IRR(内部収益率)は、不動産投資の収益性を判断する際に活用できる指標です。通常の利回りとは異なり投資期間全体の収益性を評価できます。IRRの計算式は、複雑ですがExcelなどの表計算ソフトを使えば簡単に求められるため、積極的に活用してみましょう。本記事では、IRRの計算式の意味や不動産投資での活用方法、注意点について解説します。

IRRとは

IRR(内部収益率)とは?計算式の意味や不動産投資における活用方法、注意点を解説
(画像=Iryna/stock.adobe.com)

IRRは「Internal Rate of Return」の略で和訳すると「内部収益率」です。投資で得られるキャッシュフローの現在価値と投資額が等しくなる割引率を意味し不動産投資の収益性を評価する指標として活用できます。IRRは、収益不動産の購入から運用、売却まで投資期間全体の収益性を判断できるのが特徴です。

キャッシュフローを得られる時期も考慮するため、最終的に得られる利益は同じでも早期に投資資金を回収できる物件のほうがIRRは高くなります。

割引率・現在価値とは

IRRを理解するために割引率や現在価値の意味を確認しておきましょう。割引率とは、将来受け取るお金の価値を現在価値に換算する(割り引く)ための利率のことです。お金は、運用によって増えるため「将来と現在でお金の価値は異なる」と考えます。将来価値(n年後)と現在価値、割引率の関係を表したのが以下の計算式です。

  • 現在価値×(1+r)n=将来価値
  • 現在価値=将来価値÷(1+r)n
    ※rは割引率

例えば100万円を5%で運用すると1年後には105万円に増えます。1年後の105万円を5%で割り引いて現在価値に換算すると100万円です。つまり年利5%で運用できるなら現在の100万円と1年後の105万円は価値が同じと判断できます。

IRRと利回りの違い

不動産投資で物件を選ぶときは、表面利回りや実質利回りを確認する人が多いのではないでしょうか。利回りは、投資金額と単年度の収入をもとに計算する指標です。例えば投資金額1億円で年間家賃収入500万円なら表面利回りは5%(500万円÷1億円×100)となります。不動産投資では、収入や支出が年度によって変わるため、通常利回りは毎年一定ではありません。

まとまった修繕費がかかる年もあれば将来家賃が下がる可能性もあるでしょう。また売却時の価格でも最終的な利益は変わってきます。IRRを用いれば投資期間全体(購入から売却まで)の収益性の比較・判断が可能です。

IRRの計算式

IRRの計算式は、以下の通りです。

・C0+C1/(1+r)+ C2/(1+r)2+ C3/(1+r)3+…+ Cn/(1+r)n=0
C0:初期投資額
Cn:n年目のキャッシュフロー
r:IRR

IRRの定義は「投資で得ることができるキャッシュフローの価値と投資額が等しくなる割引率」です。そのため初期投資額と投資で得られる将来キャッシュフローが分かればIRRを求めることができます。

IRRはEXCELを使えば簡単に計算できる

IRRの計算式を見ると「自分で計算するのは難しい」と感じる人もいるかもしれません。しかしExcel(表計算ソフト)のIRR関数を使えば簡単に求められます。具体例として以下2つの物件のIRRを算出してみましょう。前提条件は、以下の通りです。

・どちらも物件価格(初期投資額)は1億円で5年目に1億円で売却する
・どちらも投資期間全体で得られるキャッシュフローは同額

簡易に計算するため、諸費用や税金等は考慮外とします。

物件A物件B
初期投資額▲1億円▲1億円
1年目500万円600万円
2年目500万円600万円
3年目500万円600万円
4年目500万円400万円
5年目(売却)1億500万円1億300万円
IRR5.00%5.08%

投資期間全体のキャッシュフローは同額ですが物件Bのほうが早期に多くの利益を得られるため、物件AよりIRRは高くなっています。IRRを重視するなら「物件Bのほうが収益性は高い」と判断できるでしょう。

IRRのメリット

不動産投資でIRRを使用するメリットは、以下の通りです。

投資期間全体の収益性を把握できる

IRRは、投資期間全体の収益性を把握できることがメリットです。キャッシュフローが不安定な物件や投資期間が異なる物件でも収益性を比較できるため、投資判断がしやすくなるでしょう。不動産投資は、空室になると家賃収入を得られません。修繕費がかかるなど売却時期によってキャッシュフローは変わってきます。

IRRを使えば同じ物件でもさまざまなケースを想定して収益性の確認が可能です。

キャッシュフローの時間的価値が考慮される

IRRは、キャッシュフローの時間的価値が考慮される指標です。投資資金を早期に回収できる案件ほど値が高くなる仕組みで利回りより物件の収益性を把握しやすくなります。

不動産と他の投資商品との比較も可能

IRRは、初期投資額と将来キャッシュフローが分かれば他の投資商品との比較も可能です。例えば不動産投資と株式投資の収益性を比較してどちらの投資方法を選ぶかの判断に利用できます。投資資金が限られている場合は、IRRを使って投資方法を選択するのも一つの方法です。

IRRのデメリット

一方でIRRには、以下のようなデメリットもあります。

投資規模は反映されない

IRRは、投資規模が反映されないのがデメリットです。不動産投資の場合、物件の種類によって投資金額は大きく変わります。中古の区分マンションなら数百万円程度から投資することも可能です。しかし一棟マンションの場合は、物件価格が1億円を超えることも少なくありません。一般的に投資規模が大きくなると得られるキャッシュフローも増えますがその分リスクも高くなります。

不動産投資で物件を選ぶ際は、IRRの値だけでなく投資規模も考慮することが大切です。

収益性を正しく把握できない可能性がある

IRRは、投資から得られる将来キャッシュフローを見積もって収益性を判断します。そのため将来キャッシュフローの見積もりが甘いと収益性を正しく把握できません。空室率や売却時期、売却価格、融資条件など前提条件が変わるとIRRの値も変化します。IRRで投資判断を行う場合は、さまざまなケースを想定し複数の前提条件を設定して将来キャッシュフローを見積もることが重要です。

将来売却する予定がないと算出できない

IRRは、投資期間全体の収益性を測る指標のため、不動産の売却予定がないと算出できません。IRRを使う場合は、長期保有が前提でも売却時期を考える必要があります。

不動産投資でIRRを活用する際の注意点

不動産投資でIRRを活用する際は、以下の点に注意しましょう。

IRRが高い物件がよいとは限らない

IRRは、数値が高ければ高いほどよいわけではありません。例えば築年数が古い木造アパートなど短期で減価償却ができる物件は、投資初期のキャッシュフローが大きくなるため、IRRも高くなる傾向です。一方でキャッシュフローが安定していても投資資金の回収に時間がかかる物件は、IRRが低くなることがあります。

IRRは、低くても長期にわたって安定した家賃収入が期待でき資産価値が下がりにくい物件なら投資するメリットはあるでしょう。

借り入れを利用するとIRRは高くなる

借り入れを利用して少ない自己資金で投資をするとIRRは高くなります。投資効率は向上しますが多額の借り入れは、リスクとなりかねません。空室などで家賃収入がなくなり手元資金が不足すると借入金の返済に支障が出る恐れがあります。IRRが高いことは、決して悪いことではありませんがリスクの取りすぎには十分に注意しましょう。

まとめ

IRRは、キャッシュフローの時間的価値を考慮した指標で投資期間全体の収益性を把握できることがメリットです。計算式を見ると複雑に感じてしまいがちですがExcelのIRR関数を活用すれば簡単に算出できます。不動産投資で物件を選ぶ際は、投資判断の一つとしてIRRを積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか。

(提供:YANUSY

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