「休むも相場」という格言がある。辞書には「損失の後や予想しづらい局面では、ポジションをいったんすべて整理して、冷静に反省や分析をすることが大切であるという教訓」(小学館:デジタル大辞泉)と書かれている。国内現物株式はもちろんのこと、デリバティブ取引や信用取引を行っている人も、文字通り「休む」あるいは「クールダウン」が必要な場面がある。
筆者の知る限り、それはバイ・サイドでも、セル・サイドでも共通に言えるのだが、先物やオプションなどのデリバティブ取引、あるいは信用取引をされている人は「買ったり、売ったり」を比較的短期で繰り返す傾向がある。買いから入る場合もあれば、売りから入る場合もあるので、市場が開いていて、上下に値段が動いている限り、いつでも参加して利益を追求する機会がある。そのせいかも知れないが、一度始めると常にポジションを取って何かをしていないと気持ちが収まらなくなる人も少なくない。実はここに大きな(陥り易い)罠がある。
投資とは「自分の欲望との闘い」である
まず、普通の現物株式は「買い(ロング)」から始まり、その値上がりを待って「売り手仕舞う(決済する)」流れとなる。当然といえば当然なのだが、現物株式は上昇局面でしか収益機会がない。
一方、先物やオプションに代表されるデリバティブ取引や、信用取引は「売り(ショート)」からも入ることができるのが大きな特徴である。すなわち上昇局面ではなく、下落局面でも収益機会を狙うことが可能だ。だから理屈のうえでは、市場展開が常に上がったり下がったりを繰り返すものだと仮定したら、買ってから売り決済をして、売ってから買い決済をして、さらに返す刀でまた買って売り決済をするという「連続取引」も可能になる。
だが、守護天使にでも恵まれない限り、永遠に勝続けることはあり得ない。
実際問題として、9連勝で得た利益を1敗で吹き飛ばした、というのはよく聞く話だ。
では、なぜそうなるのだろうか?
筆者は1988年から33年間にわたって市場業務に携わり、その大半をファンドマネージャーとして過ごしてきた。その経験から上記の問いかけに自信を持って答えることができる。すなわち、「投資は自分の欲望との闘いであり、そして誰もが欲深いから」である。
たとえば、「ドルコスト平均法」と呼ばれる積立て方式がある。「毎月一定金額を自動引落しで購入しましょう」というものだ。この方式の優れている点は「人間の欲望」を排除できることだ。「(安い今こそ)もっと買っておきたい」とか、「(かなり高くなったと感じる)ここでは買いたくない」とか、余計な人間心理を排除できることが最大のメリットといえる。換言すれば「人間の心はそんなに強くない(だから、ドルコスト平均法のニーズがある)」という見方もできる。
勝ちが続くと登場する「欲望という悪魔」
投資の世界にも「ビギナーズ・ラック」がある。デリバティブ取引や信用取引を始めたばかりの人が、順調に利益を積み上げるケースだ。これは単なる偶然とか、運がよかっただけとも言い切れない。デリバティブ取引も信用取引も「ハイ・リスク」な取引と承知しているからこそ、初心者ほど慎重にポジションを設定し、ある程度稼いだところで、早々に利益を確定するという心理も働くだろう。初心者は慎重だからこそ「ビギナーズ・ラック」に恵まれるという側面もある。
ところが「勝ち」が続いてくると、まず間違いなく「欲望という悪魔」が頭をもたげてくる。あたかも「あなたは天才です。だから取引量を増やしたり、もっとリスクを取ったり、攻める取引にすれば、もっともっと儲かるようになります」と耳元で囁いているかのようだ。
そして大抵の場合、悪魔の囁きに多くの人が耳を貸して後悔することとなる。なかにはそれまでの「リスク・リターン・プロファイル」よりも数倍リスクが高い取引をする人も少なくない。そうなると、たった1回の損失で過去に積み上げた利益を全部吹き飛ばすことになる。