現状維持バイアスのビジネス分野への活用
多くの人が現状維持バイアスに影響されることを利用して、効率的なビジネス・モデルを作ることも可能である。顧客との契約関係を結ぶのであれば、契約更新時には自動的に同様の内容に更新できるようにしておくと、安定的に顧客数を維持できるだろう。携帯電話の契約を例にとっても、他社に乗り換えるより同じ会社の携帯を使い続けるほうが、圧倒的にユーザー数が多いのである。
その他にも、現状維持バイアスを活用する戦略としてよく知られている手法には、次のようなものがある。
サブスクリプションサービスでは、初月無料とすることでユーザーがサービスを試し、損失回避の心理から解約せずに継続する可能性が増す
メルマガの配信では、登録時に配信許可を得ておくことで、ユーザーはあとで解除する手間を面倒に思って回避する傾向にある
おすすめプランの自動選択も現状維持バイアスを巧みに活用した例だ。ユーザーは、デフォルトで選択されたプランに特に大きな不満がなければ、そのまま変更することなく契約する可能性が高まる
これらの方法は、いずれも現状維持バイアスの心理を利用して顧客の行動を予測し、ビジネスの継続的な利益を図るものである。
さらに人材確保の点でも、現状維持バイアスを逆手に取ることができる。転職のリスクにより失うものと、現在の職場で継続的に働くことのメリットを対比して、それを従業員に認識してもらえば、貴重な人材を失う危険性を減らすことができるだろう。
バイアスは誰にでもある自然な心理
なかなかチャンスをモノにできないという場合には、自身が何らかのバイアスに影響されていないか、一度疑ってみたほうがよいかもしれない。選択肢が重大になればなるほど、我々は失敗した時の損失を恐れる。その結果さまざまなバイアスが融合して、現状維持バイアスが起動するのだ。
しかし、これは決してマイナスに働く心理作用ではない。現状維持バイアスを排除して、自ら危険な賭けに出られる人は、全体から見ればほんのわずかに過ぎない。我々は自分の中にある複数のバイアスにより、危険から守られているとも言える。ただし、大きなチャンスを手に入れたいと思ったら、時にはバイアスを外してみることが必要なのではないだろうか。
現状維持バイアスに関するQ&A
Q. 現状維持バイアスの例は?
A.「昼食をつい同じ飲食店で、同じメニューで済ませてしまう」といった行動は、冒険をして失敗するよりも慣れ親しんだものを選択する現状維持バイアスの典型例だ。
Q. 現在志向バイアスと現状維持バイアスの違いは?
A.現在志向バイアスとは、将来的により大きな利益を得る可能性があるにも関わらず、目先の小さな利益を優先する心理状態だ。一方、現状維持バイアスは、行動や変化によって状況が改善する可能性があるにもかかわらず、失敗を恐れて新たな行動を起こせない状態を指す。
Q.現状維持バイアスを克服する方法は?
A.まずは、現状維持バイアスを認識し、自己理解を進めることから始める。現状維持バイアスの認識には、第三者の視点やツールなどの活用が有効だ。また、変化は少しずつ行い、変化への抵抗感を下げることも有効な方法である。