かな発想も見事で、プロジェクト進行における創意工夫の見本市のような作品です。
邦画では三谷幸喜監督の「清須会議」がおすすめです。織田信長が本能寺の変で非業の死を遂げたあと、織田家の今後を担うべき人たちが新たな秩序形成に向けて交渉を行う様子を描いた作品です。
柴田勝家、羽柴秀吉らの重臣たちが、それぞれ異なる「次の主君」を担ぎ出し、イニシアチブを競い合う様子はまさに、現代社会における企業内の主導権争いの写し絵となっています。
「評定」とよばれる公式な会議を行うにあたって、その会議本番の議論を有利に進めるための「メタ会議」に奔走する秀吉は、下剋上のスリルに満ちており、本当に「かくあったかもしれない」と思わせ、見て楽しく学びも得られる作品です。序列的にも力関係上も劣位にあった秀吉が、腹心である黒田官兵衛の助言も得ながら知恵と勇気と臨機応変の三位一体で困難を乗り越える様子は痛快です。
ちなみに、同監督の手による小説版も刊行されており、映画とあわせて読むことでさらに理解が立体的になるので、おすすめです。映像だけでは説明しきれなかった登場人物の内心が語られており、秀吉の「形式会議」と「メタ会議」の演出力の妙を味わえます。
特撮からは庵野秀明総監督・樋口真嗣監督の「シン・ゴジラ」も会議映画として楽しむことができます。本作は怪獣映画ですが、未曾有の事態にいかに対処すべきかを真剣に考えるポリティカルフィクションを目指して制作されました。シナリオ開発にあたっては、東日本大震災への対応にあたった政府関係者への取材なども実施されました。
とくに、冒頭に描かれる形式会議の不調が会議運営の反面教師として参考になります。コミュニケーションの改善にともなってチームが成熟していく様子も、プロジェクト現場の感じがよく表現されていると思います。
アニメーションでは押井守監督の「機動警察パトレイバー2 the Movie」は必見です。こちらもロボットアニメという娯楽的な装いをよい意味で裏切る一本です。戦後におけるわが国のあり方に「本当にいまのままでよいのか」と問いかける、シリアスで骨太な作品です。
劇中では、前代未聞の軍事スキャンダルに対応する警察関係者が、延々と問答を続けます。警察という形式に満ちた組織のなかで、数々のしがらみにも負けず信念を実現する主人公の姿に、プロジェクト進行の手練手管が発見できます。
押井監督は多くの監督論や映画づくりについての論考を発表しています。プロジェクト進行の視点に読み替えることができる、貴重な戦訓も数多くあります。映画とともに触れられることをおすすめします。
最後に、少年漫画からも作品をひとつ紹介したいと思います。冨樫義博氏の長期連載作品『HUNTER×HUNTER』(集英社)です。少年漫画といってあなどるなかれ。プロジェクト組織における個とチーム全体の関係性や、未知の外部環境、予想外のトラブルのなか、いかに思考し物事を進めるかというテーマを物語で表現した作品として、古今随一といっても過言ではありません。
メンバー同士が助け合いながら困難を乗り越えていく作品は、この他にもたくさんあります。本作の特異性は「仲間」や「絆」といった紋切り型の価値観をあえて疑い、利害に基づくドライな組織化を描くことに成功していることです。
個人個人はあくまで各自の目的のために行動する。その達成のうえで、ときには他者との連携が必要となる。利害に基づくドライな関係だからこそ生まれる友情もあれば、情に流されることで生まれるすれ違いもある。
自らが置かれた状況を客観的に俯瞰し、リスクとチャンスを天秤にかける。伸るか反るかのギリギリの判断をくだすための勇気。生き残るための思考力を豊かに描く本作は、少年漫画という見た目とうらはらに、大変深い人間洞察を根拠としています。
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