サンクコスト効果を活用したマーケティング事例3つ
サンクコスト効果は、消費者の「もったいない」という考え方にアプローチできる手法であり、経営マーケティングにも活用できる。ここでは、サンクコストに関するマーケティング活用事例を紹介する。
サンクコストの活用事例1.無料体験版の提供
ITツールやサブスクリプションサービスでよく見られる無料体験期間の設定は、サンクコスト効果を活用したマーケティング手法だ。
サービスの利用に1ヵ月などの無料使用期間を設ける。無料使用期間で利便性を感じてもらい、無料期間終了後に有料サービスに移行してもらうという流れだ。
結果的に有料サービスへの契約が必要なので、消費者は費用面のメリットを感じづらいと思うかもしれない。しかし、無料期間でサービスが消費者に欠かせない存在になれば、お金を支払ってでも快適さを手放したくないと感じるのである。
サンクコストの活用事例2.会員ランクの変動
楽天市場やYahoo!ショッピングなどのネットショッピングサービスでよく見られる手法が会員ランクだ。
特定の期間や一定の金額までサービスを利用すると、会員ランクがアップする。その結果、商品の割引率が高くなったり、対象セールに参加できたりするなど、会員ランクに応じた特典を得られる。
会員ランクは、継続的に条件を満たさないと下がるように設定されている。これまで費やしたコストに見合うサービスを受けたいという意識を働かせ、継続的な購入につなげる仕組みだといえよう。
サンクコストの活用事例3.入会金の設定
入会金の設定は、スポーツジムなどでよく見られるマーケティング手法だ。サービスの契約時に入会金が設定されると、支払った入会金分だけでもしっかり元を取ろうとする顧客もいる。
月額制の契約サービスなどを一定期間利用した場合、その期間に支払ったコストが無駄になるのを恐れて契約を継続することもある。
サンクコストが発生してしまう心理的理由3つ
サンクコストは取り返すことができないコストのため、期待したほどの効果や利益を得られなければ投資をやめるのが合理的だ。それにもかかわらずサンクコストが起きてしまうのには、3つの心理的な理由がある。
1.損失を回避したいから
含み損を損失として確定させることを回避したい心理が働き、サンクコスト化してしまうことがある。
事業や金融商品などに投資する場合、最初から利益を得られるとは限らない。しかし、想定以上に損失が膨らむと損切りができなくなり、含み損として抱えたまま収益化を果たすまで待ち続けたり、追加でリソースを投入して損失を拡大させたりしてしまうことがある。
2.楽観主義的な思考があるから
たとえ一時的に含み損になっていたとしても、いずれ収益化できるだろうという楽観主義的な思考が原因でサンクコスト化することもある。
たとえば、新製品を開発して市場に参入したものの、パンデミックのような突発的な外的要因で期待した収益が得られなかったとする。自社以外にも幅広い業界で同じような影響を受けているため、危機意識が薄れて楽観的な気持ちが働き、いずれは元に戻るだろうと製造や販売を継続してしまうことがある。
しかし、消費者の価値観の変化によって需要が戻らなければ、サンクコスト化して損失を拡大させてしまうだろう。
3.投資を無駄にしたくないから
これまでの投資を無駄にしたくないという心理でサンクコスト化することは少なくない。
コンコルド計画が代表的な例だが、新製品開発のために設備投資はもちろん人的コストも膨らみ、ステークホルダーが増えて計画が大きくなるほど、最低でも投資回収を果たさなければならないという心理が働きやすい。
途中で計画を止めれば、これまで投下した資金や時間などのコストは全て無駄になると感じてしまい、非合理的な判断をしてしまうのだ。