本記事は、川崎晴一郎氏の著書『秒速決算~スピーディに人を動かす管理会計で最高の利益体質をつくる!~』(技術評論社)の中から一部を抜粋・編集しています
売上と費用を計上するためのルール
●目的を達成できるようルールを周知する
「秒速決算」では、各現場社員が数値を更新、管理しますが、各々が勝手気ままに売上や費用を計上していては正しい数値の集計ができず、成果物は無意味なものとなってしまいます。一定のルールに基づきみんなが同じように処理を行うことが重要です。
とはいえ、基本的にそんなに難しい話ではありません。
現場社員の方々が行う数値計上(会計処理)の留意点は、大きく次の2点しかありません。
・いくらの金額を計上するか ・どのタイミングで計上するか(今月か、あるいは来月か、あるいは……)
このうち前者(いくらで計上するか)は、支払ったり入金されたりする金額を参照すればよいので、そんなに迷うことはないでしょう。強いて挙げるなら、消費税込みで計上するか、消費税抜きで計上するかの違いがありますが、会社が採用するルール次第なので、どちらで処理すべきかは社内で確認してください(通常は税抜き)。
後者(どのタイミングで計上するか)については、少し会計学的な内容を理解する必要がありますが、主な留意点は、
(1) 発生主義の概念を理解する (2) 売上計上のタイミングは、経理担当者に確認する (3) 売上に紐づく費用(売上原価など)は、売上計上のタイミングで計上する (4) 売上に紐づかない費用は、請求書などに書いてある日付を見て計上する (5) 一括で費用処理できない減価償却資産の存在に注意する
という感じですので、耳慣れないのは(1)の中にある「発生主義」や(5)の中にある「減価償却資産」という単語くらいではないでしょうか。会計理論上、最難関は(2)ですが、(1)さえ押さえておいてもらえばそんなに大きなミスにはつながりにくいですし、何よりマニアックな内容は経理担当者が検討してくれていますので、その方々からルールをうかがい、その通りに処理すれば問題ないでしょう。以下で(1)〜(5)について簡単に説明します。
●発生主義の概念を理解する
たとえば、4月にお客様に商品を販売し、5月に入金されたとしたら、売上は何月に認識するべきでしょうか。また、4月に社員に働いてもらった給料を5月に支払う場合、給料は何月の費用として認識するべきでしょうか。
発生主義においては、それぞれ4月に売上と費用を認識します。
現金の収支とは関係なく、売上や費用が発生したタイミングで処理するという考えが「発生主義」です。現金の収支で計上する考えを「現金主義」と言いますが、現在の会計実務では一部の個人事業主を除いて採用できません。そのため、皆様が管理する売上や費用は発生主義をベースに考える、とご理解ください。
●売上計上のタイミングは、経理担当者に確認する
売上の計上タイミングは、特に現場社員の方はそれが自分たちの成績などに大きな影響をもたらすものであるため、きちんと把握していることが多く、実務上あまり迷うことはないかもしれません。
しかし細かい話をすると、売上計上のタイミングにはルールがあり、
・公認会計士の会計監査を受ける会社は、「収益認識に関する会計基準」 ・それ以外の中小企業は、「収益認識に関する会計基準」または「実現主義」
により計上する必要があります。
従来は、企業会計原則に、売上高は「実現主義」により計上しなければならない旨の記載があるのみだったのですが、売上高に関する国際的な比較可能性を確保する目的や、実現主義の曖昧さをなくす目的から、「収益認識に関する会計基準」が2021年4月1日以降開始の事業年度から適用されることになりました。
なお、「収益認識に関する会計基準」によると、売上を「いつ」「いくらで」「どのように」計上するかが具体的にルール化されているのですが、その内容は膨大かつ専門的なため、専門家以外がフォローするのは容易ではありません。
そのため、特に「収益認識に関する会計基準」を適用しなければならない会社の場合は、具体的にどのように売上計上すべきかについて、経理担当者などの専門家に確認してから処理を進めるとよいでしょう。
実現主義による場合も、「実現」の解釈が画一的ではないため、売上計上のタイミングは会社によってまちまちです。たとえば、お客様に郵送が必要な商品販売の際に、商品を倉庫から出荷するタイミングで売上計上しているかもしれませんし、お客様に商品が届くタイミングで売上計上しているかもしれません。
このような事情から、自分が関連する売上をどのタイミングで計上するかについては、改めて会社の方針を確認するようにしてください。
●売上に紐づく費用(売上原価など)は、売上計上のタイミングで計上する
費用の中には、売上原価のように対応関係が売上と紐づきのものがあります。
これらは、売上計上時に「費用が発生する」ものとして費用化します。商品を仕入れた際に、「いつの発生だ?」と迷うことがあるかもしれません。4月に商品を仕入れてモノが手元にある場合、4月に仕入は完了しているわけですから、全部が4月の費用になると考えてしまうかもしれません。
しかしこの場合は、仕入の全額を費用にするわけではなく、売れ残っている分については売れた際に費用化できるよう費用処理を繰り越す必要があるのです。
たとえば、4月に80円で100個仕入れて90個売れた場合、仕入は8000円(80円×100個)ですが、売上原価として費用になるのは7200円(90個×80円)のみとなります。800円(売れ残りの10個×80円)分については、次月以降の費用となります(売れ残り分は、棚卸資産(在庫)として資産に計上します)。
「秒速決算」では、このような売上原価の管理を省略し、売上×原価率を売上原価として計上するような簡便的な処理もお勧めしていますが(簡便的な処理でも、経営判断に支障をきたさなければ簡便的な処理を選択すべきとしているため)、もし厳密に行う場合には、このように売上との対応関係を意識して処理してもらえればと思います。
●売上に紐づかない費用は、請求書などに書いてある日付を見て計上する
売上に紐づかない費用については、請求書の内容を見て計上のタイミングを判断します。たとえば、請求書には「業務委託費7月分」「広告掲載料8月分」といった感じで、いつの分の費用かの記載があります。担当者であれば請求書を見なくても、いつの分の費用かを把握している場合もあるでしょう。
期間が数カ月に及ぶ内容の請求書では
請求書を見たときに「7月から9月までの分」といった感じで、複数月にまたがる内容が記載されていることがあるかもしれません。その場合は、その請求内容が、
・成果物の納品があるものか ・成果物の納品が特になく、単に期間が定められているだけのものか
によって処理の方法を変えます。前者の場合は、納品(ないし検収)のタイミングで一括で費用計上し、後者の場合は、期間に対応させる形で費用を按分します。たとえば、3カ月分で90万円の請求だとすれば、1カ月30万円ずつ費用処理します。
お金を支払ったタイミングは関係ありません。複数月分の業務を前払いしていようと後払いしていようと、発生のタイミングにより費用計上するという考え方に違いはなく、いつの発生かを考える際に、これらの内容を参照してもらえればと思います。
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