本記事は、川崎晴一郎氏の著書『秒速決算~スピーディに人を動かす管理会計で最高の利益体質をつくる!~』(技術評論社)の中から一部を抜粋・編集しています
なぜ会社は数値検討のタイミングが遅いのか
●会社の数値検討のタイミングが遅いのはもどかしい
想像してみてください。あなたは現在ダイエット中です。でも体重計はありません。体重の計測は外注していて、その把握に時間がかかります。
今日は8月1日であり、今年の年末までに体重を70キロにすることを目標としています。体重計がないので現在の体重はよくわかりません。1カ月前の7月1日時点の体重が82キロだったということは先週の7月25日にわかりました。
毎日の食事を控えめにしながら、通勤で1駅分歩いてみたりと、ダイエットに向けた努力はしているのですが、見た目はそんなに変わっていない気がします。少なくともまだズボンのサイズは変えなくてよさそうです。
痩せている実感がそんなにないので思いきって食事の量を減らすか迷っていますが、仕事のストレスも多く、数少ない楽しみである食事をこれ以上制限するのは非常につらい状況です。
・日々行っているダイエットの効果は出ているのだろうか? ・体重は今何キロで、どれくらいずつ痩せていけば年末に目標を達成できるのだろうか? ・そもそも今の体重をタイムリーに測る術はないのだろうか?
モヤモヤと戦いながら、目標体重を目指して頑張っている今日この頃です。
いかがでしょうか。
「ふざけるな! 体重計よこせ!」
まず、そんな声が聞こえてきそうですね……。
体重計があまねく普及している現在において、このような話はまずありえません。本気のダイエット中の方は毎日体重計に乗り、日々の活動の効果を把握し続けるはずです。
そんなの当たり前だ!と皆様思うでしょう。
しかし、このような一般的には「できて」当たり前のことが、会社経営の世界になると「できていなくて」当たり前になってしまっているのです。
ダイエットと同じように、会社経営においても目標値が数値化され、日々の活動も数値化されるのに、その現在値を今すぐに把握する術が存在していないのです。
「当社の月次決算は、月末締めの翌営業日に出るのでとてもスピーディです」
そんな話を聞いたことがないでしょうか。経営の世界ではこれが現実で、10営業日後に前月の決算数値がわかる状況は、かなり「スピーディ」と言われます。
上場会社では取締役会があるので、翌月の半ばくらいに月次決算を固めますが、多くの中小企業では翌月末に月次決算ができれば上出来です。
ところで、3日程度ならまだしも、半月、1カ月、2カ月といった、過去の数値情報に何の意味があるのでしょうか。
「なるほど、それはよくない結果でしたね。ちなみにその状況から何も手を打たず、すでに1カ月も経ってしまいましたが、今の数値はどうなっているのですか。あ、それは来月わかるのですね。とりあえず1カ月前の状況は改善したほうがよさそうなので、そこだけは何とか手を打ちましょう。1カ月経った今は状況が変わってしまったかもしれませんが」
極端に言うとこのような状況です。タイムリーな経営かじ取り(行動修正など)は難しそうですね。
では、なぜ会社は数値をタイムリーに把握しない(できない)のでしょうか。
要因は大きく2つあります。
・数値と向き合わなくても問題ないと社長が感じている ・月次決算の固定観念に縛られている
●数値と向き合わなくても問題ないと社長が感じている
これは、そもそも「数値をタイムリーに把握する必要がない」と社長が考えているケースです。ある程度の利益を獲得している未上場のオーナー企業で、こういうケースが見受けられます。そもそも数値と向き合い続けるのはしんどいですし、マイペースでのんびり儲かり続けていれば、ある程度の満足感は得られるわけです。
お客様は一度定着するとそんなに簡単に離れるわけではないので、惰性でも利益はしばらく継続します。そのため、将来への不安をそれほど感じていないのかもしれませんし、もともとそんなに向上意欲がないのかもしれません。
とはいえ、惰性で利益を獲得できている状況が、儲けの観点からベストであるはずがありません。きちんと活動を見直すことにより、利益がもっと伸びるケースがほとんどなはずです。
単に、社長の尻に火がついていないのです。しばらくサービス改善や経費削減をしなくても経営的に問題はないと思っているので、行動を改善するモチベーションが低く、したがって数値に向き合う必要がないのです(そのため数値を「早く」把握する必要もありません)。むしろ、数値と向き合うのはお金に頓着しているようで格好悪いという、江戸っ子のようなオーナー社長もたまにいるくらいです。
しかし、どんどん儲けを増やしたい会社や、1円でも多く稼がねばならない再生会社、外部株主の目も気にしなければならない上場準備会社、上場会社、外部に売却したい会社、事業承継を考えている会社などはそうはいきません。
高い予算を課し、それを達成しないといけない、いわば尻に火がついている会社の場合は、現在および将来の利益をいかに増やすかという課題と格闘し続けています。社長は自分だけの問題でなく、利害関係者のことも意識しながら経営しなければならず、数値改善のために、常に数値に向き合い続けることが必要となります。
もっとも、そうは言いながら、尻に火のついている会社であっても、その多くは月次決算の固定観念によりタイムリーに数値把握ができていないのが現状です。
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