本記事は、藤井 聡の著書『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています(聞き手 木村博美)

なぜ日本人の9割は金持ちになれないのか5
(画像=PIXTA)

感染を抑制しつつ経済も社会も回せ!

―ようやくウイズコロナの生活も本格的に始まりそうです。居酒屋のご主人が「1年9カ月、地を這いずり回ってきましたが、これからに希望を持っています」と話されていて、胸が詰まりました。先生は、先に触れたように最初の緊急事態宣言が出る前から「半自粛」というウイズコロナ型のライフスタイルを勧められていますよね。

藤井:僕は防災の視点からパンデミックの研究をしてきたんですけど、防災には「防災」と「減災」の2つの概念があるんですね。比較的小さな台風や地震の場合には、耐震補強をしっかりしたり堤防を十分高くしたりするといった防災対策をやって被害をゼロにすることを目指す。一方で、南海トラフ地震のような巨大地震やメガ台風の場合、被害を最小化しようという「減災」に目的を切り替えるわけです。

大は小を兼ねるのだから防災をやっておけば減災は要らないと思われるでしょう? 実際、建設省や防災研究所などは最初、防災を目指した。だから堤防やダムをつくることだけを議論していたのですが、それを乗り越えてくる津波とか洪水とかがたくさん起こってきたわけです。また、防災が完璧であればあるほど、みんな安心してしまって、堤防を越えるような津波がきたときにそれを想像して備えていないから被害が何十倍、何百倍にも広がってしまう。したがって大きな災害に関しては、防災の努力をすると同時に被害を最小化する減災の取り組みをやることが必要だと、とくに東日本大震災後に防災業界、防災行政がシフトしてきた。残念ながら、その後も毎年毎年、悲惨な経験を積み重ねて、防災から減災へと転換が起こったわけです。

ところが、厚労省やコロナ対策分科会の先生たちは、パンデミックの対応というものを防災行政ほど経験しているわけではない。防災の概念しかないから「クラスター対策で封じ込めていく」とおっしゃっていたのでしょう。このままでは、日本国民はパンデミックの強大な被害を被る可能性が高い。クラスター対策だけに頼るのではなく、クラスター対策も重要な作戦の一つとして、それ以外の減災対策もやっていかなくてはいけない。ということで、僕が代表を務める京都大学の研究ユニット「レジリエンス(強靭化)実践ユニット」でウイルス学の先生や医師、衛生学の先生方と共に練り上げて「半自粛」という行動変容戦略を立てたわけです。

―私は「半自粛」で、すでにウイズコロナ生活を送っていて、幸いコロナにもかからず、好きな歌舞伎や映画も観ながら、そこそこ快適に暮らしてきましたが、まだご存知ない方たちのために、半自粛とはどういうものか、ご説明くださいますか。

藤井:もちろん。手洗い、マスク、咳エチケットは当然のこととして、基本方針は、感染すると亡くなるリスクが高い高齢者、基礎疾患者、妊婦の保護強化です。ワクチン接種が進んで、高齢者の死亡率は激減していますが、今後どんな変異株が出てくるかわかりませんから、自粛の継続を要請するということになります。とくに大事なのは既存の高齢者施設の防疫対策を強化すること。会社においては在宅勤務の継続、自宅においてはインフルエンザの患者が出た場合と同じように高齢者や基礎疾患者、妊婦の方を守っていく。完全に守り切ることは難しいかもしれませんが、いわゆるコロナ弱者をより手厚い方法で守ることによって、亡くなる方をどんどん減らしていくことができるはずです。

そして、コロナ弱者以外の方は外出し、経済活動を再開する。そのときに注意すべき項目は、3つだけです。

1 飲み会、カラオケ、性風俗の自粛の継続。これはちょっと我慢してください。
2 「鼻の穴」と口、目を触らないようにしてください。
3 どこへ行っても換気を徹底してください。

これらは、飛沫感染、接触感染、空気感染(エアロゾル感染)を断ち切る最も効果的な行動で、この3つをしっかり守っておけば、感染リスクは我々の見込みとしては8割程度は減らすことができると考えています。ちなみに、接触感染というのは自分の手についたウイルスが目、鼻、口、とくに鼻の穴の粘膜に入って感染するので、これらを触らなかったら8〜9割は防ぐことができます。

これから政府と自治体がどのように行動制限を緩和して、どれほどの成果をもたらすかわかりませんが、この半自粛の特徴は、項目が少なく覚えやすく実施しやすい。事業者だけでなく利用者の協力を促し、より強力に感染抑止します。そして何よりも、経済の被害が非常に少ない。飲み会、カラオケ、性風俗は経済が傷つくのでここは政府の補償が絶対に必要ですが、他のところはほとんど関係ない。なぜかというと、社会的な距離を過剰に強要しないからです。

身体的距離を2メートル離せとか三密がダメだとかいうと、多くの事業者が倒産する。バス事業はほとんど撤退せざるを得ないし、飲食店、劇場、映画、娯楽施設なども軒並み経営破綻してしまう。しかし「半自粛」であれば、経営は厳しいかもしれないけれど潰れる会社をたくさん救うことができる。飲食店も3つのポイントを守って、マスクもせずにぺちゃくちゃしゃべらなければ、飲み会以外は可能だし、コンサートや演劇、映画も、目鼻口を触らず、じーっと観て聴いて帰るくらいだったら、すぐ隣に人がいたとしても、少なくとも8割は感染リスクを減らすことができます。

クラスター対策も使いながら事前に人々が感染したり、させたりしないようにする「感染しないさせない国民運動」をやるべきだと思います。それが、減災につながっていく。感染が爆発しないように経済と社会を回していくということが、場合によっては2年3年と必要になってきますから、息長く行動を変容していく。ウイルスと付き合っていくためには、こういう考え方がいいのではないかと思っています。

なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか
藤井 聡(ふじい・さとし)
1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授(都市社会工学専攻)。元内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)。京都大学工学部卒業、同大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科客員研究員、東京工業大学大学院教授などを経て、2009年より現職。2012年より18年まで安倍内閣において内閣官房参与。2018年よりカールスタッド大学客員教授、ならびに『表現者クライテリオン』編集長。文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞など受賞多数。専門は公共政策論、都市社会工学。近刊に『令和日本・再生計画』(小学館)、『こうすれば絶対よくなる!日本経済』(アスコム刊、田原総一朗氏との共著)、『ゼロコロナという病』(産経新聞出版刊、木村盛世氏との共著)などがある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)