本記事は、岡信太郎氏の著書『財産消滅:老後の過酷な現実と財産を守る10の対策』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています
最近よく耳にする家族信託の利用を検討する
具体的な対策を解説します。
成年後見制度は、様々な弊害が指摘されています。また、前項で触れた遺言は、相続で使用するものであり生前に活用することはできません。
そんな中、今注目されているのが民事信託です。家族で資産対策を取るので、家族信託と呼ばれることが多いです。信託銀行のように営利を目的としている「商事信託」とは区別しなければなりません。
家族信託のすごいところは、生前に財産の運用や処分まで家族ができることです。後見は保全がメインであり、かつ、第三者の管理下におかれることが多いです。これに対し、家族信託はとても柔軟に財産管理の設計ができるようになっています。
家族信託の理解にあたっては、登場人物を押さえておく必要があります。「委託者」「受託者」「受益者」という3人の人物が登場しますので、常に3者間の関係を頭に入れておきましょう。
まず、「委託者」とは財産を預ける人のことを指します。次に、「受託者」とは財産を託される人のことを指します。最後に、「受益者」は、対象となった財産から経済的利益を受ける人を指します。この3者間で、財産管理のスキームを組んでいきます。
家族信託においては、自分の財産(「信託財産」と呼ばれます)を信頼できる家族に託して、所有者に代わりに管理してもらいます。
先程の「委託者」を父親、「受託者」を息子、「受益者」を父親とし、アパートのような収益物件を信託するイメージだと分かり易いのではないでしょうか。なお、「委託者」と「受益者」を同じ人にすることが可能ですし、第2「受益者」として、母親など次の人を設定しておく方法もあります。
このスキームを使うためには、「委託者」(例えば父親)と「受託者」(例えば息子)とで信託契約というものを交わします。そこで、どういった目的のためにどの財産を信託するのかを盛り込んでいきます。
契約が完了すれば、不動産の名義を「受託者」(例えば息子)に移します。登記を見れば、信託財産であることが分かるようになっています。「受託者」に名義が移っていますので、不動産を管理するだけではなく、委託者に代わって処分することも可能です。
不動産だけではなく、銀行に信託口座を開設すれば、委託者に代わって預貯金を管理していくことができます。
家族信託を上手く使えば、強力な認知症対策となります。「委託者」である本人が認知症になっても、すでに信託財産となっている部分については、「受託者」が管理できるようになっているからです。しかも、経済的利益は「受益者」が受けるようになっています。ここがはっきりしていれば、安心して財産を預けることができるはずです。
もっとも、本人の希望があって初めて利用可能となる点は、任意後見契約と同じです。したがって、財産を預かりたい人が一方的に利用できるものではありません。自分のいいようにできると勘違いしてしまうと、親族後見人でも稀にある使い込みにつながるリスクをはらんでいます。
やはり、対策を打つためには、元気なうちというのが大原則です。中には、「そのうちでいいよ」「誰々に任せているから大丈夫」と安易に考えている方も多数おられます。
しかしそうしている内に、いざという時に本人はおろか家族さえも動けず、財産消滅の世界に入り込んでしまうのが今の時代です。
〝思い立ったが吉日〞で対策を打っていきましょう。これに優るタイミングはありません。
親や家族のおカネがいざという時に使えない、など財産に関する〝お困りごと〞がますます増える現代社会。
必要な財産を動かせない事態となり、時間ばかり過ぎてしまう……。そんな現実に、当事者の精神的な負担は増すばかりです。人から聞いてはいたが、まさか自分がそういった目に遭うとは、と戸惑う方は多いのです。
待ち受ける厳しい現実の一方で、財産絡みのトラブルを未然に防ぎ、上手く財産管理や資産運用ができている方がいるのもまた事実です。共通するのが、〝元気な内に備えていたこと〞です。偏った情報に惑わされることなく、広く情報収集し最適な対策を取っていたのです。
読者の方の中にも、様々な書籍を読んだり、セミナーに参加したりするなど、情報を集めている方もいらっしゃるのではないでしょうか。情報を事前に得ることは、大切です。
しかし、最も重要なことは、その情報を基に行動に移すことができるかどうかです。ある意味、そこが大きな分かれ道となるのです。〝そういう方法もあるのね〞と知ってそれで満足するのか、はたまた〝これだけはやっておこう〞と実際の行動に落とし込むのか、この差は大きいです。
本書を締めくくるにあたり、対策が功を奏し資産を上手く守り、活用することができた成功事例を3つ挙げたいと思います。
明日は我が身かもしれません。あなたや家族の財産を守るために、参考にして頂けると幸いです。
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