事業承継の成功事例4選
事業承継を成功させるポイントは、前述のとおり、事業承継計画の作成、その周知、法務税務の対策、資金面の対策の4つにあるが、これらすべてに通じる成功要因は「早めに準備を開始すること」と「早めに専門家に相談すること」である。
ここでは、事業承継・引継ぎ支援センター等で公開されている事業承継の事例を見ながら、成功のポイントを解説する。
伝統技術の事業承継の成功事例
まずは、広島県に所在する、老舗の和菓子店の事業承継の事例である。
職人の技術を承継しなければならない場合、後継者の経験がネックになりやすい。
この事例でも、買い手の希望者はあったものの最初の2年はマッチングしなかったという。
最終的には、和菓子作りの経験はないものの、大手お菓子商社から独立した後継者を迎え入れ、2代目は新設会社の執行役員としてしばらく共に歩むことにしたそうである。
この事業承継の成功要因の一つは、50歳という若さで後継者探しを開始したことにあると言ってよいだろう。
通常、特定の技術や経験を重視して後継者を探す場合、母数が少ないため希望者は限られる。
その上、事業承継までの時間がなければ、さらにチャンスは減ってしまう。
しかし、逆に時間さえあれば、経験が不足していたとしても、この事例のように自分が教えるという選択肢が生まれる。その分、より広範囲に後継者探しができるため、伝統を託すにふさわしい経験や人柄を重視しながら相手を探すことができる。
(参考)事業承継・引継ぎ支援センター:〈事例21〉の事例紹介を参考に解説
有力企業への事業承継で会社も従業員も守った事例
次は、鳥取県内で清掃用のワックス等を販売する会社のM&Aによる事業承継の事例である。社員は6名で、社長の年齢は60歳。周りには70代80代の経営者もいるが、会社と従業員を守るための判断であった。
会社は単年度では赤字が出たこともあったが、その度に社長が経営改善計画を立てて要因を分析してきたことにより、堅実な経営を続けてきた。そのため、財務状態は良好だったそうである。
結果、ビルメンテナンス事業を手掛ける島根県の有力企業に会社と全従業員を引き継いでもらう形で事業承継に成功した。
この事例も、事業承継に向けての早期に行動を開始したことが、成功要因の一つといえるだろう。
(参考)事業承継・引継ぎ支援センター:〈事例7〉の事例紹介を参考に解説
従業員アンケートを活用した従業員承継の事例
続いては、大阪市内の表面処理加工業を営む企業の、従業員承継の事例である。従業員に対して、後継者として誰が適任であるかのアンケートを取って決定している。
社長は、従業員が自ら選んだ者が次の社長になるため、会社の一体感が高まり、さらに選ばれた本人にとっても社内からの信頼を感じられるメリットがあったという。
どのようにして候補者を決めれば納得感が得られるかについて悩んでいる場合は、参考になるかも知れない。
なお、実際には、アンケート後にすぐに事業承継をしたわけではなく、選ばれた候補者が承諾するまでに1年、経営についての勉強に3年、社長就任後も代表権は前経営者に残したままさらに4年半の期間をかけて計画的に事業承継をしている。社長が、早いうちに取り組んだことが、もう一つの成功要因であると言えるだろう。
(参考)ミラサポplus:「従業員への事業承継に当たり、全従業員アンケートにより後継者を選定した企業」の事例を参考に解説
家族経営の仕出し弁当店のM&Aの成功事例
最後は、奈良県内に所在する、有限会社である仕出し弁当店のM&Aである。第三者への事業承継を考える経営者にとっての不安は、売却後の生活だろう。
この弁当店は、社長夫婦と最低限のパートタイマーでやってきたところ、社長の妻が年の暮れに体調を崩し、事業を続けることが困難になった。社長の年齢は60歳手前であるが、事業承継までの時間は限られる。
このケースでは、後の買い手となる弁当の宅配サービスを展開する企業が、翌年2月には候補者として見つかっている。
特筆すべき点としては、売り手側の社長が、買い手側企業の社員として雇用されたことである。その際、料理人として働きながら、妻の看病ができるよう取り計らいがあったという。
事業承継における売却後の生活資金について、一般的な対策としては、事業承継に向けて経営改善をして役員報酬・退職金を受け取る、納得できる価格で売却できる相手をしっかり探して交渉するといったことが考えられる。
しかし、この事例のように、同業者同士のM&Aであり、かつ、想いの合う相手がタイミングよく見つかれば、条件をしっかり調整することによって、事業承継を「終わり」から「第2のスタート」にする道もあるということだ。当初は廃業も考えたそうであるが、早めに専門機関(この場合は、地元の商工会)に相談をしたことが成功の要因となった事例であるといえるだろう。