カルテルは目的を問わない

独占禁止法は、事業者が互いに公正な競争を行うことで消費者に良質・廉価な商品を提供することが目的だ。そのため公正な競争を阻害する行為を禁止している。しかし企業のなかには「過当競争」となって質の低下や共倒れの発生が危惧されるケースもあるだろう。質の低下や共倒れが発生すると結果的に消費者の利便性を損なう可能性もある。

このような事態を防ぐ目的として同業者間で価格などの足並みをそろえようとする行為を「防衛的カルテル」と呼ぶ。仮に防衛的カルテルだったとしても独占禁止法違反とみなされるケースはあるため、十分に注意しておきたい。また環境問題や消費者利益を考えて行った行為もカルテルとされたケースもある。

近年オランダで鶏肉の生産業者とスーパーが飼育環境に配慮した鶏肉のみを取り扱う合意をしたことが独占禁止法違反と認定された。環境や健康に配慮した製品の提供、つまり消費者利益が目的ではあるが割高な環境配慮の商品を買える消費者は限定的で公平な消費者利益とはならないという見解だ。このような事例は、日本の事業者にも起こり得ると気を引き締めておきたい。

カルテルが起こりやすい場面

気をつけたいのが「自社でカルテルをしたつもりがないのにカルテルに該当する場合もある」ということだ。例えば業界団体の懇親会などの場で以下のような話をする際は注意しておきたい。

  • 価格を上げなければやっていけない
  • ○○円くらいは値上げが必要だ

なぜなら単なる立ち話で具体的な合意、賛成が行われていなくても後日各社が同じような値上げ行動をとるようなことがあると、「暗黙の合意」として違反となる恐れがあるからだ。また業界団体に所属している場合には、業界団体の会合等で概括的な需要見通しを作成・公表したり技術動向や経営知識等に関する情報の収集・提供したりすることもあるだろう。

その際に基準価額や販売価格、生産量などに関する情報交換をするケースがあるかもしれない。しかし業界団体で行っている場合でも直近の各社における製品ごとの生産量、出荷量、販売額等を報告し合うことは危険だ。場合によっては、カルテルと認定され独占禁止法違反となるおそれがある。なにげない場面のなにげない事業上の会話によってカルテルとされないように注意しておこう。

最近のカルテル事例

ここで、実際に発生した事例をいくつか紹介しよう。

配送料カルテル

この事例は、近畿地区に店舗を設置する複数の百貨店業者がお中元やお歳暮などのギフト商品にかかる配送料(全国一律料金)を一斉に引き上げたというものだ。宅配業者に支払うギフト商品の配送料は、顧客から一律料金を徴収するが実費の一部は百貨店の負担となる。

公正取引委員会によると配送業者から値上げの要請を受けた各社は、配送費用の増加に伴う顧客の争奪を避けるため、顧客負担分の一律料金を引き上げる旨、担当者同士で合意していた。これを配送料カルテル(不当な取引制限)に該当するとして、2018年各社は課徴金納付命令および再発防止を求める排除措置命令を受けることとなった。

インフルエンザ予防接種カルテル

合意はなくともカルテルとされた事例が2014年の一般社団法人吉川松伏医師会で起こったインフルエンザ任意予防接種の料金設定に関する事例だ。任意で受ける予防接種の料金は、各医療機関が独自に設定できる。しかし公正取引委員会によると当医師会が料金を決定し、会員である医療機関に通知。会員の約9割は、医師会が決めた料金を自院の予防接種料金として設定した。

医師会の説明では、会員より目安額の要望を受け提供したものであり、強制ではない。それでもカルテル(事業者団体による競争制限)を結んだとして公正取引委員会より再発防止を求める排除措置命令を受けることになった。