本記事は、藤井 聡の著書『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています(聞き手 木村博美)

なぜ日本人の9割は金持ちになれないのか1
(画像=PIXTA)

日本経済の土台を痛めつけた10%消費税

藤井:消費増税した10月、そして11月の景気動向指数(DI)は、バブル崩壊やリーマンショックのときと同じ2カ月連続ゼロ。また、商業動態統計速報によれば、10月の小売販売額は前年同月比で実に7.1%も下落した。これは、2014年の消費増税の4.3%下落という結果よりも格段にひどい。14年増税時の下落は、安倍内閣にさえ「もう二度とこんな激しい経済下落ショックを繰り返してはならない」といわしめるほどに、ひどいものだったんですよ。その約1.7倍という消費下落が、10%消費増税ショックだったのです。次の図表7をご覧ください。

なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか 図
(画像=なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか より)

―うわっ、増税後の落ち込みがひどい。急転直下ですね。

藤井:景気動向指数を細かく見ていきますと、2008年にリーマンショックがあって急に下がったんですけど、そこからずっと上がってきた。2011年、東日本大震災があってストンと下がりますけど、また元に戻るんです。しかし、消費増税はボディーブローというか、殴られ続けているような被害を生む。消費増税はそのときだけではなくて、ずーっと続きますから。だから、地震と消費増税だったら消費増税の方がエゲツない帰結をもたらすわけです。

11年の震災後、なんだかんだといいながら、ずっと上がってきました。14年に消費増税します。ストンと下がります。下がったんですけど、輸出が伸びてきた。だから、ちょっと回復しているように見えた。しかし、その輸出も落ちてきて、外需がダメになってきた。そのダメになったところで、19年に消費増税したために、ズドンと下がったんですよ。その下げ幅は14年消費増税のときより大きく、こんなに下がったのは、あの東日本大震災以来だった、ということなんです。ひどい話です。

コロナのせいで、消費税10%の増税効果をみんな忘れてるようですが、とんでもない。僕の知り合いの自動車ディーラーは、増税後に「売り上げが8割減っています。もう首くくらなあきませんわ」と話していましたからね。増税前にホテルの経営をやめた友人もいます。「消費増税をやられたら、経営していくのはちょっと無理。キャッシュレス決済にしたら得だというけど、それをやる余裕もないからやめますわ」って。

日本工作機械工業会が出しているデータで、消費増税後の11月の機械受注額、つまりいろんな工場がどれくらい機械を発注しているかを見たら、前年同月比37.9%減ですよ。平均で4割近く減っていた。壊滅的ですよ。

資金繰りの工夫でギリギリやっている中小企業はいっぱいあるわけです。たとえば鉄板を買って、機械をつくって、売って、収入があるだろうと思って、その収入で返すつもりで借金して、また材料を買って……と自転車操業をやっている。ところが、注文が4割減ったんですよ。ちなみに10月も4割ぐらい減ってますから、2カ月間資金が焦げついているわけです。その一方で、カネを返せ、カネを返せ、と催促される。「もうちょっと待ってください」「待たれへんな」といわれるわけですよ。しょうがないから消費者金融に走る。10日で5割の金利というようなエグい業者がいるかもしれない。地獄ですよ。この37.9%減という数字の裏に、地獄に落とされた中小企業の経営者の方、労働者の方、その家族の方が山ほどいるわけです。

日本経済の土台も、コロナ禍が来る前の時点でもうこれだけ傷んでしまっていた。で、そんなところにコロナショックです。消費増税していなければ、コロナの影響だけでここまで激しい経済大惨事にはならなかったはずです。

消費税を10%に引き上げた影響は底知れません。

「法人税引き下げ」と「消費税引き上げ」はワンセット

―ところで、昭和のころまで消費税はなかったんですよね。導入されたのは平成元年(1989年)、竹下登政権のとき。最初の税率は3%だったのに、これまでに何度も増税されて、ついに10%になってしまった。どうして消費税が生まれて、どうして増税というと、当然のことのように消費税が対象にされるのですか。

藤井:消費税が導入された理由について一般的にいわれているのは、「直間比率の是正」です。

直間比率というのは直接税と間接税の割合のことで、直接税には法人税や所得税、相続税、住民税などがあって、間接税には消費税や酒税、たばこ税などがあります。消費税が導入されるまで、間接税は全税収のうち4%ほどで、日本は直接税の比率が高すぎるという議論が80年代からずっとあったんですね。

なかでも一番金額が大きかったのは所得税でした。年収何千万円と稼いでるお金持ちは住民税と合わせて所得の75%近い税金を払っていて、お金持ちをいじめすぎだ、こんな重税をかけるから日本人はカネ儲けをしようとするモチベーションが低いんじゃないか、という議論があったわけです。

一方、法人税率は、1980年代は40%以上ありました。それで、トヨタとか日産とかソニーとか大企業からたくさん税金を取っていたら、企業は成長できない。グローバル社会のなかで日本企業に重税をかけていると、企業が海外に流出して、アメリカやヨーロッパ、中国との競争に負けて、日本が貧乏になっちゃうんじゃないかという、ある種「神話」があったんですね。

本当に単なる神話です。うちの大学の研究室でこれについての調査研究をやったのですが、法人税が安い国に転出しようなんていってる企業なんか、ホント、どこにもない。お客さんが多いところに進出する、っていう企業ばっかりなんです。それなのに、外国の先進国はだいたい日本より消費税が高いということを引き合いに出して、外国を見ろ、と。外国は直接税と間接税をバランスよく取っている。要するに消費税を結構取っているのに、取っていない日本は、先進国として遅れているんじゃないか。法人税だって高すぎる、やっぱり欧米を見習わなくてはいけないだろ! みたいな議論がずーっと続いていた。そのころ若かった官僚や政治家が、今、偉くなっているんですよ。だから今の財務省の官僚の方とか政府の重鎮の方とかは、消費税を上げないとカッコ悪いと思っている。国民は嫌がるけれど、消費税を上げるのが真っ当な政治家の姿なんだ、と。つまり、なんともへんちくりんな正義感を持たれている官僚や政治家が多いわけです。

とにかく欧米を手本に直間比率を是正して、税金は国民全員で広く薄く負担しましょう、という話になった。つまり、所得税と法人税を引き下げるための財源として消費税を使いましょう、ということになったわけです。その結果、消費税は今、全税収のうちで一番多い30%台なんですよ。1980年代に40%を占めていた所得税は約30%に減り、33%だった法人税は、安倍内閣が始まったころは30%程度、3年目には約24%にまで減税されています。今は、20%くらいですが、いろいろ控除があって、実際にはそれより低くなる場合もあります。

―あ、思い出しました。トヨタが法人税を払っていなかったという話。外国の子会社から配当を受け取った場合、その95%は課税対象からはずされるという制度があって、2009年から5年間、日本で法人税を払わずに済んだんですよね。日本一お金持ちの会社が税金を払っていなくて、私たちはしっかり取られてるって、どう考えてもおかしい。政府は何を考えてるんだ! と怒り狂っていた友人がいました。

藤井:消費税をいい出したのは、経団連(日本最大の経済団体「日本経済団体連合会」)ですよ。いうまでもなく、経団連は日本の大企業を中心に構成された利益団体です。ちなみに、日本の全企業数のうち中小企業が99.7%を占め、日本の従業者の約7割が中小企業で働いているんですけれど。経団連の力は圧倒的に強くて、自民党に対する献金で自民党に圧力を加えることができます。大企業の多くは、株主から純利益を拡大して配当金を払えという要求を受けていて、それに対応するために、法人税を下げてくれ、その代わりに消費税の増税にはオレたちが賛成してやる、というバーター論が経団連をはじめ財界を中心にずっと続いてきたわけです。

必ず、法人税率の引き下げと消費税の引き上げはセットになっている。これが消費税増税の基本的メカニズムです。

―卑しいカラクリですね。

なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか
藤井 聡(ふじい・さとし)
1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授(都市社会工学専攻)。元内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)。京都大学工学部卒業、同大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科客員研究員、東京工業大学大学院教授などを経て、2009年より現職。2012年より18年まで安倍内閣において内閣官房参与。2018年よりカールスタッド大学客員教授、ならびに『表現者クライテリオン』編集長。文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞など受賞多数。専門は公共政策論、都市社会工学。近刊に『令和日本・再生計画』(小学館)、『こうすれば絶対よくなる!日本経済』(アスコム刊、田原総一朗氏との共著)、『ゼロコロナという病』(産経新聞出版刊、木村盛世氏との共著)などがある。

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