不動産投資で物件を購入する際、チェックしておきたい項目の一つが「新耐震基準」です。新耐震基準は、いつごろどのような経緯で始まったのでしょうか。本記事では、旧耐震基準との違いを解説しつつ旧耐震基準で建てられた建物への対策も考えます。
1981年に改正された建築基準法
地震大国と呼ばれる日本に建てられた建築物にとって耐震基準を満たしていることは極めて重要なポイントです。建築基準法改正に伴い1981年(昭和56年)6月1日から現行の耐震基準を導入。1995年(平成7年)1月17日に起きた阪神・淡路大震災では、1981年5月31日以前に建築された住宅・建築物に倒壊など大きな被害が生じました。
同震災による死者の大部分が建物の倒壊によるものといわれています。耐震基準を満たすことの重要性を改めて感じさせる災害といえるでしょう。耐震に関して国土交通省は、直接住宅・建築物の耐震診断や改修を行っていないため、所有者が自ら耐震診断を受けて耐震補強工事を行うことが必要です。
旧耐震基準との違い
改正された耐震基準は、旧耐震基準とどのような違いがあるのか確認しておきましょう。
・旧耐震基準
1981年6月1日以前に建築を確認された建物で「震度5程度の地震でほとんど建物が損傷しない」ことを基準にしています。旧耐震基準では中規模地震まで耐えられる建物という点が基準になっていました。
・新耐震基準
1981年6月1日以降に建築確認された建物で、旧耐震基準に加えて「震度6強~7程度の大規模地震では倒壊を免れる程度」とより基準が強化されました。新耐震基準では大規模地震にも耐えられる建物の耐震能力が求められるようになったのです。
さらに1995年の阪神・淡路大震災で木造建築の倒壊が多く起こったため、2000年(平成12年)の改正建築基準法では、木造建築の基準も改正されました。同時に地震発生時に地震の規模に対してどこまで耐えられるかを計算する「限界耐力計算」という指標が導入されています。建物を設計する場合、この計算によって得た計算値を基準にして設計するように義務付けられるようになりました。
不動産投資判断に重要な耐震基準
不動産投資で物件を購入する際に新築であれば問題ありませんが中古物件の場合は、新耐震基準をクリアしているかをチェックすることが必要です。新耐震基準をクリアしている建物は、どの程度安全性が増すのでしょうか。国土交通省が公表している「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書」によると1981年5月までに建てられた旧耐震基準の建物で無被害だった割合は5.1%でした。
一方で1981年6月~2000年5月までに建てられた新耐震基準による建物の無被害の割合は20.4%と約4倍です。さらに木造建築の耐震基準が改正された2000年6月以降に建てられた建物では、61.4%が無被害という結果になっています。同時期の建物で倒壊・崩壊したのは、わずか2.2%に過ぎません。
耐震基準をチェックするポイント
耐震基準をチェックするポイントは、竣工日ではなく建築確認の日付を見ること。なぜなら例えば建物の竣工日が1981年10月1日でも建築確認日が1981年4月1日であれば旧耐震基準で確認された建物として認定されることになるからです。建物が完成した日ではなく建築確認がとれた日が基準になることを覚えておきましょう。
また大規模地震の耐震強度を見極めるためには、物件周辺の環境や地盤の強弱も確認することが大切です。例えば埋め立て地やかつて農作地として使われていたエリアなどは、地盤が弱い可能性があります。さらに物件周辺に木造建築が多ければ地震が起きた際に火災の被害が大きくなるリスクもあるでしょう。
マンションの構造が変則的な「ピロティタイプ」の場合は、特に構造が弱いといわれています。ピロティタイプとは、1階の大半の部分が壁のない駐車場になっているタイプのマンションのことです。阪神・淡路大震災の際、ピロティタイプは、新耐震基準でもダメージを受けているため、注意しましょう。
耐震診断の費用はどれくらい?
一般財団法人日本耐震診断協会が公式サイトで公開している「耐震診断料金(費用の目安)」によると建物構造別の耐震診断料金の目安は、以下の通りです。
構造 | 延床面積 | 診断料金 |
---|---|---|
RC造(鉄筋コンクリート) | 1,000~3,000平方メートル | 約1,000~2,500円 (1平方メートルあたり) |
S造(鉄骨造) | 1,000~3,000平方メートル | 約1,000~3,000円 (1平方メートルあたり) |
木造住宅 | 120平方メートル | 約40万~50万円 |
出典:一般財団法人日本耐震診断協会「耐震診断料金(費用の目安)」
上記の費用目安を参考にするとRC造(鉄筋コンクリート)で延床面積が1,000平方メートルの場合は、約100万~250万円です。それなりに大きな負担となりますが、全国の多くの自治体で耐震診断や補強設計、耐震改修工事に補助金制度があるので、利用すれば負担が軽減されます。
一方、耐震補強工事の費用は、東京都が2013年3月に公表している「マンション実態調査結果」によると500万円超~1,000万円が最も多く22.6%でした。0超~100万円が5.4%ある半面、1億円超も9.7%あり建物の規模や工事内容によって費用はさまざまなことが分かります。
住宅耐震化の進捗状況は?
次に住宅耐震化は、どの程度進捗しているのかについてデータから確認します。国土交通省の調べによると2018年(平成30年)における共同住宅の「耐震性あり」の物件は、約2,350万戸で総戸数約2,490万戸の約94.4%です。大部分は、耐震性ありと考えてよいですがそれでも約140万戸(約5.6%)は「耐震性不足」となっている点も忘れてはいけません。
そのため1981年6月1日より前に建てられた建物であれば基準を満たしているかどうか慎重に確認することが大事です。一方で戸建住宅の場合、耐震化率は約80.6%ですが約560万戸(約19.4%)が耐震性不足のため、共同住宅よりも倒壊リスクは高くなります。
旧耐震基準の建物はどのような対策が必要か
万一旧耐震基準に建てられたマンションを所有している場合、どのような対策が必要になるのでしょうか。まず建物が想定する地震の規模に対して現行基準と同程度の耐震性を確保しているか、耐震診断を受けることが必要です。診断の結果、安全性が確認されて耐震診断基準を満たしたマンションとして資産価値の維持・向上につながります。
耐震診断基準を満たしていないと判断された場合は、耐震補強工事が必要です。区分所有建築物の大規模改修工事を行う場合の決議用件は、4分の3以上の賛成が必要でした。しかし2002年の区分所有法改正で過半数の賛成に緩和されています。もちろん一棟所有マンションであれば管理組合はないため、オーナーの判断のみで耐震補強工事を行うことが可能です。
マンションの耐震改修工事とは、国土交通省の見解によると以下の工事を指します。
「柱や梁の鋼板や炭素繊維シートによる補強、耐震壁やブレース(鉄骨でつくられた筋かいなどの補強材)の増設など耐震性を強化する改修工事」
出典:国土交通省
不動産投資における耐震基準のチェックは、必要不可欠です。将来発生が予想される首都直下型地震や南海トラフ沖地震なども視野に入れ耐震基準を満たしていない物件を所有している場合は、耐震補強工事を確実に行うようにしましょう。
(提供:YANUSY)
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