本記事は、岡信太郎氏の著書『財産消滅:老後の過酷な現実と財産を守る10の対策』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています
こんなにも大変、後見人選任申立書の作成
親が認知症となり、金融機関などから後見人をつけるように言われてしまうことがあります。
これに対しては、「そう簡単に言うもんじゃない」というのが一般市民の率直な意見ではないでしょうか。
というのも、後見人を利用するにあたっては、家庭裁判所に申立書を提出する必要があります。それは、A4用紙1枚で事足りるようなものではありません。
よくあるパターンが、後見人選任を思い立ったが、制度の複雑さのためにすぐに挫折してしまうことです。管轄の裁判所が遠い、裁判所に行ったはいいが後見制度のビデオを見せられ嫌になった、役所に行ったが対応してくれなかった、など様々な理由で諦める方がいます。
それらを乗り越えたとしても、申立書作成の壁にぶつかることがあります。
申立書には、添付書類として医師の診断書を添付しなければなりません。後見制度は、本人の判断能力に応じて、後見、保佐、補助の3段階に分かれています。本人がどの状態であるのか、医学的判断を仰ぐのです。
この診断書ですが、認知症専門医でなくても、かかりつけ医に書いてもらったものでも大丈夫です。このことは、一般的にあまり知られておらず、診断書の取得に苦労される方もおられます。
診断書以外にも提出する書類がまだまだあります。その中でもっとも馴染みが薄いのが、「登記されていないことの証明書」です。何の証明書だかよく分からないと思いますが、これは本人が事前に後見人(任意後見人)を選任していないことを証明するものです。東京の法務局での発行となるため、主として郵送請求することになります。
後見の申立てにあたっては、他にも財産が分かる資料を提出します。典型的なのは、通帳や保険証券です。原本を提出するわけにはいかないので、本人の財産に応じてコピーを取り提出します。資料のコピーで終わりではありません。それらをもとに財産目録や収支予定表を作成しなければなりません。
申立書の作成に時間がかけられないなどの事情があれば、司法書士などの専門家に作成代行を依頼することができます。しかしその場合は費用が発生します。その費用ですが、原則的に本人ではなく申立てをする人の負担とされています。
後見制度は駆け込み寺
後見人の利用にあたっては、予防のためというより必要にかられて急きょ利用するパターンの方が多いです。
そのことは、先程も出てきた最高裁判所事務総局家庭局の統計からも分かります。申立ての動機として、預貯金等の管理・解約が最も多くなっています。つまり、金融機関による認知症を原因とする口座凍結などにより、慌てて後見人を選任するのです。
その他にも、割合が多い順に、身上保護、介護保険契約、不動産の処分、相続手続、保険金受取、訴訟手続等となっています。何か手続き上の必要性に迫られて、利用していることが分かります。
後見人は、法定代理人という位置付けになります。本人の代わりに財産を管理したり処分したりする権限を付与されます。本人の代わりに動ける権限のことを、「代理権」と言います。代理権があるので、本人に代わって預金の引き出しや契約ができるのです。
また、後見人には他にも「取消権」という権限があります。本人がしてしまった不要な契約などを取り消すことができるのです。
いずれにせよ、本人やその財産に何かあって初めて後見人を利用していると言えます。本人がトラブルに巻き込まれたり、本人が自分で自分の財産を管理できなくなったりした状態で、後見人利用につながっているのです。
後見人には、先程の「代理権」など非常に強い権限が与えられます。通常は委任(委任状)が必要なところを、それなくして対外的にやり取りすることができることになります。それも、単発のものではなく継続して代理することができるのです。
したがって、何か行き詰まったときには、後見人が選択肢となります。認知症対策として、最後の砦とされるのはこのためです。
しかし、慌てて駆け込み寺に駆け込んでしまい後悔する話が後を絶ちません。
本書などをお読みいただき、よくよくその概要を押さえてから利用を検討する必要があります。
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