本記事は、別所宏恭の著書『ネクストカンパニー 新しい時代の経営と働き方』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています

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(画像=PIXTA)

非人間的な働き方で成り立つ仕事は結局、価格競争にしかならない

効率化は経営者の重要な課題ですが、効率化の追求は組織の活力を奪ってしまう。

私は2020年代を突き抜けて繁栄していく会社を『ネクストカンパニー』と呼んでいますが、このネクストカンパニーが追求するべきは、「人間にしかできない仕事」への注力です。

ここで重要なのは「価値観の差」という考え方です。

たとえば普通に買い物に行くためだけの自転車なら、1万円か2万円も出せば買えますが、保育園に子どもの送り迎えをする人にとってはペダルが重くて大変だし、大事なわが子を乗せるものだけに安全面も気になる。

多くの人がこうした価値観を持っているからこそ、電動アシスト自転車は十数万円でも売れるのです。これはいわば「価値観の差」を見つけて儲けることといえます。

AIよりも少ないサンプルで素早く価値観の差を発見し、新しい価値を生み出す。そのために必要なのは、「楽しく仕事をすること」です。

労働生産性のデータを基に、日本企業の状況について話しました。経営者としてはひとつの指標として大事なのですが、「労働生産性のため」に働いて大きなリターンを得られるのは、大量生産・大量消費の商品で勝てる大企業のみ。少なくとも、中小・ベンチャー企業では「価値を生むため」に働くことに重きを置く必要があります

そして、そのためには、伸び伸びと働ける環境が大切です。

ストレスや疲労が創造性を阻害するのは、各種の研究で科学的に結論が出ている事実です。殺伐とした空気のオフィスで、人間の尊厳を損なうような厳しい仕事をしながら、新しい価値を生み出すのは困難でしょう。

しかし、人が楽しく働くことは、単に社員の一人ひとりが「楽しく働こう!」と思ってどうにかなるものではありません。セルフマネジメントで対処できるのはよほどの逸材だけで、基本的には経営サイドのマネジメントによって「楽しく働ける仕組み」をつくることが重要です。

また、仕組みをつくるにも、経営者自身が信じていないような価値観に則った仕組みを確立することはできません。たとえばパワハラやセクハラがなくならないような企業の場合、まずは、それがおかしいことだと経営者が本気で感じ、変えるべきだと思わなければ、浸透させるのは難しいからです。

とくに、ある手法で過去に成功した人が、考えを本気で変えるというのは、正直にいえば難しいかもしれません。ただ、個人的には、過去のやり方で生き残り続けることのほうが、現代においてはより難しいと感じます。

利益率の高い企業で「常識」となっていること

ともあれ、素直にそう思えるにせよ、変わる必要があるにせよ、仕事を(経営者自身だけでなく従業員にとっても)「生きがい、楽しみである」と捉える組織になることが大切です。

仕事を苦痛と思っている人には、何をやらせても意味がありません。作業としてこなせる仕事ならどうにかなるかもしれませんが、そのような仕事の大半は、今やITで代替できます。

いかに仕事を楽しみにしてもらえるか。「こんなに楽しんでいるのにお金をもらえるなんて最高だ」という環境にどこまで近づけるか―。

そんな話はただの理想論だという方もおられるかもしれませんが、GoogleやAppleなどが、少なくない費用をかけてそうした環境を整えていることが広く知られているように、これはもはや「利益率の高い仕事ができる企業の常識」と言ってもいいと私は考えます。

これは国や文化の違いといった話ではなく、日本でも今、伸びている企業は、そうした環境を意識的に整えています。私が直接見聞きした範囲でいえば、「証券アナリストによるディスクロージャー優良企業選定」の2019年度新興市場銘柄部門で第1位に選出された株式会社SHIFTなどは実に印象的でした。

同社はソフトウェアの品質保証・テスト事業などを手掛けていますが、ゲームで遊ぶことに熱心だった人たちにとっては、発売前のゲームで遊んでいて給料がもらえる。仲間内でしか評価されなかった「ゲーム攻略のスキル」で奥に潜んだバグを見つけ、評価される。しかもそれが給料に反映されるなら、これ以上に嬉しいことはありません。さらに、業務用のシステムですら、バグを見つけることをゲーム感覚で楽しんでいます。

人件費の安い国でテストするのではなく、楽しんでもらえる人たちに楽しんでもらえる仕組みをつくる。それによって、優秀な人たちに働いてもらうことができ、結果として生産性が上がり、トータルコストでももちろん安くなっているのです。

楽しく働ける企業の理想は、「社業に取り組むだけで楽しい」と全従業員が感じられる状況をつくることです。

もちろん、これはあくまで長期目標として考えるべきでしょう。そもそも働き方の先進企業とて、仕事をしていて辛いことはあるはず。どれだけやりがいのある仕事でも、生みの苦しみはありますし、だからこそマインドフルネスなどが重要視されているのだと思われます。

そこで意識すべきは、同じ仕事をするにしても、「より楽しく働ける工夫」をすることです。

たとえばITシステムの開発・運営をするような企業なら、システムのテスト時に問題を見つけてくれた人に、賞与などにつながるポイントを付与するといった形で、仕事の中に楽しめる要素、嫌々やっていた仕事の見方が変わる要素を盛り込んでいく。発想としては、社内表彰や社内運動会といった報奨・イベントと同じ話ではあるのですが、今はそのようなイベントを好まない人も多くいますし、お金もかかれば工夫も必要です。

個人的には、その工夫は儲かる企画のために、お金は従業員にそのまま渡して楽しんでもらうために使うべきだと考えているので、可能な限りシステムで対処します。人ではなく、コンピューターによってゲーミフィケーションを行う感覚で、従業員が喜ぶ施策を仕組み化するというのが理想です。

ちなみに、仕組みをつくるときに、外してはいけない大事な要素があります。①再現性、②汎用性、③継続性の3つです〈図表参照〉。

偏見や思い込みを排除して、明確な仮説を立てた上で試行錯誤を行ってみることで、ひとつの成功体験が得られたとします。そのとき、それは再現性があるのか、汎用性があるのか、継続性があるのかを分析し、この3つが見つけられたことだけに集中して大量にリソースを投下することが必要です。

ネクストカンパニー 図
(画像=ネクストカンパニー 図)

意識が変化に追いつかない

人が楽しく働くことの重要性について触れましたが、実際、「仕事が大変なのはしょうがない」と思う人は意外に多いものです。

これは社会のルールや仕事の捉え方に原因があります。そもそも労働は「楽しむもの」ではなく、「罰」という発想。だから古くは奴隷に、現代にかけては不法移民にやらせるといった発想につながってきました。

日本でもそのような歴史・問題がないとはいいませんが、これは非常に欧米的なルールだと考えています。コンピューターのシステムも同様で、ルールやガバナンスが非人間的です。だから、それを遵守しようとすると、仕事がつまらなく、苦しくなり、現場が殺伐としてしまうのです。

もちろん、生きるために必要な仕事が大変なものばかりだった時代はありました。しかし、現在はそうした状況は大きく変化しています。ただ、仕事の内容が変わっても、意識がなかなか変わらない。

そして、そんなルールをつくった欧米のトップ企業たちは、無駄なアナログ作業をシステム化し、意地でもバカンスを取って人間的に働こうとしています。ドイツ人にバカンスについて聞いたことがありますが、「優秀な社員が長期休暇を取っても余裕で現場が回るような企業は多くはないが、そうではない企業も、自分がバカンスを取る権利のために頑張って現場を回す」そうです。

2020年5月には、GAFAMの時価総額が東証1部の約2200社の時価総額を上回り、一方の日本企業は、働き方のアップデートができずに成長が鈍化し、AIとデータの研究でもアメリカと中国に大きく水をあけられています。

自動車の世界でいえば、テスラだけでも大変な黒船ですが、このあとAppleもEV市場に参入してきたら、日本のモノづくりの最後の砦たるトヨタすらも、Appleやテスラにパーツを提供するいちメーカーになってしまうかもしれません。

私はこの状況を非常に危惧し、これからの日本企業は、デジタルを使いこなす前に、労働についての考え方を根本的に変えるのが先決ではないかとも考えています。

そもそも、前向きに取り組めば、たいていの仕事は楽しめると思うのですが、日本人の多くは仕事を辛いものだと思い込んでしまい、楽しいものだと解釈できなくなっている。それが先進国の中でも目立つ「幸福度の低さ」の要因でもあるのではないでしょうか。

非人間的な働き方で成り立つような「質」は弱い

そうではなく、仕事は生きる上で必要不可欠なのですから、働くのが楽しくて、仕事が生きがいといえる人生、そして周囲から「それでいいんだよ」と肯定される人生を目指すべきです。

以前の日本企業は、非人間的な働き方も含めて効率化を追求し、大量生産・大量消費の時代で勝利を重ねてきました。そして実際に勝っていた時期は、ハードな仕事でも楽しく働ける人は多かったのかもしれません。

しかし、非人間的な働き方で追い求めた「質」は弱いのです。なぜなら、最終的には価格競争にしかならないから。そこに商機がないとはいいませんが、勝てるのはごく一部でしょう。

たとえば、とくに1990年代を中心に、ビデオデッキやテレビなど激安価格のAV機器で広く知られた船井電機は、その後も低価格を売りにしてきましたが、国内では近年はOEM生産が中心。2013年にはオランダの大手電機メーカーであるフィリップスからの音響機器部門の買収に失敗するなど、高価格化へのシフトができず、業績も時価総額も低迷していました。2021年5月には秀和システムホールディングスによる株式公開買い付け(TOB)が成立、秀和を再建した代表取締役会長の上田智一氏が船井電機の再建にも着手しています。

これは、どんなにコスト削減を頑張っても、安売りでは最後に負けてしまうことを図らずも示しているのではないでしょうか。「品質管理」「コスト管理」の次は、高価格商品に投資すべきなのです。

ですから、少なくとも今は勝てている企業以外は、そのようなモノづくりを目標にするべきではありません。軌道修正が必要です。

「機械が入ってきたら仕事が奪われる」といった言説も、最終的には価格競争に収斂する、機械・デジタルで代替可能な仕事をやっていたからです。

その人のよさを活かした仕事を用意できれば、自ずと価値のある、機械に代替できない仕事になります。見方を変えれば、経営者は戦略を考えるだけでなく、「社員一人ひとりの価値」を見出していくことも、今後の重要な仕事になるでしょう。

ネクストカンパニー
別所宏恭(べっしょ・ひろゆき)
レッドフォックス株式会社 代表取締役社長
1965年兵庫県西宮市生まれ。横浜国立大学工学部中退。独学でプログラミングを学び、大学在学中からシステム開発プロジェクトなどに参画。1989年レッドフォックス有限会社設立、1999年株式会社に組織変更し、代表取締役社長に就任。モバイルを活用して営業やメンテナンス、輸送など現場作業の業務フローや働き方を革新・構築する汎用プラットフォーム「SWA(Smart Work Accelerator)」の考え方を提唱し、2012年に「cyzen(サイゼン/旧称GPS Punch!)」のサービスをローンチ、大企業から小規模企業まで数多くの成長企業・高収益企業に採用される。

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