本記事は、後藤洋平氏の著書『“プロジェクト会議”成功の技法 チームづくりから意思疎通・ファシリテーション・トラブル解決まで』(翔泳社)の中から一部を抜粋・編集しています
よいプロジェクト会議とは
プロジェクト管理というと、最初にあるべき成果物とその作業が定義されて、あとはそれを具現化するための工程を詳細化し、各担当に期日通りに納品させるための進捗管理を行っていくイメージがあります。もちろん、そうした方法で工程管理をすることは、ある程度規模が大きく複雑な取り組みにおいては不可欠です。
一方で、前例のない取り組みでは事前に作成したマスタープラン通りにはいかない現実もあります。内部的な努力だけでは対応しきれない場合には、広範囲の関係者の理解や目線をあわせていくことが大切になります。
●本当に重要な問題は伏在している
どんな現場、どんなチームであろうとも、必ずといっていいほど「自分たちは互いに理解しあっている、大局も見えている」という誤解や願望が存在しています。その誤解ゆえに、本当は対処すべき問題があっても、見過ごされてしまうことがたびたびあります。
どんなに問題が大きくても、そこに直面した人たちが「よし、ここはひとつ、みんなで踏ん張ってこの難局を乗り越えよう」という意欲さえあれば、たいていの問題は乗り越えられるものです。
ここで大事なのは「よし、ここはひとつ」という心意気をいかに引き出すかです。一緒に進める仲間たちと認識がずれていては、そうした心意気は出てきません。会議のたびに「こんなことを話し合う意味があるのだろうか?」と思うようでは、なおさらです。
プロジェクトとはその本質からして非日常的、非定型的なものですから、目に見える具体的で派手な問題に気をとられてしまいがちです。しかし本当に対処すべき問題はむしろ、目に見えない地盤、あるいは無意識のなかにある誤解に潜んでいるものです(図3-3)。目に見える派手な問題に目を奪われてしまうと、もっと大きな問題が眠っていることに気づきません。
その場その場で発生した出来事に気をとられ、場当たり的な会議運営をしていると、問題の本質をとらえることができず、いつまで経っても解消することはできません。
意識して目を凝らさないと見えてこない、本当に大事な「地盤と基礎」からしっかりと認識を合わせ、論理を組み立て、大局観を一致させる。これがスムーズなプロジェクト運営のコツです。
筆者自身は、難局にあっても関係者が一丸となって力を合わせ、工夫をこらしながら新しい価値を生み出していく取り組みが大好きな人間です。そういう場には他には代えがたい高揚感や達成感があるからです。
一般的に「会社」とか「仕事」という場ですと、そうした面白みを感じる機会は乏しく「評価されたいから我慢する」「とにかく頑張る」「怒られるのが怖いからやる」なんてことが往々にしてあります。
それだとどうしても最終的に生み出される成果物に心はこもりませんし、心のこもらない成果物は人を幸せにはしないものです。
●理想のキックオフ会議
会議の場面をより具体的に設定して考えてみましょう。キックオフ会議を理想のプロジェクト会議として成立させるための具体像とは、どんなものでしょうか。大事なポイントは、以下の3点を満たすことです。
・危険予知の意識が高まり、臨戦態勢が整う ・考慮漏れを発見し、うっかりを解消する ・最初の小さな(そして確かな)ゴールが見える
キックオフ会議とは不思議なもので、この言葉自体はとても有名で、多くのプロジェクトで必ずといっていいほど開催されるのに、その流儀については人によって千差万別です。「これぞキックオフ会議だ」という決定版は意外なほどに見かけません。
「単に顔合わせをする場」といったイメージもありますが、それは非常にもったいない開催の仕方です。なぜなら「単に顔合わせして、目的・目標について話し合い、大まかなスケジュールを確認し、大きな異議もなく閉幕する」時間をもつことには、なんの意味もないからです。
そこで語られるスケジュール通りに進むわけがないのです。にもかかわらず、そこに対して疑問や質問が出ないと「なんだかんだで、なんとかなるのかな」といったような、漠然とした期待だけを抱いて終わってしまうことになります。あるいは、議事進行がうまくいかずに疑問・質問が紛糾してしまうと、何のために集まったのかわからなくなります。
そんなキックオフ会議を開催してしまうと、ひとたび前提を覆すような想定外が発生してしまったとき、それに対してどうやって対応すればよいのか、方針を定めようにも難しい局面が訪れることになってしまいます。
プロジェクトの開始時点とは、実際にこれから起こる物事と机上で理想としている計画のズレがもっとも大きい状態ですから、むしろ徹底的に「どこにギャップがあるのか、あるいは今後ありえるのか」に意識をむけるべきでしょう。
今後なにに備えるべきかについての認識が深まると、必ず考慮漏れが見つかります。みんなで集まって話し合いをするのは、まさにそれが目的です。実際にことを進めて見つかるうっかりよりも、着手するまえに気づくうっかりのほうが断然、対処もしやすいものです。
キックオフ会議でそうした実のある検討をすると「まず到達すべき最初のゴール」が見つかります。それは、大まかなスケジュール表に記載された最初のマイルストーンとは異なります。最初のマイルストーンを迎えるために、自分たちはどのような課題にいま直面しているのか、そしてどこをどう突破したらそれが解消されて、最初のマイルストーンが間近に見えてくるのか。
キックオフ会議を経て迎えるべきゴールとは「最初の小さな(そして確かな)ゴールが見える」という一点なのです。
●理想の定例会議
キックオフ会議に続いて、プロジェクトにおける二大会議のもうひとつ、定例会議についてもその理想像を考えていきましょう。定例会議が満たすべき要件は、以下の3つです。
・課題と対策が出揃う ・判断軸がみんなで一致する ・渋滞を解消し、再スタートが切れる
定例会議においてもっとも大切なのは、対処すべき課題が必要十分に認識されていて、それぞれの課題に対する打ち手が明確になり、今後解決していく見通しを立てることです。定例会議を開催する目的は、そこにしかありません。
課題と対策の整理は、会議の時間のなかだけでやろうとすると、いくら時間があっても足りないので、原則としては開催の前にあらかた片付いて見通しがよくなっている状態を迎えておくのが望ましいです。そして、最終的に意思決定を行う人が自信をもって、「こっちだ」と判断できる材料を揃えることができていたら理想的です。
定例会議が終了し、議事録を共有した時点で受けとった各関係者に「これでうまく再スタートが切れそうだ」という感覚が芽生えたとしたら、その定例会議は大成功だといえるでしょう。
その判断材料とは、プロジェクトの工程や成果物、調査結果といった客観的資料だけとは限りません。重要な役割を担うメンバーの意識状態や理解の深さ、意気込み、その場の勢いや流れも大切です。みんなが自信のない顔をしていたら、どんなに客観的に正しく見えても腰砕けになってしまうものです。
大きな判断をともなう定例会議では、会議本番よりもその前後のメタ会議の方がむしろ重要です。なにが話し合われるべきなのか。どんな根拠によって今後の方針を決定するのか。決定事項はいかに実行されていくべきか。
こうした一連の思考の流れを全体で共有するためには、準備、開催、事後対応の全体を通した差配が不可欠です。
会議を終えて三々五々、それぞれの持ち場に別れた後の時間は各自の主観的な時間です。担当している作業内容を黙々と進めて、次また集まるときに備えていく。
きっとまた、その計画を乱す予想外の外乱要因が発生してしまうことでしょう。材料が届かなかったり、道具が揃わなかったり、自分のあとの受けとり手がいなくなってしまったりして、作業は停滞します。
停滞が発生したときに、次にまた関係者同士で顔を合わせて交通整理を行うことで、また再び時間が流れ始めます。この集まり、散らばり、また集まる呼吸を停滞させないことが大切です。
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