本記事は、藤井 聡の著書『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています(聞き手 木村博美)

なぜ日本人の9割は金持ちになれないのか2
(画像=PIXTA)

適度な経済成長が国民を幸せにする

世界中でもプライマリーバランスにこだわっている国は、日本のほかにはありません。なぜなら要するに、PBにこだわりすぎると景気が悪くなり、税収が減って、プライマリーバランスが悪化する。一方、PBにこだわらなければ支出が拡大して成長が可能となり、税収が増えて、財政を健全化するからです。

いいですか、経済成長こそが必要なんですよ。

―以前から引っかかっていたことなんですが、一般に経済成長はいいことだといわれていますけど、私にはそうとも思えないんです。どう考えても無限に経済成長できるわけがない。大量生産、大量消費を拡大し続けていけば、いずれ地球の資源は枯渇するし、地球環境を破壊する。何より、おカネさえ使っていれば幸せ、というものでもないでしょう。もっと欲しいと思うから不幸になることもあるわけで、「足るを知る」ということも大切だと思うんですけど。

藤井:おっしゃる通りです。僕も、行き過ぎた経済成長は人間を幸福にしないと思います。でも、その逆にあまりに貧乏だと不幸になるのは当然の話ですよね。幸せになるためには、めちゃくちゃたくさんのおカネがある必要はないけど、それでもある程度は必要ですよね。前にもいったように、消費が拡大するということは、私たちの所得が増えるということです。また、生産も増える。生産能力が上がって、量も質も上がっていく。所得が増えれば余裕が生まれて、文化的なレベルも上がっていく。経済成長には、そういう側面がある。

―貧すれば鈍する、という言葉がありますけど、貧乏だと毎日どうやって暮らしていくかばかり考えて、他のことに気が回らない。食べるのもままならなくなると、悪事に走ることもある。経済的に余裕がないと、心も貧しくなりますよね。

藤井:そうです。そして、大事なことが、もう一つ。経済成長は要らない、という識者もいるのですが、経済学的メカニズムから見ると、資本主義には「弱肉強食」の原理があるので、成長しなかったら、どれだけ規制をかけても資本家が徐々に強くなっていく。成長しない経済では、資本家が、磁石が砂鉄を吸いつけるように庶民のおカネを吸い上げていくんですよ。

しかし、資本家が富を収奪する以上に成長していると、弱者にも富を分配していくことができる。成長していくことで初めて、弱者にも発展の余地が出てくる。資本主義を採用している国では、成長しない限り、弱者は資本家に搾取され続けることになるんです。それが幸か不幸か、資本主義っていうものの特徴なんです。

―なるほど! 目からウロコが落ちました。

藤井:もちろん共産主義の国なら資本家の暴走をガシッと止められるでしょうが、今の日本においては、やはり資本主義をベースにしながら、資本家の暴走をある程度止めつつ、バランスをとって成長していくしかない。過剰な消費社会への批判は当然あるとしても、経済学的な視点でいうと、消費というものが一定程度伸びていくことは人間の幸福に役立つわけです。

―政界や財界の人たちが「経済成長」という言葉を口にすると、なんとなく世界に日本という国を誇示したり自分たちを利するための経済成長であって、国民一人ひとりの豊かさや幸福がないがしろにされているような気がするんですね。先生は一定程度とおっしゃいましたが、私たち国民にとってベストな経済成長とはどういうものだと思われますか?

藤井:成長した分が人々の幸福のために使われていく、それがベストな経済成長です。それが本当にできるなら成長率なんて何パーセントでも構わないと思います。でも逆に、成長した分が人々の幸福のために使われなくて、特定の資本家や権力者のためだけに使われていくような経済成長なら、最悪ですよね。

じゃあ、人々の幸福のために使われていくとはどういうことかというと、第一に、貧困と格差の是正のために使われるということ。第二に、治安や防災、そして国防、医療、福祉といった、安全安心に暮らしていくために使われていくこと。第三に、食べたり着たりするものや居住する空間をどんどん上質で、上品なものにしていく、つまり生活文化の高度化のために使われるということ。そして第四に、余暇の芸術の水準の向上と、そのたしなみに一人でも多くの人が触れられるようになっていくために使われるということ、です。

この話は、一人の貧困にあえぐ若者がどういう生涯を送るのかを考えるとわかりやすいと思いますよ。そんな若者は、なんとかカネが稼げるようにならなきゃいけない。さもなければ、貧困のままで不幸なままだから。でも、金持ちになればそれでいいのかっていうと、そうじゃない。上品で、他人に対して思いやりのある、良い金持ちにならなきゃいけない。浅ましく、何の思いやりもない、下品でおぞましい守銭奴の金持ちになってもしょうがない、ってことです。

これが、僕のイメージする「良い経済成長」っていうものです。

―素晴らしい! そういう経済成長なら、日本の社会は本当の意味で豊かになりますよね! 岸田総理が「分配なくして成長なし」とおっしゃっていたので、期待が膨らみますが。ところで、話は戻りますが、良い経済成長を実現するためにも、とにかく政府が金融政策だけでなく、実際に支出を拡大する財政政策を行うことが必要不可欠なわけですよね。その理屈が今ひとつ、飲み込めていないのですが……。

藤井:それを明確に理解するためには、経済の仕組みそのものを確実に理解する必要がありますよ。これまでの話と重複する部分もありますが、改めて解説しましょう。それさえ正確に理解できれば、「経済成長」のためには、やはり一時的には財政赤字を拡大させることが必要であること、そして、それさえできれば経済成長して、それを通して税収も増え、最終的に財政赤字が減っていって財政再建あるいは財政健全化が実現していく、というストーリーが、おのずと明らかになってきますから。

なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか
藤井 聡(ふじい・さとし)
1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授(都市社会工学専攻)。元内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)。京都大学工学部卒業、同大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科客員研究員、東京工業大学大学院教授などを経て、2009年より現職。2012年より18年まで安倍内閣において内閣官房参与。2018年よりカールスタッド大学客員教授、ならびに『表現者クライテリオン』編集長。文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞など受賞多数。専門は公共政策論、都市社会工学。近刊に『令和日本・再生計画』(小学館)、『こうすれば絶対よくなる!日本経済』(アスコム刊、田原総一朗氏との共著)、『ゼロコロナという病』(産経新聞出版刊、木村盛世氏との共著)などがある。

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