本記事は、佐藤耕紀氏の著書『今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「経営学」』(同文舘出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

モチベーションは高すぎてもダメ?

モチベーションと成果

多くの人はなんとなく「モチベーションは高い方がよい」と思っているかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか。

心理学者のマクレランド(David C. McClelland)は、「心理学者は、あまりに高揚したモチベーションは業績に悪影響をおよぼし得るということを証明している」と言います(※1)。

「どうしてもうまくやらなければ」というモチベーションが強すぎると、緊張やストレス、焦り、疲労といった副作用が出て、それが成果にマイナスに働くことがあります。

たとえば、大切な試験や面接で、モチベーションが強すぎて(緊張しすぎて)普段どおりの力を発揮できず、失敗したという話をときどき聞きます。

好意を抱く異性や、重要人物、大勢の人などを前にすると、「失敗できない」という気持ちがプレッシャーになって、かえってうまくいかないということもあるでしょう。「やる気が空回りする」という表現がありますが、「やる気」が必ずしも成果に結びつかないケースもあるのです。

「平常心」といいますが、いつも変わらず淡々と、やるべきことをやるのが効率的なこともあります。熟練した職人は、無理せずゆっくり、しかしあまり休まずに、手際よく仕事をこなしていきます。「ウサギとカメ」ではありませんが、マラソンの選手はゆっくり走っているようで、長い距離では短距離ランナーよりも速く走ることができます。

やる気に意味はある?

そもそも「部下にやる気を起こさせることができるのか」「やる気に意味はあるのか」という議論もあります。

世界最大の半導体メーカー「インテル」のCEOだったグローブ(Andrew S. Grove)は、次のように言います。


マネジャーはどうやって部下にやる気を起こさせるか。一般的に、このことばには、何かを他人にさせるというような含みがある。だが、私にはそういうことができるとは思えない。モチベーションなるものは人間の内部から発するものだからである。したがって、マネジャーにできることは、もともと動機づけのある人が活躍できる環境をつくることだけとなる。

より良いモチベーションというのはとりも直さず業績が良くなることであって態度や気持ちの変化ではないのであり、部下が「自分はやる気が起きた」などということにはなんの意味もない。大切なのは、環境が変わったために〝業績(遂行行動)〟が良くなるか悪くなるかである。(※2)

  • (※1)デイビッド・C・マクレランド著、梅津祐良・薗部明史・横山哲夫訳『モチベーション』(生産性出版、2005年)、p.95
  • (※2)アンドリュー・S・グローブ著、小林薫訳『HIGH OUTPUT MANAGEMENT 人を育て、成果を最大にするマネジメント』(日経BP、2017 年)、p.234

今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「経営学」
佐藤 耕紀
防衛大学校 公共政策学科 准教授
1968年生まれ、北海道旭川市出身。旭川東高校を卒業後、学部、大学院ともに北海道大学(経営学博士)。防衛大学校で20年以上にわたり教鞭をとる。経営学にあまり興味がない学生を相手に、なんとか話を聞いてもらう努力を重ね、とにかくわかりやすく伝える授業にこだわっている。就職、結婚、子育て、といった人生のイベントをひととおり終え、生活者としての経験をふまえて、仕事にも人生にも役立つ経営学を探求している。趣味はクラシック音楽と海外旅行。これまでに経営学の共著が6冊ある。

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