1 ―― アンケートの概要
株式会社ニッセイ基礎研究所では、不動産市況の現状および今後の方向性を把握すべく、2004年より不動産分野の実務家・専門家を対象に「不動産市況アンケート」を実施している。本アンケートは、今回で18回目となり120名から回答を得た。
- 調査対象:不動産・建設、商社、金融・保険、不動産仲介、不動産管理、不動産鑑定、
不動産ファンド運用、不動産投資顧問・コンサルタント、不動産調査・研究・出版、
不動産に関連する格付、などに携わる実務家および専門家。
- アンケート送付数:201名
- 回答者数:120名(回収率:59.7%)
- 調査時期:2022年1月18日から1月25日
- 調査方法:Eメールによる調査票の送付・回収
アンケート回答者の属性(所属先内訳)は、「不動産ファンド運用・不動産投資顧問」(22.5%)が最も多く、次いで、「不動産仲介・管理・鑑定」(21.7%)、「その他不動産関連サービス(不動産調査・研究・出版、不動産に関する格付など)」(21.7%)、「不動産・建設・商社」(20.8%)「金融・保険」(13.3%)であった。回答者の属性に大きな偏りは見られず、本アンケートは不動産市況の実態に関して、属性による偏りを概ね排除していると考えられる。
2 ―― アンケートの結果
2 ― 1. 不動産投資市場の景況感
(1) 現在の景況感
「不動産投資市場全体(物件売買、新規開発、ファンド組成)の現在の景況感」について質問したところ、プラスの回答(「よい」と「ややよい」の合計)が6割強、「平常・普通」が約3割、マイナスの回答(「悪い」と「やや悪い」の合計)が1割弱となった(図表 - 1)。
前回調査(2021年初)では、「平常・普通」との回答が約4割、プラスの回答(「よい」と「ややよい」の合計)が3割強、マイナスの回答(「悪い」と「やや悪い」の合計)が2割強と、景況感に対する見方が分かれていたが、今回はプラスの回答(「よい」と「ややよい」の合計)が6割以上を占める結果となった。
都市未来総合研究所によれば、2021年上期の国内不動産取引額は1兆9,537億円(前年同期比+38%)となり、新型コロナ感染拡大前(2019年上期および2018年上期)の水準を上回った。不動産投資市場の景況感について良好とみる実務家・専門家が増えている。
(2) 6ヵ月後の景況見通し
「不動産投資市場全体の6カ月後の景況見通し」について質問したところ、「変わらない」との回答が約6割、好転との回答(「よくなる」と「ややよくなる」の合計)が2割強、悪化との回答(「悪くなる」と「やや悪くなる」の合計)が1割強を占めた(図表 - 2)。前回調査から「悪化」との回答が減少し、その分、「変わらない」との回答が増加した。また、「景況見通しDI(※1)」は、前年調査のマイナス(▲12.4%)からプラス(+8.3%)に転じ、楽観的な見方がやや強まった。(図表 - 3)。
(※1) 「景況見通しDI」の算出式:(「ややよくなる」+「よくなる」)−(「やや悪くなる」+「悪くなる」)[単位は回答割合(%)]
2 ― 2. 投資セクター選好
(1) 概況
「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資セクター(証券化商品含む)」について質問したところ、「物流施設」(67%)との回答が最も多く、次いで「産業関係施設(データセンターなど)」(59%)、「賃貸マンション」(29%)、「エネルギー関連施設(太陽光発電施設など)」(28%)との回答が多かった(図表 - 4)。上位4セクターは、順位を含めて前回調査と同じであった。
「物流施設」に関して、大規模物流施設の新規供給量(全国)は、2021年には過去最高となる500万m(※2)に達したが、EC関連企業や3PL事業者による物流拠点の拡大を背景に、空室率は極めて低い水準で推移している。賃料も緩やかに上昇しており、実務家・専門家の期待は引き続き高い。
「産業関連施設」に含まれるデータセンターは、各種クラウドサービスや動画等のコンテンツ配信サービスの提供・配信基盤であり、社会インフラとしての重要度が増している。2021年6月に経済産業省が発表した「半導体・デジタル産業戦略」では、「日本でのデータセンター立地を進め、日本がアジアの中核データセンターハブ(立地拠点)となることを目指す2」としており、データセンター市場の成長期待が高まっている。
「賃貸マンション」に関して、不動産賃貸市場の先行き不透明感が強まるなか、相対的に賃料変動が小さく安定した需要が期待できるセクターとして、投資家の関心を集めている。
一方、「都市型商業ビル」(3%)、「郊外型商業ビル」(3%)、「アウトレットモール」(0%)を期待する回答は、下位に留まった。
(※2) 経済産業省『[半導体・デジタル産業戦略](https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210604008/20210603008-1.pdf)』(2021 年6月4日)
(2) 前回調査との比較 [期待が高まった(後退した)投資セクター]
前回調査から回答割合が10%以上増加した投資セクター(期待が高まった投資セクター)は、高齢者向け住宅等の「ヘルスケア不動産」(12%→23%)であった。一方、前回調査から回答割合が10%以上減少した投資セクター(期待が後退した投資セクター)は、「物流施設」(85%→67%)であった(図表 - 5)。「ヘルスケア不動産」について、国土交通省「不動産特定共同事業の多様な活用手法検討会 中間とりまとめ」によれば、「高齢化が進展する中、三大都市圏の高齢者数は大幅な増加が見込まれ、現在の高齢者向け住宅の供給量では、将来的な需要増に対応できない」とのことであり、ヘルスケア不動産の供給・投資余地が大きいとの見方から、期待が高まっているようだ。