日常でも仕事でも、人が何かを判断するシーンに直面した時に、リスクを覚悟の上で変化を求めるケースは極めて少ない。多くの場合は危険を避けて、現状維持を選択する。多くの人が抱くこうした心理効果は「現状維持バイアス」と呼ばれる。現状維持バイアスとは、決してネガティブにとらえるべき心理ではないが、ビジネスの局面においては、現状維持バイアスが負の方向に作用する可能性がある。では、それを回避するためのポイントは何か、ここから現状維持バイアスの本質に迫ってみよう。
目次
現状維持バイアスとは?
現状維持バイアスとは、「Status Quo Bias(ステイタス・クオ・バイアス)」としてアメリカを中心に認知されている心理的概念である。本来バイアスとは「偏見・先入観」などの偏った見方を表す言葉であり、現状維持バイアスは現在の状態を維持する方向に働く、人が潜在的に持っている心理的効果と言えるだろう。
ただし、まだ日本では現状維持バイアスという考え方が、広く認知されているとは言い難い。そこで最初に、アメリカでの分析記事をもとに、現状維持バイアスの基礎と定義について解説する。
現状維持バイアスの基礎的分析
現状維持バイアスとは、意識面での傾向・誤認識や心理面での責任など、複数のバイアスが関わり合うことで生じる。さらに現状維持バイアスには、人間が本質的に持つ変化を避ける特性が大きな影響を与える。
例えば我々が何かを選択すべき状況に直面した時、選択肢の中から最もリスクと変化が大きいものを選ぶことは、ほとんどのケースでありえないだろう。通常なら現在の状況の延長線上にあり、その状況を長く維持できる選択肢を選ぶはずだ。
しかも、より効率的で優れていると感じられる選択肢があっても、過去に実際に体験した事実にもとづき、心理的に安心できる選択肢を選ぶ。具体例として投資家の心理を考えてみよう。
投資の世界では日常的に多くの選択肢に直面するが、経験豊かな投資家でも、実際に投資先を選ぶ時には現状維持バイアスが起動する。他に多くの投資先があるにもかかわらず、投資家は無意識に現状維持を基準に投資先を選ぶのである。
こうした事例は日常生活でも、いたるところで見られる。服を選ぶ時、試験の問題に答える時、自動販売機の前に立った時など実例には事欠かない。このバイアスの裏にあるのは、コスト面でのリスクや失敗を避けたいという心理である。つまり現状維持バイアスを乗り越えるとしたら、新たな成功体験を手に入れるしかないとも言えるだろう。
心理学、行動経済学との関連性
現状維持バイアスはその性質から、心理学や行動学により分析されることが多い。こうした学問分野では、合理性や先行経験、損失や後悔という要素をもとに現状維持バイアスを解説している。
例えば、過去の体験を先行経験として定義し、さまざまな選択肢に対して先行経験がポジティブな場合、現状変更よりも現状維持のほうが損失や後悔が少ないと判断されるため、現状維持バイアスが働くと紹介されている。この状況では、合理的な意思決定の余地は少ないという。
現状維持か現状変更かという選択肢の前では、人は合理的思考に頼らず、現状を変えた場合に失うかもしれない物事を踏まえ、損失と後悔を事前に回避することを選ぶ。これが、現状維持バイアスが働く基本的な仕組みと考えてよいだろう。