本記事は、別所宏恭の著書『ネクストカンパニー 新しい時代の経営と働き方』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています

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(画像=PIXTA)

なぜ、高収益企業は「いいオフィス」に力を入れるのか

働く場所となるオフィスの機能性も重要なポイントです。

どれだけテレワークが増えたとしても、オフィスでなければできない仕事があるなら、より発想が刺激される場所、楽しく働ける場所にすることは重要な経営課題になります。

コロナ禍において、このようなことを言われても、ピンと来ない方も多いかもしれません。実は私自身、この点についてはあまり意識していませんでした。

10年以上も前の話ですが、ある会社の経営者に、採用について伺ったことがあります。その方の会社は、これまた六本木ヒルズに移転したばかりで、その少し前には上場するなど、非常に勢いのある会社でした。そのころの私は、「自分の会社をこうしたい」というビジョンは持っていたものの、そのために必要な人材と思うように出会えずにいたのです。

するとその方は、「上場しても採用にはあまり影響がなかったけど、六本木ヒルズに移転したら目に見えてうまく人が採れるようになった」と教えてくれました。

そして、その後、私もオフィスを移転する必要があったタイミングで、思い切っていいビルに入り、内装にも力を入れたところ、実際に驚くほど採用が変わりました。

2002年にノーベル経済学賞を受賞した米プリンストン大学のダニエル・カーネマン教授と、同僚で同じく2015年のノーベル経済学賞受賞者であるアンガス・ディートン教授が発表した有名な研究で、「年収7万5000ドルまでは、主観的な幸福感と年収は比例するが、7万5000ドルを超えると比例しなくなる」というものがあります。

先に述べた「オフィスと採用の質が比例する」という現象について、自分なりに考えた結果、私はこの2人の研究結果と実は同じ話なのではないかと考えました。日本に置き換えて、7万5000ドルを約800万円とすると、

①年収が300〜400万円くらいの人は、よいオフィスよりも年収100万円アップを求める
②年収800万円以上の人なら、目先の100万円アップよりもよいオフィスを求める

そういうことではないかと推測しています。

もちろん②の人も収入を上げたい思いはあるでしょうが、年収800万円まで到達した人なら、自分次第でさらに条件を上げるビジョンは描けているでしょう。そして、そのためには、自分を成長させる刺激のある環境が必要なので、オフィスの場所や中身を重視するのではないでしょうか。

企業側から見ても、この投資は悪くない施策です。従業員1人が使うオフィスの面積はおおよそ2坪程度です。今、東京・丸の内にある当社のオフィスの坪単価は月当たり5.5万円。周辺で一番高いといわれる丸ビル(丸の内ビルディング)でも月に7万円くらいです。

つまり、非常に高額な賃料の物件であっても、物件にかかる1人当たりの費用は、せいぜい年間100〜150万円くらいに収まる。現状の物件の賃料にもよりますが、人件費を上げるのと変わらないか、場合によっては得をするくらいの費用感なのです。今では、創造性の高い仕事で活躍する人材の給料が、年間で800万円前後の企業の場合は、人件費よりもオフィスにお金を使うべきだと私は考えています(7万5000ドルは、論文発表当時のアメリカの平均世帯年収とほぼ同じ数字です。物価の高さも踏まえると、日本では平均世帯年収に少し色をつけた600〜700万円くらいをひとつのラインにしてもいいのかもしれません)。

また、給与水準がそこまではいかない企業であっても、移転はともかくオフィスの中身は考えるべきです。とくにテレワークが増えている企業の場合、空いたスペースを活用して、従業員同士のディスカッションが起こりやすいレイアウトにするのもよいでしょう。

ちなみに、本題からは少し逸れますが、もともとこのケースは私が「A社とB社は、現状の売上規模などはかなり近しいのに、人の質には大きな差があるのではないか」と感じて、前出の六本木ヒルズに移転した経営者の方にヒアリングをするなどして、自分なりに確信を得たものです。

何かの現象に違和感を覚えたら、それを自分なりに深掘りすると、このオフィスの例のように「価値観の差」が生じている原因を見つけやすくなります。

やはり「高値で売ること」は欠かせない

繰り返しになりますが、このような仕組みを考えて目指す仕事は、「高単価・高粗利」の商品・サービスであるべきです。

厳しい仕事をしてきた自負のある経営者の方などからすると、「楽しく仕事をして儲かるのか?」と思われるかもしれませんが、もちろん、楽しく働くだけで儲かるわけではありません。

コンビニエンスストアで100円のコーヒーを売っている店員は、いつも大変そうだと感じます。コーヒー自体は低価格でもそれなりの利益がある商品かもしれませんが、その他のタスクが多すぎて、楽しく働くのが難しい方は多そうです。

一方、スターバックスコーヒーの店員は実に楽しそうです。それは400〜500円前後のコーヒーを売れるからです。スタバはその空間・雰囲気を含めて好きだから利用するというファンも多いので、安い商売をする必要がありません。飲み物以外の飲食物も、高いとはいいませんが、「コンビニはもちろん、ほかのチェーン店でも、もう少し安く売っていそうだな」と思えるような価格で、粗利をきちんと確保していると感じます。

これは一例に過ぎませんが、楽しく働いて儲けるには、「高値で売ること」が必要不可欠なのです。大量生産の薄利多売ではうまく回りません。

「楽しく働くこと」と、「高く売れる商品・サービス」は必ずセットで考えてください。

ネクストカンパニー
別所宏恭(べっしょ・ひろゆき)
レッドフォックス株式会社 代表取締役社長
1965年兵庫県西宮市生まれ。横浜国立大学工学部中退。独学でプログラミングを学び、大学在学中からシステム開発プロジェクトなどに参画。1989年レッドフォックス有限会社設立、1999年株式会社に組織変更し、代表取締役社長に就任。モバイルを活用して営業やメンテナンス、輸送など現場作業の業務フローや働き方を革新・構築する汎用プラットフォーム「SWA(Smart Work Accelerator)」の考え方を提唱し、2012年に「cyzen(サイゼン/旧称GPS Punch!)」のサービスをローンチ、大企業から小規模企業まで数多くの成長企業・高収益企業に採用される。

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