魔の川・死の谷・ダーウィンの海が生じる原因

魔の川・死の谷・ダーウィンの海が生じる原因は、主に以下の通りである。

<3つの障壁が生じる主な原因>

【魔の川】
・競合他社や競合商品の存在
・消費ニーズの変化
・研究開発のスピード

【死の谷】
・誤った方向性での顧客分析
・社内コミュニケーション不足による予算不足
・現場のモチベーション低下

【ダーウィンの海】
・消費ニーズの読み違い
・強力な競合他社の存在
・顧客からの要望の軽視

3つの障壁を乗り越えるには、魔の川・死の谷・ダーウィンの海の原因を突き止めて、それぞれの対策を考えることが必要になる。ここからは、新型の小型パソコンを市場投入する企業を例に、各障壁の原因や仕組みを解説しよう。

魔の川が発生する原因

魔の川の主な原因には、「競合他社や競合商品の存在」「消費ニーズの変化」「研究開発のスピード」の3つがある。以下では、競合の存在や消費ニーズの変化によって魔の川に直面する例を紹介する。

<魔の川の例>

パソコンメーカーであるA社は、これまでにない小型商品の開発を目指した。海外から膨大な数の部品や半導体、他社商品などを取り寄せながら、A社は最先端の研究開発を進めていく。
しかし、小型化を実現する技術がなかなか見つからないまま、消費者の興味はさらに小さなデバイスであるスマートフォンに向き始めた。このタイミングでA社はプロジェクトを諦め、それまで費やしてきたコストや労力が無駄になってしまった。

技術経営の世界では、多くの企業がイノベーションを目指してしのぎを削っているため、いつの間にか代替商品にシェアを奪われるケースが多い。また、プロジェクトの開始時点で競合が存在しなくても、研究開発のスピードが遅いと市場が飽和状態になることもある。

上記の例では、スマートフォンよりも早く小型パソコンを市場投入できれば、採算がとれるプロジェクトになる可能性があった。

死の谷が発生する原因

死の谷が発生する主な原因は、「誤った方向性での顧客分析」「社内コミュニケーション不足による予算不足」「現場のモチベーション低下」の3つである。まずは、顧客分析が原因となる例を紹介しよう。

○死の谷の例1

パソコンの小型化を実現したA社は、その技術に自信をもってテスト販売を開始。他社にはない最先端の技術であったため、市場や顧客のニーズは分析しなかった。

結局、興味を示す顧客は現れず、テスト販売は1台も売れずに終了した。

消費ニーズを軽視すると、提供すべき価値の方向性がズレてしまうことがある。いくら目新しい技術であっても、ニーズと結びつかないものでは売上を見込めない。

次に、予算不足によって死の谷に直面する例を紹介する。

○死の谷の例2

パソコンメーカーA社の従業員は、ふとしたタイミングで商品を小型化させる技術を思いついた。魅力的な商品をなんとか実現しようと開発を本格化するが、会社から十分な経営資源が投入されない。

このような状態が続いた結果、同じ技術を商品化に結びつけた競合他社が現れ、消費者ニーズをすべて奪われてしまった。

予算不足によって死の谷に落ちる現象は、社内のコミュニケーション不足が要因となる。一部署の従業員が魅力的なアイデアを出すケースは珍しくないが、経営トップと新規事業担当者が十分なコミュニケーションを取らないと、的確な投資判断は難しくなってしまう。

最後に、現場のモチベーション低下が要因となる例を見てみよう。

○死の谷の例3

パソコンの小型化技術を開発したA社は、商品化をするために本格的な開発段階へと移った。しかし、技術をデバイスに反映させることが難しく、小型化をするにあたって画質などの新たな問題が生じてしまう。

この新たな問題が解決しない状態が3年ほど続き、A社の開発担当者はモチベーションを失ってしまった。

いくら優れた技術やノウハウがあっても、その成果が長期間現れなければモチベーションを保つことは難しい。特に新たな問題が発生すると、まるで後退したように感じてしまう従業員も多いはずだ。

このように、”成果の不在”は従業員のモチベーション低下を引き起こし、最終的には会社が死の谷へと落ちることにつながる。

ダーウィンの海が発生する原因

ダーウィンの海が発生する原因としては、「消費ニーズの読み違い」「強力な競合他社の存在」「顧客からの要望の軽視」が挙げられる。まずは、消費ニーズを読み誤った例から紹介しよう。

○ダーウィンの海の例1

小型パソコンの商品化に成功したA社は、さっそく新商品を市場へと投入する。しかし、小型パソコンの必要性や利便性はまだ認知されておらず、興味を示す顧客がほとんど現れなかった。

数年後、小型パソコンの需要はある程度伸びたものの、競合の参入もありプロジェクトは赤字に終わってしまった。

時代のニーズを読み誤ると、市場が立ち上がっていない状態で製品を投入してしまう。大きな売上を期待できないどころか、競合他社にヒントを与えるリスクもあるため、市場投入のタイミングは慎重に判断しなければならない。

次に、競合他社が障壁となる例を見てみよう。

○ダーウィンの海の例2

新商品の小型パソコンをリリースしたA社は、一時的に業界トップクラスのシェアを誇るようになった。しかし、豊富な経営資源をもつB社が本格的な開発に乗り出し、A社よりもさらに小さいデバイスを開発する。

結局、シェアの大部分をB社に奪われてしまい、A社は同プロジェクトから撤退することになった。

経営資源が豊富な企業は、分析力や開発スピードが優れている。自社に落ち度がなくても、一般的な中小企業では対応することが難しい。このような状況下で生き残るには、経営資源とは違った角度から強みを構築する必要がある。

最後に、顧客からの要望を聞き入れなかった例を紹介する。

○ダーウィンの海の例3

パソコンの小型化に成功したA社は、自信をもって新商品をリリースした。最初の売れ行きは良かったが、次第に顧客から「別のカラーがほしい」「新たな機能を追加してほしい」などの要望が出始め、少しずつ売上が減少していった。

自信のあるA社はこの要望にほとんど応えず、同じモデルを販売し続けた結果、会社としてのブランド力も失ってしまった。

この例でA社がプロジェクトを成功させるには、顧客の要望を聞き入れてモデルチェンジをする必要があった。現代のビジネス市場は移り変わりが激しいため、A社のように変化に鈍感な企業は時代に取り残されてしまう。