本記事は、佐藤耕紀氏の著書『今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「経営学」』(同文舘出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

情報
(画像=PIXTA)

なぜ、ルイ・ヴィトンはセールをやらない?

価格競争

低コスト戦略で、しばしば問題になるのは価格競争です。

5-2で紹介しましたが、マクドナルドはバブル崩壊後の平成不況と呼ばれた時代に、どんどん値下げをしていきました。

1993年に210円だったハンバーガーを、94年には130円、95年からは80円、2000年には平日65円、2002年には59円と、1/3以下にまで値下げしました。売上は一時的に上がりましたが、2002年には29年ぶりの赤字に転落しました。

牛丼の吉野家は、2001年に牛丼(並)を280円に値下げして、マクドナルドとともに「デフレの象徴」といわれました。

集客には成功しましたが、2001年まで10%以上だった利益率は低下し、2004年にはBSE(狂牛病)の問題もあって赤字に転落しました(※1)。その後も「松屋」や「すき家」との間で、「牛丼戦争」と呼ばれた価格競争はたびたび繰り返されました。

値下げ競争はしばしば、双方が疲弊する消耗戦に陥ります。顧客が価格に敏感な(価格弾力性が高い)とき、もし自分だけが値下げできれば、売上は増えて、利益も増える可能性があります。

しかし、たいていはライバルも追随して価格を下げるので、結局のところ差はなくなり、利幅が減ってお互いに経営が苦しくなるだけ、ということになりがちです。こうした競争は比喩的に「軍拡競争」と呼ばれます。お互い費用がかさむだけで、相対的な差はつかないということです。

ブランド・イメージ

一度でも値下げをすると安物のイメージがついて、ブランドの価値が下がるということもあります。ブランド品では流通価格をコントロールして、値崩れを防ぐことが重視されます。

たとえば、「ルイ・ヴィトン」はセールもアウトレットも一切やりません(※2)。

差別化戦略で紹介したiPhone(5-3)も、多くのお店で価格は統一されています。「白い恋人」のような銘菓もそうです。

硬直性

「硬直性」(rigidity)という問題もあります。価格には「下げるのは簡単でも上げるのは難しい」という「上方への硬直性」(upward rigidity)があります。

値下げに文句をいうお客はいませんが、値上げとなると批判や反発は避けられません。ハンバーガーが59円で売られていたのを知っているお客は、210円に戻すと言われても簡単には納得しないでしょう。そのため、値下げには慎重な判断が必要となります。

ちなみに、賃金や雇用のように「増やすのは簡単だけれども減らすのは難しい」ことは「下方への硬直性」(downward rigidity)といいます。

日本では長時間労働が問題になっています。その原因のひとつは、雇用の硬直性にあるのかもしれません。不況でも解雇が難しいとなると、好景気でも正社員を増やさず、残業でなんとかしようとするインセンティブが働くでしょう。

競合商品と大差のないコモディティ(3-5)だと、競争手段は価格などに限られてしまいます。
不毛な値下げ合戦を避けるには、「はなまるうどん」対「丸亀製麺」(5-7)のように、どこかで違いをつくって(差別化して)、ライバルと棲み分ける必要があるのでしょう。



今さらだけど、ちゃんと知っておきたい「経営学」
佐藤 耕紀
防衛大学校 公共政策学科 准教授
1968年生まれ、北海道旭川市出身。旭川東高校を卒業後、学部、大学院ともに北海道大学(経営学博士)。防衛大学校で20年以上にわたり教鞭をとる。経営学にあまり興味がない学生を相手に、なんとか話を聞いてもらう努力を重ね、とにかくわかりやすく伝える授業にこだわっている。就職、結婚、子育て、といった人生のイベントをひととおり終え、生活者としての経験をふまえて、仕事にも人生にも役立つ経営学を探求している。趣味はクラシック音楽と海外旅行。これまでに経営学の共著が6冊ある。

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