現状維持バイアスのメリット・デメリット

現状維持バイアスには、マイナスのイメージが強いが、その一方でメリットもある。現状維持バイアスのメリットとデメリットについて解説しよう。

現状維持バイアスのメリット

現状維持バイアスを選択することで、既存のプロセスや製品に対する変更によるリスクやコストの増加を回避できる点は、メリットの一つといえる。現状維持バイアスは、特に不確実性が高い状況や過去の選択が成功している場合に有益だ。また、変化に伴う不安や抵抗感を低減し、組織内の調和を保つ役割も果たす。

現状維持バイアスのデメリット

現状維持バイアスは、変化に対する閉鎖的な姿勢を強化し、競争優位を確保するための革新や改革の機会を逃すことがある。新技術や業界のトレンドを取り入れることの遅れは、組織の長期的な成長機会を損なう可能性があり、市場での立場を弱めることにつながりかねない。また、内部の問題に対する認識不足を招き、必要な改善が遅れることもデメリットだ。

現状維持バイアスの具体例

我々のほとんどは、慣れ親しんだものに執着する傾向が強く、日常生活や仕事上でも大きな変化を好まない。そのような観点から、ここでは日常的に起こりうる現状維持バイアスの具体例を見てみよう。

日常生活における現状維持バイアス

・慣れ親しんだものを選択する
通勤通学時にいつも同じ道を通り、電車やバスでも毎回同じ席に座るなど、日常の小さな選択でも「慣れ親しんだものを選択する」という現状維持バイアスが働いている身近な例だろう。

また、ドイツのある街では、工業地帯の拡張により住民がすぐ近くのエリアに移住を迫られた。新しい居住地では、住みやすくするためのさまざまなプランが提案されたが、住民が選択したのは移住前の街とほとんど変わらないレイアウトだったという。

・新商品を受け入れられない
アメリカでコカ・コーラ社が、新しいコーラを開発した時に、事前のテストでは多くの消費者が新商品の味を好んだ。しかし、実際に新旧2つの商品を売り出してみると、かなりの割合で消費者は旧タイプのコーラを選択したという。これは、「新商品を受け入れられない」という現状維持バイアスの結果だといえる。

・損失や失敗を回避した
とある移動販売の自営業者は、こだわりのたこ焼きを一風変わった名前で売り出したが、売上は全く伸びなかった。しかし、同じ商品を「大玉たこ焼き」とシンプルにしたところ、一転して非常に繁盛したそうだ。同じ商品だが「なじみのない名前は回避する」というこの現象には、「新商品は受け入れられない」という気持ちとともに「損失や失敗を回避したい」という心理も働いていると考えられる。

こうした具体例を挙げればきりがないが、普段の生活の中で誰もが経験する購買活動、資産運用、恋愛などでも無意識のうちに現状維持バイアスが働く場合がある。むしろ現状維持バイアスが生じないケースのほうが、ずっと少ないかもしれない。

ビジネス分野での現状維持バイアス

ビジネス分野で最も重大な選択肢、それは企業経営に関わる判断になるだろう。今後の経営方針を策定する時、取引先を開拓する時、事業開拓をする時など、あらゆるシーンで経営者は現状維持バイアスを体験するはずである。

新規事業開拓よりも、これまでの事業分野に留まりがちになっていないだろうか。損失や失敗を回避するあまりに「思い切った事業転換ができない」といった場面もあるだろう。

特にマーケティングでは分析と判断を迫られるケースが多く、思い切った判断が必要になるかもしれないが、多くの経営者や経営陣は現状維持を選択すると考えられる。また、何に投資をするべきか、資本投下でも損失を避ける傾向が強いのではないだろうか。

一方、企業で働く従業員に関しても、なるべく転職などによるリスクを回避して、同じ企業内で仕事を続けたいという傾向が強いと考えられる。これも現状維持バイアスの現れであろう。

しかし、現状維持だけでは会社としての発展は見込めない。少子高齢化や為替市場の変動など、さまざまな外的要因によって、現状維持からの脱却をせざるを得ないケースも多いのではないかと推察される。