本記事は、別所宏恭の著書『ネクストカンパニー 新しい時代の経営と働き方』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています

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(画像=PIXTA)

「商談」と「雑談」は時間軸が違う

私は、素晴らしい技術力を持つ中小企業の多くが、高い粗利を取る仕事ができない現状を、非常に口惜しく思っています。

小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏は、中小企業の生産性の低さに苦言を呈していますが、下請け仕事で大企業にマージンを取られているからそうなるのです。

アトキンソン氏は、日本の中小企業は「効率化」ではなく、「生産性向上」を目指すべきだと説いていますが、その真意は私の考えと近しいものではないかと思っています。

下請けではどうあがいても薄利しか取れません。大きく儲けるには、大企業の軒先を借りたコモディティ市場のビジネスではなく、高く買ってくれる人だけにターゲットを定めた自社プロダクトを生み出すしかないのです。

同じ関西に本社を置く電子機器メーカーとして、よく比較されるオムロンとキーエンス。前者の株式時価総額が2兆円なのに対して、後者は15兆円ですが、キーエンスが圧倒的に強いのは、同社が直販だからです。オムロンは下請けではありませんが、卸を使えば利益構造は下請けと変わりません。アイリスオーヤマの強みも直販です。元請け企業や卸を使わずに売るには、自分たちで企画を立てるしかないのです。

そして、そのためには、「雑談」が必要になります。

「商談」でするのは今のビジネスの話だけです。未来を切り拓くアイデアは雑談に隠されています。ビデオ会議は便利ですが、リモートの打ち合わせは雑談が起こりにくいし、起こっても盛り上がりにくい。現場が重要な理由はそこにあります。現場で商談をすると、本題の成功率を上げるためにも、雑談が盛り上がるものです。

そもそもわれわれも、以前は下請けでした。

その中で情報を取りながら、私たちの技術力に高値をつける「価値観の差」がある場所を自ら探して動き続け、儲けを増やしてきました。

その後も、リーマンショックの際には手痛いダメージを受けるなど紆余曲折を経て、自社プロダクトの開発に進出し、今では私たちが開発する「cyzen」の運営に注力することができています。

それらに必要とした情報の多くは、ここでは書けないような、現場でしか得られない類のものですが、ただのネット記事で「この企業になら高く売れるのでは」と思い、実際に営業したこともあります。その情報を分析できる「文化への理解」は必須ながら、アンテナの立て方次第では、無料の公開情報もビジネスに化けるのです。

とはいえ、下請けでは自分たちで値段を決められない事実に変わりはありません。OEM生産企業が、どれだけ「この商品は1000万円で売れる!」と言ったところで、最終的に値づけをするのは当然ながら納入先の会社です。

優れた企画を売るために、まず販売力を身につける

手前味噌ながら、当社はもともとお金を取れるシステムを開発する技術力は備えていました。ITに詳しい人なら誰もが知るような大企業のシステム開発の中心を私たちのエンジニアが担ったケースは多々あります。

しかし、cyzenのように売れるサービスを考える企画力がなく、大企業の企画実現をサポートする仕事ばかりをしてきたわけです。なればこそ、企画の重要性を痛感しており、なぜもっと早く自社プロダクトに取り組まなかったのか……という思いもあります。

ただ、われわれの場合、下請け時代がまったく無駄だったとは思いません。なぜなら、システムエンジニアリングにおいては、エンジニアの派遣先はニーズや価値観を学べる「現場」でもあるからです。

逆にいえば、商品を売る企業が優れた企画を売るには、まず販売力を身につけることが重要になります。

アイリスオーヤマは、まさに下請けから始めて、販売力と企画の両輪で成長した企業です。

プラスチック製の瓶を下請けでつくる創業当時(1958年)の「大山ブロー工業所」の年商は500万円。そこから、父親の急逝を受けてわずか19歳で跡を継いだ現会長の大山健太郎氏は、「町工場のオヤジで一生を終えたくない」と、メーカーとして自社開発商品の製造を考え、トライアンドエラーを繰り返してプラスチック製の養殖用ブイを開発しました。

以前はガラス製で壊れやすかったブイに替わる丈夫な新製品は大ヒットし、株式会社となった「大山ブロー工業株式会社」の売上は、7年で約100倍の5億4000万円になったそうです。

このプラスチック製のブイや、続く大ヒット商品となったプラスチック製育苗箱(いくびょうばこ)は、既存品に耐久性などの問題があったものを、丈夫なプラスチックでつくることで潜在的ニーズに応えたものといえるでしょう。大山氏が創業当初から価値観の差に着目する視点を持っていたことを窺わせます。

ネクストカンパニー
別所宏恭(べっしょ・ひろゆき)
レッドフォックス株式会社 代表取締役社長
1965年兵庫県西宮市生まれ。横浜国立大学工学部中退。独学でプログラミングを学び、大学在学中からシステム開発プロジェクトなどに参画。1989年レッドフォックス有限会社設立、1999年株式会社に組織変更し、代表取締役社長に就任。モバイルを活用して営業やメンテナンス、輸送など現場作業の業務フローや働き方を革新・構築する汎用プラットフォーム「SWA(Smart Work Accelerator)」の考え方を提唱し、2012年に「cyzen(サイゼン/旧称GPS Punch!)」のサービスをローンチ、大企業から小規模企業まで数多くの成長企業・高収益企業に採用される。

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